これまで食べてきたインド料理は油脂が多くて、ヘビーなものが多かった気がする。
ところが、すうっと身体に入ってくる、料理を食べさせてくれるインド料理店がある。
千葉県八千代市にある『南インド料理 葉菜hana』だ。
この店では、ライスに汁物や副菜がついた定食「ミールス」を提供している。
もちろん、いろいろなスパイスを使いこなしているにちがいない。
けれど、辛すぎることもなく、酸味や香りがキツイわけでもなく。
すうっと喉を通り、五臓六腑にしみわたっていくという意味で、吉田哲平シェフが作るカレーは、水のような料理だと思い、味わってきた。
メインはベジタブルかノンベジを選べるスタイル
どんな料理なのか。まずはメイン料理から紹介しよう。
ベジタブルか、ノンベジか、両方が盛られたスペシャルを選べる。
ベジタブルもノンベジ(共に1200円)も、ほぼ毎日2種類ずつ日替わりで用意。
この日のベジタブルは、「彩り野菜のアヴィヤル」、「バターナッツかぼちゃのコロンブ」。
ノンベジは、「マトンキーマ」、「サグチキン(ホウレン草とチキン)」。
彩り野菜のアヴィヤルとサグチキンのスペシャル(1500円)を頼んだ。
選んだメイン料理が、副菜といっしょに大きなプレートに盛られて出てくる。
副菜の種類が多いのが、葉菜の特徴のひとつだ。
真っ先に眼に飛び込んでくるのが、豆で作った煎餅の「パパド」。
手で割ると、パリパリと音をたててくずれる、香ばしそうな音もおいしい。
続いて時計回りに紹介する。「その右下が『ラッサム』。野菜とスパイスから煮出した薬膳スープです」と吉田シェフ。
複数のスパイスを使っているはずだが、まさに水のような味わい。
「サンバル」と呼ばれる豆の煮込み。南インドの味噌汁的な料理。
3品続けて「ポリヤル」と呼ばれる副菜。炒めたニンジン、炒めた小松菜、カリンのピクルス。
その隣りが、つけダレの「ココナッツチャトニ」と「トマトチャトニ」。
後者は、ほのかな酸味と甘みがある、ペースト状のソース。
「赤大根が入ったヨーグルト」(ピンク色)。箸休め的な料理。
一皿に南インドの家庭料理の真髄が盛られている
続いて「ダール」(豆の料理)。
「野菜をココナッツで和えた『アヴィヤル』。今日はサツマイモ、パプリカ、タマネギ、セロリ、ニンジンを使いました」
シャキシャキ感のある野菜が舌に心地よい。
一番上が、ホウレン草のチキンカレー「サグチキン」。
ややスパイシーで、ホウレン草の甘みが口中に広がるチキンカレーだ。
中央が「ポンニライス」。
パラパラしているので、カレーやダール、サンバルなどをかけるとおいしく食べられる。
カレーも含め、いろいろな副菜が盛られているが、食べ方に決まりがあるのだろうか。
「まったくありません(笑)。いろいろ混ぜて好みの味を作ってください。ライスとラッサムとサンバルはおかわりができます」
カトラリーもそろっているが、手で食べる人もいるという。
2009年の創業以来15年間、南インドの家庭料理をベースにした料理を提供してきた。
いまでこそ南インド料理店は増えているが、創業当時は極めて珍しい存在だった。
開業にあたり、吉田シェフに影響を与えた人がいる。
大森にある「ケララの風モーニング」のオーナーシェフ、沼尻匡彦さんだ。
2007年頃はじめて食べた南インド料理が、沼尻さんの料理だった。
「重たい料理だろうと思っていましたが、さっぱり味でおいしかったです」
野菜中心の料理だったものの、満足感を得られたことに驚かされた。
ヘルシーブームが高まっていた時代だった。
南インド料理のレジェンド、アンディさんとの出会い
まだあまり知られていなかった南インド料理は、今後注目されるのではないか。
そんな予感もあり、沼尻さんの料理指南を受け、葉菜をオープン。
開業直後、吉田シェフに多大な影響を受けた人がいる。
南インド出身の料理人、アンディさんだ。
「知り合ってから、アンディさんが凄い経歴の持ち主であることがわかりました」
インドのチェンナイにある5つ星の高級ホテル「タージコロマンデル」で料理修業をスタート。
来日後、千代田区の有名な老舗インド料理店で南インド料理を作っていた時期もある。
数か月間葉菜で働いてもらい、アンディさんに南インド料理を指導してもらった。
「僕の家に住んでもらったこともあります。僕はアンディさんをインドのお父さんと呼び、アンディさんは僕を息子と呼んでくれます」
帰国したアンディさんの家を5回訪問。滞在中は、アンディさんの家の台所で2人で料理を作ってきた。
アンディさんの家へ行くときは葉菜のスタッフもいっしょだ。アンディさんの料理を食べたスタッフに、シェフの味に似ていると言われることがあるという。
「アンディさんは、日本における南インド料理のレジェンド。アンディさんの料理に、僕のが似ていると言われると嬉しいです」
おいしい野菜料理を作るために野菜を育てている
話は前後するが、葉菜開業前、南インドを1週間食べ歩いた。南インドは野菜料理がおいしいと痛感したことから「野菜を使った料理を出そう」と誓った。
創業当初、隣の佐倉や成田の農家の野菜を使っていたが、すぐに自分で野菜を作りはじめた。店からクルマで10分ほどの場所にある畑で、農薬も堆肥も使わずに野菜を育てている。
「100%自給は無理ですが、できる限り自分で野菜を作りたいと思っています。自分の野菜で南インド料理を表現したいです」
キーマのようなノンベジの用意もあるが、副菜も含め野菜のカレーが滋味深く、しみじみうまい。
ノンベジか、ベジタブルを選ぶよりも両方味わえるスペシャルがおすすめ。
「今後さらにアンディさんの料理に近づきたいと思っています。南インド料理のレジェンド、アンディさんを紹介する本を出したいです」
【南インド料理 葉菜hana】店舗情報
住所/千葉県八千代市勝田台1-13-32
電話/047-482-8974
営業/11:30~15:00 (LO14:00)、18:00~21:00(LO21:00)
定休日/水曜日と第2・4火曜日
(うまいめし/ 中島 茂信)