高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ なぜ万博は儲かり、2億円トイレは「高くない」のか

万博は、広い意味での公共事業だ。そこで、その投資の経済効果(便益)を考えてみよう。過去の万博の事例から、会場建設投資額に対する会場運営・消費支出需要誘発額の比率は3.9倍とされている。これは、2020年当時の推計であるので、その当時で会場運営・消費支出は7000億円程度だ。その場合、大阪府内の万博開催による経済波及効果は1兆1000億円程度になる。要するに、当初の建設投資からの経済効果は6倍程度だ。かなり効果的な投資案件だ。

多くの便益あれば、実は多少のコスト増は問題でない

建設費が上振れしても、誘発額の比率はあまり変化しないので、経済効果はそれだけまず可能性がある。仮に、建設費だけアップになったとしても、まだ投資効率の高い案件であることは否定できない。

投資を批判するのであれば、コスト増だけでなく投資効率を批判すべきだ。投資に見合う経済効果がないのであれば投資はやめるべきだが、あるのであれば投資を行うことに何ら問題ない。

実のところ経済波及効果は万博開催に伴う直接的なものだけを取り上げており、さらに、間接的な誘発効果を足し合わせると、2兆円以上になる。

これだけの便益があれば、実は多少のコスト増は問題でない。しかし、一つのことだけしか頭に入らない人がいいので、コストのみをマスコミは取り上げる。しかも、コストの見せ方として最初に小さい数字をいうので、それが増えるとダメだという風潮になりがちだ。初めからコストは2兆円以内といっておけば良かった。

有望な投資機会を逃すのはもったいない話

このように便益とコストとの関係で論じるという立場から、今話題の2億円トイレを取り上げよう。

トイレの便益を考えてみよう。中世パリのように、どこでも糞尿を垂れ流すわけにもいかないので、もしトイレがなければ1時間かけて用を足すしかない。万博の開催期間中の入場者数は2800万人と見込まれているが、これを2000万人としてみよう。トイレを使う人を半分として1000万人、その人の平均時給が2000円とすれば、会場全体のトイレの便益は200億円になる。2億円トイレはその一部だろうが、2億円トイレを100か所、便器5000~6000基作ってもおかしくない。

もっとも、コスト論だけで見ても、一般的な公衆トイレは便器6基で2000万円が相場なので、今話題の2億円トイレは50~60基、しかもリサイクル使用なので、コストは妥当だ。

コスト増だけで、有望な投資機会を逃すのはもったいない話だ。デフレ時代が長すぎたのか、まともな投資をすることを忘れたかのようだ。大阪万博は日本にはまだ投資機会があることを思い出し、拡大志向になるきっかけにしたらいい。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

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