ボーカロイドは“消えない”文化となった 『プロセカ』3rdライブの熱狂に思うこと

ボーカロイドは“消えない”文化となって続いてゆくーー。

1月28日に幕張メッセ 国際展示場 9-10ホールで開催された『プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE 3rd - Evolve -』は、そのことを確信させるには充分なほどの熱狂と文脈が存在していた。筆者は現地&配信でライブを観ることができたのだが、それぞれに見どころがたくさんある充実した公演だったため、順を追って紹介したい。

ド派手なOP演出で会場が盛り上がったあと、鳴り響いたのは『プロセカ』2周年ソングである「Journey」(作詞・作曲:DECO*27)のイントロ。これに観客がシンガロングで応え、星乃一歌、花里みのり、小豆沢こはね、天馬司、宵崎奏、初音ミクの6人が歌い踊る。1曲目から2周年~3周年へと向かっていく文脈のようなものを垣間見ることができた。

現地で見ていた筆者は、ここで出音の面白さにも気づく。今回のライブはドラム+ベース+キーボード+ツインギターの生バンド編成が組まれており、会場の広さに負けない厚みの音が鳴り響いていた。観客の声出し規制がなくなって初めての周年ライブということもあり、こうしてバンド+観客の熱量のうえでキャラクターとボーカロイドたちがぶつかり合うというのは、とても新鮮かつ感動的だったことも記しておきたい。

MCを挟んだのち、ここからは各ユニットごとに分かれてのパフォーマンスパートへ。ステージ背景がユニットごとに変化するため、それぞれの世界観がより増幅されたように感じられたのも、この日のライブが楽しかった要素のひとつだ。

まずは“ワンダショ”ことワンダーランズ×ショウタイムと鏡音リンが登場し、「ショウタイム・ルーラー」(作詞・作曲:烏屋茶房)を披露。8つの火柱が上がり、観客とコール&レスポンスを繰り広げ、会場をしっかり盛り上げていく。先述した構造の上に成り立つライブとして、一番手にワンダショが出てきて双方向的な盛り上げを作るというのは、ある意味必然的だったように思う。

合間のMCでは鳳えむが全力の「わんだほーい!」を会場の全員と叫び、えむと草薙寧々と初音ミクが「エイリアンエイリアン」(作詞・作曲:ナユタン星人)を披露したかと思えば、舞台が“崩壊”しそうになってKAITOを呼び「トンデモワンダーズ」(作詞・作曲:sasakure.UK)へと続く。終始ワンダショらしい“にぎやか”なパフォーマンスだったし、なにより「トンデモワンダーズ」が、スキルフルなメンバーによって生バンド仕様でしっかりと演奏されていたことに、思わず「すげえ……」と笑みがこぼれてしまった。

二番手として登場したのは“モモジャン”ことMORE MORE JUMP!。みのりと愛莉がリンとともに登場し「セツナトリップ」(作詞・作曲:Last Note.)からスタート。続いて桐谷遥と日野森雫が初音ミクとともにMCで客席全体にウェーブを促し、「イフ」(作詞・作曲:ユリイ・カノン)と「モア!ジャンプ!モア!」(作詞・作曲:ナユタン星人)を立て続け披露。「モア!ジャンプ!モア!」では、観客も待ってましたとばかりに冒頭の〈いっせーので もっともっとジャンプ!〉で一斉に声を出して飛び跳ね、〈ジャンプ!ジャンプ!モアモアジャンプ!〉などのコールアンドレスポンスを全力で行うなど、前半のハイライトといえるくらいに会場のテンションを最高潮に上げてくれた。

三番手の“ニーゴ”こと25時、ナイトコードで。は、MEIKOを迎えた「アイディスマイル」(作詞・作曲:とあ)からスタート。モアジャンが生み出した熱狂から一転、どこか影のあるニーゴの世界観に一気に観客を引き込んだあとは、暁山瑞希と東雲絵名が初音ミクとともに“盛り上げバトル”を行い、そこから「ジェヘナ」(作詞・作曲:wotaku)を披露。改めて思うが、暗いけど踊れる曲というのは塩梅がなかなか難しいのだが、そういう意味でエレクトロスウィングはニーゴと非常に相性がいい。そんなことを考えていると一気にKAITOを迎えた最後の曲「ザムザ」(作詞・作曲:てにをは)になってしまった。

四番手の”ビビバス”ことVivid BAD SQUADは、東雲彰人と青柳冬弥と鏡音レンによる「雨とペトラ」(作詞・作曲:バルーン)からスタート。冬弥と彰人のハイタッチに、客席から黄色い声援が飛び交っていた。続いては小豆沢こはねと白石杏も加わり、初音ミクを迎えてビビバスにとって“はじまりの歌”である「Ready Steady」(作詞:q*Left・作曲:Giga)を披露し、ラストは「虚ろを扇ぐ」(作詞・作曲:獅子志司)。ビビバスの特徴ともいえるバチバチ・ヒリヒリとした雰囲気を最後まで纏ったまま、ラストのユニットへとバトンを繋いだ。

五番手となった“レオニ”ことLeo/needはフライングVらしきギターを携えた鏡音レンを迎えた「STAGE OF SEKAI」(作詞・作曲:針原翼(はりーP))からスタート。バンドセットの3D表現と生バンドのシンクロがそれはもう見事で、ギターのストローク、ドラムの手捌き、ベースやキーボードの運指までもがリアル。ステージ上に見える景色と耳に聴こえる音が、レオニが“そこで演奏をしている”ことを確かに証明してくれていた。これだけステージでしっかりシンクロしていると感じたのだから、配信で見た際にはギャップがあるのではと気になっていたが、その心配は杞憂だった。AR/VRカメラはまるでプロセカの3DMVを見ているかのように新鮮で立体的だったし、影などの見せ方はより“存在している感”を引き立てるようなものだった。

そんな感動も束の間、続いて巡音ルカとともに披露されたのは「Hello, Worker」(作詞・作曲:ハヤシケイ)。だけど少しいつもと違うような……、なるほど、星乃一歌がギターを持って歌っているからだ。バンド編成と同じくツインギターでパフォーマンスされた特別仕様に、会場からは大きな歓声が上がった。その後は初音ミクとバトンタッチして「the WALL」(作詞・作曲:buzzG)を演奏し、レオニパートが終了した。

すべてのユニットが終わったあとは、『プロセカ』のテーマソング「セカイ」(作詞:DECO*27・作曲:堀江晶太(kemu))がパフォーマンスされた。歌うのは初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITO。プロセカに登場するバーチャル・シンガー6人が勢揃いの豪華で感動的なアンサンブルは、もはやクライマックスの様相さえ感じさせたが、まだまだ楽しい時間は終わらない。

ここから「スペシャルタイム」として、またしても各ユニットが1曲ずつ披露していくことになったのだが、この日のパフォーマンスを見ていて、改めて思ったことがある。『プロセカ』は色んなキャラクター・ユニットが存在することも魅力だが、それは同時にさまざまな音楽ジャンルが自然に表現できるということでもあり、さまざまなジャンルの音楽が生み出され続けるボーカロイドシーンと非常にマッチしている。そしてキャラクターもユニットもストーリーとともに成長することで、また新たに“似合う音楽”を獲得していく。

それを体現したといえるのがビビバスとMEIKOが披露した「仮死化」(作詞・作曲:遼遼)だろう。最初はストリートっぽさを感じさせ、力量差もあった4人の歌が成長し、〈Woh…〉と大勢の人たちとシンガロングする前提のコーラスに。そして実際に幕張メッセの観客が大声でそれに応える。ゲーム内の成長とコンテンツの歩みがマッチしたことの象徴ともいえる出来事に胸が熱くなった。

そしてライブはラストスパートへ。ワンダショと巡音ルカによる「Mr. Showtime」(作詞・作曲:ひとしずく×やま△)では間奏の手拍子が、レオニと初音ミクによる「てらてら」(作詞・作曲:和田たけあき)では間奏のコールが、モモジャンと巡音ルカによる「パラソルサイダー」(作詞:ナナホシ管弦楽団・作曲:岩見陸)では〈もっと!〉コール、ニーゴと鏡音レンによる「バグ」(作詞・作曲:かいりきベア)では〈パ パ パラ パーラノーイ「ア」〉でシンガロングが巻き起こる。特に「バグ」はうねるムービングライトとスクリーンのグリッチした映像がリンクした見事な演出だった。

本編最後にバーチャル・シンガーたちがお礼を言いステージを後にすると、鳴り止まないアンコールに応えるように初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOが再びステージへ登場し「アイムマイン」(作詞・作曲:halyosy)を披露。各ユニットの進級記念にhalyosyが「バーチャル・シンガーからの応援ソング」として書き下ろしたこの曲は、初期のボーカロイド文化における重要曲であり、ユーザーが育て、歌い継いできた「桜ノ雨」をはじめ、彼が手がけてきた楽曲の要素が散りばめられたアンセムだ。

そしてアンコール2曲目、この日最後に披露されたのは、星乃一歌、花里みのり、小豆沢こはね、天馬司、宵崎奏による『プロセカ』3周年アニバーサリーソング「NEO」(作詞・作曲:じん)。ボーカロイドが初期のネットミーム的な盛り上がりからオーバーグラウンドしてあの日の子どもたちに〈「初めまして」〉と届いたのは、じんが手がけた作品たちのメディアミックスに依るところは大きいだろう。そんな彼が『プロセカ』の3周年に贈った、泥臭くて甘酸っぱくて切なくて、それでも眩しいくらいのエネルギーを放つ1曲を6人は熱く歌い上げ、この日のライブが終了した。

〈十数年前に起きたあの日から/まさかこうなるとは思わんわ〉(アイムマイン)
〈忘れられたって 死なないで 響いた その曲は/「希望」って言うんだよ〉(NEO)

筆者がボーカロイド文化に古くから接しているため、必要以上のメッセージを受け取ってしまったところもあるかもしれないが、この日訪れた様々な世代の観客が沸き、歌い、ときに目を潤ませている様子には、本当に強く心を打たれた。十数年前からは想像もつかない景色が目の前に広がっており、そこにあの日の曲もたしかに存在する。一度“砂漠”になって忘れられた曲も、『プロセカ』が改めて響かせてくれたことによって、次の世代に手渡されたからだ。

もう一度言う。ボーカロイドは様々な人の手によって、ひとつの大きな“文化”になった。この先の景色はわからない。ただ、5つのユニットと6人のバーチャル・シンガーの物語にはまだ続きがある。

(取材・文=中村拓海)

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