インターネット広告費、なぜ過去最高を更新? 背景に見逃し無料配信動画サービスなどの充実

電通は2月27日、「2023年 日本の広告費」を発表した。日本全体では広告費は7兆3167億円。前年比3%増という結果となっている。

2022年には過去最高となる7兆1021億円を記録した日本の総広告費だが、今年はさらにそれを上回る額となり、記録を更新。広告費の大半は新聞・テレビ・雑誌・ラジオで展開された広告の「マスコミ四媒体広告費」、Webサイトや動画配信中の広告の費用をカウントした「インターネット広告費」、イベントや展示、交通機関での掲示や折込チラシといった広告である「プロモーションメディア広告費」の3つに分かれる。このうちマスコミ四媒体が31.7%、インターネットが45.5%、プロモーションメディアが22.8%という割合になっている。

マスコミ四媒体の広告費は前年比96.6%の2兆3161億円。ラジオや雑誌は前年と比べて微妙に伸びたものの、全体では2年連続の現象となっている。一方でインターネット広告費は前年比107.8%の3兆3330億円。堅調に伸び続けており、特に動画広告の好調さが目立った。一方でプロモーションメディア広告費は前年比103.4%の1兆6676億円。2022年に比べるとじわりと伸びた結果となっている。

全体を見ると、新型コロナウイルスの5類移行が大きく影響したと言えるだろう。2019年に6兆9381億円だった総広告費は、2020年に6兆1594億円へと大幅ダウン。しかし3年をかけて徐々に回復し、2023年には過去最高の記録を叩き出すことになった。

特に影響が顕著だったのが、プロモーションメディア広告費である。コロナによってイベント自体の開催が不可能になり、また人流が途絶えたことで屋外広告の出稿自体が難しくなった。結果2019年には2兆2239億円だった広告費は2020年には1兆6768億円へと落ち込み、2023年の1兆6676億円という数字も、立て直しが進みつつも完全に復活したものではないことがわかる。

少し意外なのが、インターネット広告費が堅調に伸びている点だ。と言うのも、近年Web広告に関しては明るい話題が少なかったのである。アドネットワークを介して配信される広告に妙なものが多数紛れていたり、YouTuberの収入が下がったという報道があったり、海外ではBuzzFeedのニュース部門であるBuzzFeed Newsが収益化に失敗して閉鎖するなど、「Web広告は頭打ち」「広告を見せて収益を得るサイト運営は行き詰まりかけている」という意見が多く聞かれたのが2023年だったのだ。

しかし、日本においてはインターネット広告が前年比107%の伸びを記録している。これに関しては単純なWebサイト掲載の広告以外の部分、具体的にはマス四媒体由来のデジタル広告費のうち、ラジオとテレビの広告費が伸びているという理由がある。

「マス四媒体由来のデジタル広告費」とは、新聞・テレビ・雑誌・ラジオの四媒体が運営しているWebメディアに投下された広告費のことである。マス四媒体のWebメディアであっても、デジタル広告であればインターネット広告媒体費に含まれるのだ。そのうち、新聞デジタル広告費は前年比94.1%のマイナス成長、雑誌デジタル広告費は前年比100.2%でほぼ横ばいとなった。

一方で伸びているのが、テレビとラジオのデジタル広告である。radikoなどラジオ由来のWebメディアでのデジタル広告費は前年比127.3%の成長率。さらにテレビメディア関連のデジタル広告費は前年比126.6%の成長率となっている。オールドメディアというイメージも強い近年のテレビとラジオだが、その活動領域をWebに伸ばした結果、広告費が毎年前年を上回る勢いで流れ込み続けているのである。

特にテレビ由来のWebメディアに関して言えば、見逃し無料配信動画サービスなどの充実が大きい。時間や放送エリアの制限なしでテレビ番組を見られるこれらのサービスが近年多くの視聴者の支持を得ていることが、広告費の伸びからも見えてくる。また、インターネットテレビサービスでもコンテンツの選択肢が増えており、そこに広告費が流れ込んでいることがわかる。

Webでの音声メディアについても、企業の注目度が上がり続けていることがわかる。Podcastなど音声メディア配信はインターネットでは長年親しまれてきたが、近年はツイッターのスペース機能など選択肢が増え、またradiko利用者は2016年の4.6%から2022年の10.6%へ増加するなど、音声配信への関心は高まり続けている。広告費の増加は、この状況を受けてのことだろう。

こうしてみると、広告費という面ではWebにおいてもレガシーメディアが運営するサービスが伸びていることがわかる。このことは、既存のWebサイトの収益化が難しくなっていたり、YouTuberの収入が伸び悩んでいることと矛盾しない。「皆が知っている、親しみやすくて荒削りな要素がない、ウェルメイドなコンテンツ」が本格的にWebに参入し、コロナ禍によってそれらのコンテンツに対する需要が急増、その状況に広告費がついてきた……という状況のように思う。

書いてしまうと身も蓋もないが、しかし動画配信サービスとテレビ番組の配信サービスがこれだけ身近なものになったということは、そこに付随する広告もまた存在感を増すということでもある。その一方で、広告の質が落ち収益化が難しくなり続けるテキストベースの従来型Webメディアがレガシーな存在になる日は、意外に早いのかもしれない。思わずメディアの栄枯盛衰に思いを馳せてしまう、2023年の広告費なのだった。

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