本当にこの人で大丈夫? 『ブギウギ』三浦獠太演じる新米マネージャーが担う役割

『ブギウギ』(NHK総合)第105話が2月29日に放送された。山下(近藤芳正)に連れられてスズ子(趣里)の家の門をくぐった青年は、どこか憎めない雰囲気をまとっていた。

新マネージャー候補の名前は柴本タケシ(三浦獠太)。山下の甥っ子のタケシは「人生をかけて打ち込める仕事は何かないものかと求職中でした」と打ち明け、「やる気あります!」と元気いっぱいに返事した。

山下が連れてきたのは経験豊富なベテランでも、業界に通じた敏腕マネージャーでもなく、ましてや女同士気兼ねなく話せる相手からほど遠い、親戚の若者。いったい山下は何を考えているのかと、スズ子の脳内は疑問符でいっぱいになったことだろう。

山下の引退はトミ(小雪)が逝去したことがきっかけだが、「なぜ辞めるのか」という問いに対する答えは「スズさんはこれからの人と仕事をすべきやと思うんです」だった。これからの人≒甥≒素人のタケシ、ほんまかいなである。「なんも経験のない子をいきなりマネージャーにするやなんて」と思わず本音が口をついて出た。

見たところタケシは良い人間ではありそうだ。愛子(小野美音)にせがまれて肩車をするタケシは、子どもにも分け隔てなく接するパーソナリティの持ち主で、きっと良い遊び相手になってくれるはず。……ではなくて、必要なのはマネージャーである。公演を控えた大事な時期に、スズ子がステージに集中できるように支えるのが仕事だ。

不安要素しかないタケシだが、山下のたっての願いでスズ子はしぶしぶマネージャーとして迎え入れた。山下が言った「調子のええところはありますが」という言葉が気にかかるが、スズ子に対する受け答えもハキハキして、羽鳥(草彅剛)の前でも礼儀正しい。音楽にもくわしそうだし、これならマネージャーも務まると思われたが……。

山下は以前からマネージャーを退くことを考えていた。スズ子と愛子を支えると愛助(水上恒司)に約束し、老体に鞭打って尽くしてきた。喜怒哀楽に富んだスズ子を、時になだめたり、役者の適性を見抜いたのも山下だった。娘と孫のような二人を愛助に代わって見守ってきたのだ。いつまでも続けられる仕事じゃないことは山下自身がわかっていた。

後々のことを山下は考えていたと思う。スズ子が芸能の道で活躍し続けるために何が必要なのか。実績は十分で、子育てを通じて人間的に成長しているスズ子は、自ら望まなくてもいずれ周囲から頼られる存在になる。その時にあわてないように、今から準備しておこう。原石のような若者とぶつかり合うことで、スズ子に自覚が芽生えると山下は考えたのではないだろうか。

大野(木野花)と山下は近しい人を亡くした悲しみを語り合う。山下はスズ子について「一緒におったらなんでか元気になる。スズさんというのはなんや不思議な力がある人です」と話す。誰かを元気にしようとする人と生きることで、自分も人のために一生懸命になり、辛いことも乗り越えられる。名優の二人が人生の真実を伝えていた。
(文=石河コウヘイ)

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