『相棒』右京が叫んだ“大人の責任” 点と点がつながる警察内でのパワハラ事件

「この取り調べが僕にとっての勝負です」

連続爆破事件の犯人を名乗って自首してきた山田(中川翼)は、目の前の右京(水谷豊)を睨みつけながらこう言った。『相棒 season22』(テレビ朝日系)の第18話。まだ20歳にもなっていない少年は、一体何に勝とうとしていたのだろうか。

城北中央署に出頭してきても、抵抗する素振りを見せず、そのまま逮捕された山田だったが、右京以外とは一切話すつもりはないと主張し、取り調べ官に指名。山田は、右京とチェスで互角に勝負できるIQ150の天才少年。右京の追及に対しても挑発的な態度で応じるだけで、本当の目的を明かそうとしなかった。一方、亀山(寺脇康文)は、第二の爆破事件の被害者が、城北中央署の元警察官だと判明したことを受け、何か隠している様子の副署長を追及するが、かわされてしまう。同じ頃、第一の爆破の標的となった市長の山田征志郎(升毅)は、一連の事件を受け、危機感を募らせていた。そんな中、山田と共謀していると思われる本城(吉田日向)が、再び不穏な動きを見せる。

本城は、今度は城北中央署の職員寮の一部を爆破。右京たちは事件を防ぐことはできなかった。だがその後、第二の被害者が後輩警察官に度を超えたパワハラをしており、その警察官が自殺していたことを亀山が突き止めた。山田と本城、そしてその後輩警察官は同じ児童養護施設の出身だったのだ。こうして一見、繋がりのないように見えた山田と事件はひとつに繋がった。

征志郎は、事件に大きく関わっている城北中央署で署長をしている息子に心配になって電話をかけた。征志郎は市長として長年、市民から信頼され、次は都知事選に立候補するのではないかと噂されている人。それだけにこの小さな行動からも「思いやりを持った、しっかりしている人」という印象を受けた。しかし、その息子は、実はパワハラを受けた警察官が児童養護施設の出身だと知ると本人に向かって「施設で育ったって言ってたね。だから常識がないんだね」と言ってしまうような人間だった。

このような自分より弱そうな人間を見つけては見下し、何をしてもいいと思っている大人たちは、残念なことにたくさんいる。本城も勤め先の先輩からひどいことを言われたり、あわや殴られそうになったりしている。そんな中で光るのが、右京や「トリオ・ザ・捜一」の言動だ。芹沢(山中崇史)は自殺した警察官の同僚から署長のことを聞くと「施設で育ったから常識がない? あの署長のほうこそ非常識でしょ」と伊丹(川原和久)と一緒になって顔をしかめ、憤った様子を隠さなかった。また、人生に絶望し、最後は自殺をはかろうとする山田に右京は「罪を償えば、必ずやり直せます」と声をかける。でも大人をほとんど信用してこなかった山田には響かず、逆に綺麗ごとだと返されてしまう。それでも「綺麗ごとでも信念を伝えることは大人の責任です」と右京は体を震わせながら叫んだ。

どんな人が親か、どこで育ったかというのは人格形成に重要ではあるが、すべてではない。それは、人格者であろう征志郎から生まれたはずの息子の姿を見れば明らかだ。右京も小さい頃は、山田と同じようにひとりぼっちであったと言っている。それなのに右京と、犯罪を犯してしまった山田は大きく違う。自分で行動を選べるようになってから、どんな人と交流し、何を考え、何を信念とするのかを決めることが生きていく上では大事であることを、右京は自身の姿を通して教えてくれていた。山田の周りにもっと右京たちのような大人がいれば、と思わず考えてしまう。

事件は無事に解決したが、右京の心はなかなか晴れない。山田とはじめて出会った日のように雪が降っていた夜。特命係の部屋でひとりチェスに興じる右京の顔は、なんだか悲しく見えた。少年に道を示すべき大人として、力及ばずだったことを嘆いていたのだろうか。

(文=久保田ひかる)

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