『フリースタイル日本統一』#19ーー「大谷 SHO-TIME」に「打ち返す村上さん」野球ネタの応酬に

2023年10月より放送中の『フリースタイル日本統一』(テレビ朝日/ABEMA)。同番組では、全国16地区で活躍するラッパーが3名1組となって、それぞれの地元の威信を賭けてフリースタイルバトルに挑戦。勝利チームは敗退チームから好きなラッパー1名を吸収し、最終的に日本統一を果たすと、その暁として賞金100万円が贈られる。

以下より、2月27日に公開された【#19】のハイライトを振り返っていく。細かなネタバレもあるためご注意いただきたい。

・KANDAI v.s. Sirogaras……審査員が“延長”か“6人目の審査員”求めた互角の戦い

前回の【#18】に引き続き、TEAM東海(呂布カルマ×泰斗a.k.a.裂固×楓×KANDAI×歩歩)とTEAM兵庫(CIMA×P-PONG×Sirogaras×FEIDA-WAN×だーひー)が、準決勝(五十万石の戦い)で対戦中。KANDAIが破竹の勢いで3連勝を見せつけたのが、前回の【#18】。独壇場をなんとか崩すべく、TEAM兵庫はここまで温存していた、黒星ゼロの若頭・Sirogarasをいよいよ投入するほかない状況に。先攻は、Sirogaras。ビートは、MACCHO, NORIKIYO, 般若& DABOによるクラシック「Beats&Rhyme」。この番組で全国に名を知らしめた、“若手頂上決戦”の火蓋が切って落とされた。

Sirogaras:姫路を飛び出し中国 飲み込み九州を吸収 それだけだ 全てをレペゼンここにいる ここで諦めるバカどこにいる

KANDAI:諦めるわけがねぇ Beats&Rhyme まずは喫煙タイムでナイスなChillお前がSirogaras 俺は黒いカラス FKIヤバいって俺が分からす

Sirogaras:お前「煙はいらない」とか言ってんのにSmoke 嘘つき どうもお疲れ お前を殺すぜ テクニカル 俺が本物これで煙に巻く お前はそういう感じ 全て消えるぜ 蜃気楼

KANDAI:分かってるお前が分からしてるスキル でも俺の方がGoodな Smelll

Sirogaras:スキルじゃなく覚格が歴然 負けたらオカンに顔向けできへん

KANDAI:くそったれた現状 ガサ入って母ちゃんも泣かせたこともあったよ HIP HOPをやって母ちゃんを泣かした分 HIP HOP Dream 掴んで母ちゃんを笑わす

最後には、ハンドシェイクで終わったバイブスのぶつかり合い。上記のハイライトだけでも伝わるかと思うが、実力が拮抗した疑うことなき互角の対決だった。通常の大会であれば、間違いなく延長にもつれこんでいたはず。そんな感想をバトル後、審査員のGOCCIも“延長ボタン”か、延長の展開を作れる“6人目の審査員”を追加してほしいと、同じように代弁してくれていたのが面白い。

また、“若手”という話であれば、控えベンチに座る泰斗a.k.a.裂固や楓の姿も印象的だった。対戦チーム側であるSirogarasのラップに対して、まるで自身がステージに上がっている張本人であるかのようなひりついた表情で、しっかりと耳を貸している。〈負けたらオカンに顔向けできへん〉のラインは特に、“うん、うん、いや、そうだわ……”と、Sirogarasの“ヤバさ”に対する反応がわかりやすく顔に書いてあった。

さて、結果は……3-2で、KANDAIの勝利! Sirogarasには、番組内でついに黒星がついてしまった。お互いの問いかけを酌み交わしたこのバトルだが、“母親”のトピックでぶつかった最終バースの熱量が、勝敗を分けるわずかなポイントになったか。そしてKANDAIは、TEAM兵庫の“四天王”全員を倒し、初戦から対戦を希望していたチャンピオン・CIMAを、バトルの場にようやく引き摺り出す。有言実行のラッパー。だが、その後の展開は思うようにいかず……。

・CIMA、やられたらやり返す “熱韻スタイル”と圧倒的な実力差を見せつけた3連戦

なんとここから、CIMAが3戦3勝。“あとひとり”と気軽には言えない余談を許さぬ状況や、彼が掲げる“熱韻スタイル”、あるいはラップの節々から滲み出る堂々たる“俺イズム”の力強さに圧倒される。むしろ、KANDAIが4連勝せず、適当なところで敗退し、適当なところでCIMAを出させておけば、この緊急事態も避けられたのか……なんて思わされてしまうほど。3連戦の結果は、KANDAIが0-5、楓も0-5、ベテランの歩歩ですら1-4と、まったく歯が立たない状況だ。やられたらやり返す。この言葉の恐ろしさを、CIMAは本当の意味で教えてくれる。

せっかくなので、全3戦のパンチラインを抜粋してみた。KANDAI戦では対戦後、彼がフリースタイルバトルを始めたきっかけが自身であると明かされたが、だからこそKANDAIもCIMAのキャラクターを意識し、ラップでのワード選びも寄せすぎたのかもしれない。〈俺の名前で盛り上げてんねん 余裕で俺ほら腰掛けてんねん〉や〈ほら俺という品種を知って 自分を見つめ直してる〉と、自身の胸中をCIMAに悟られる。ラストバースの〈早く出せ 東海 俺のバイブス パンチライン to the場外 ショータイムに変わるぜ まるで大谷 SHO-TIME〉は、完全に特大ホームランだった。

続く楓戦では、彼が前述の〈大谷 SHO-TIME〉を拾って、〈元は最初は暗がりだ 大谷 は? 打ち返す村上さん〉と、“野球ネタ”で上手く刺す見事な場面もあった。が、〈でもこんなガキンチョ置いといてオイラに群がりな 兵庫もあるけど関西にはアメ村があります〉と、CIMAも“村上さん”のライムですぐさま切り返し。〈俺は養殖ちゃう 天然 また暗天 俺が晴れちゃう 昇る湯けむり 爪痕 噛み跡のグレムリン〉など、ボースティングでのライムの落とし所も秀逸。いわゆる、声に出して気持ちがいい日本語もまた、CIMAの武器である。

最後の歩歩戦は終始、コミカルな映像となったが、彼のラストバースが終わった後、〈お遊戯会 終わった? 俺はHIDADDYと遊戯の愛 好きだぜヘットバンカー 興味ない 俺ネットラッパー〉と、嘲笑いから鉄板の韻踏合組合ネタで勝利を決定づける。歩歩のラップが利用され、あっさりと料理される展開。KANDAIが大きく流れを引き寄せていたぶん、その反動も大きかったようで、TEAM東海のベンチはほぼお通夜状態の雰囲気だ。

次回、降臨するは呂布カルマ。“CIMA劇場”に、自らの手でピリオドを打てるか。

(一条皓太)

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