【特集:GRとNISMO変化の実存③】最新のGRヤリスに見る「より速く走る」ための純粋な進化

2024年1月25日、進化型GRヤリスが発表された。より多くのドライバーに、より速く、さらなる進化を続ける最新のGRとは? プロトタイプモデルでのサーキット試乗を通して、その進化を探った。

ハンパないAT仕様の仕上がり。RCはさらなる「ガチ仕様」に

全長4mを切るこのクラスで、これほど高いパフォーマンスを持つクルマは他に心当たりがない。

GR-DATを搭載した車両にはATFクーラーを標準搭載。バンパー右側下部にATFクーラー用の開口部が見える。

もともとはラリーで勝つために開発されたホモロゲーションモデルであり、開発には社外の多くのプロドライバーがかかわっている。今回の「進化型」にはこれまでにも増して彼らの声が大いに反映されている。

また、実戦の場でも「壊しては直す」が繰り返されてきた。戦闘力の向上はもちろん、より日常で快適に使えるための進化も果たしている。その内容は内外装の変更、エンジンほか走行性能の向上、AT搭載モデルの追加などが挙げられる。

エクステリアはフロントについてはバンパーの形状や素材を変更するとともに、下端部を3分割構造として修復作業を容易にするなどの見直しがされた。

リアまわりではランプ類が集約されるとともに、テールランプが左右一体につながったデザインとなった。またトヨタのエンブレムも省略された。これらの違いによりひと目見れば新旧がすぐわかる。

ドラポジの見直し、ハーネスで体をシートに固定した状態でも使いやすいスイッチ配置など、視認性と操作性を向上させた。

車内は、より大きく変わった。センターディスプレイがドライバー側に15度傾けられたほか、運転しながら操作しやすいようスイッチ類の配置が大幅に見直された。

さらに、ヒップポイントを25 mm
下げ、ハンドル位置を調整したことで、より適切なポジションが取れるようになったほか、ルームミラーを上部に移設したり、センタークラスターの上端を50 mm
下げたことで視界が改善されている。

新設のAT車はこだわりがハンパない。MT車と同等の位置までシフトレバーを高くしたほか、手引き式パーキングブレーキも残されている。

さらに競技向けのRCではオプションで、より前方にレバーを配してハンドルに近づけるとともに角度を立たせて引きやすくした「ガチな仕様」が選べるようにされたことにも驚く。%%すぐに実感できる走りの進化

同じタイヤとは思えないほどにしなやかなグリップ感

サーキットで新旧を乗り比べると、違いは小さくなかった。GRカローラと同じスペックの強力なエンジンがより軽量なGRヤリスに積まれたのだから、その速さは乗ればすぐに実感できる。

横一文字となったテールランプ。リアコンビランプにハイマウントストップランプとフォグランプを集約しているのが特徴。

横置きFFベースの4WDながら後輪駆動のようなハンドリングも楽しめるのはGRヤリスならでは。

電子制御クラッチで前後の駆動力配分を制御し、ノーマルモードでは60:40、スポーツモードでは30:70、トラックモードでは50:50を基準に可変制御する仕組みとされており、ユーザーの好みに合った走行特性を選ぶことがきる。

従来はややピーキーな面も見受けられたところ、シャシとボディが強化された進化型は、同じタイヤを履くとは思えないほど路面をしっかりしなやかに捉えて、唐突な動き方をしなくなっている。

軽量でホイールベースが短いからなおのこと、この進化はありがたい。より意のままに不安なくコーナーを攻めることができる。

搭載する1.6Lターボエンジンはエンジン出力を272psから304psへ、トルクを370Nmから400Nmへ向上。

ATの走りは、MTに遜色ないほどダイレクト感があり、サーキットを攻めても不満を感じないことに感心した。「GR−DAT」と呼ぶATはセンサー類の拡充も効いて、あたかもドライバーの意思を読み取るかのようにシフトを制御してくれることにも驚いた。

8速のクロスレシオゆえ各変速比が接近しているため、エンジンの美味しいところを引き出しやすい。もちろんシフトチェンジのロスも小さい。

2ペダルがないことを理由に家族から購入を反対されていた人も、これなら家族の同意はもちろん、本人もドライバビリティを含め十分に満足できるに違いない。

GPSの位置判定により利用可能エリアでアンチラグ制御となり、スピードリミッター上限速度が引き上げられる「サーキットモード」が新たに設定された。

ダートコースでは走破性の高さとともに、アクセルペダルを踏めばグイグイッと曲がっていける進化した「GR−FOUR」の巧みな制御を体感することもできた。

トヨタがいかに力を入れてこのGRヤリスを進化させたかがヒシヒシと伝わってくる仕上がりであった。(文:岡本幸一郎/写真:井上雅行)

© 株式会社モーターマガジン社