日本画表現の新たな創造、多彩な表現が見どころの「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」
山種美術館の[公募展] Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ― 未来をになう日本画新世代 ―[2024年2月17日(土)~3月3日(日)【16日間】]が始まりました。「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」は、日本画の新たな創造に努める優秀な画家の発掘と育成を目指す公募展です。
コロナ禍の影響で2年間延期されていましたが、2024年に第3回目を実施する運びとなりました。
応募作品全153点の中から、厳正な審査を経て、受賞作品を含めた入選作品全45点が一堂に展示されている会場に行って来ました。
日本の美しい自然を心のままに表現
大賞は、北川安希子《囁き―つなぎゆく命》、優秀賞に重政周平《素心蠟梅》。特別賞(セイコー賞)に早川実希《頁》、特別賞(オリコ賞)に前田茜《山に桜》。そのほか奨励賞に6作品が選ばれています。入選作品も含めて1点1点が力作ぞろいで見ごたえがありました。
日本の風土に育まれた美しい自然を、作家自らの内にある心の鏡に写し出し、美に昇華して表現しようとする意欲作が多く見受けられました。
大賞・北川安希子《囁き―つなぎゆく命》
西表島のオオタニワタリが生い茂るジャングル。うっそうと茂った樹林の下から空を見上げるように描かれた北川安希子《囁き―つなぎゆく命》(左)。
「自然の逞しい生命力を表現したい」として描いた作品だそうです。暖かく湿った空気を感じさせる森の緑。
「植物は、周りの植物や虫などと互いに会話し助け合う」という研究があるとして「囁きあうように見えた」そうです。木々の枝葉には、囁きあうようにキラキラと反射する光の粒。木々全体が1つの命として繋がっているようです。
優秀賞・重政周平《素心蠟梅》
青い葉の色が鮮烈な重政周平の《素心蠟梅》(右)。作者によると、これまでは鉄塔など人工の構造物を描くことが多かったとのこと。本作のモチーフは「いつも見ている庭の植栽」をとらえたのだそうです。
凍り付いたような冬景色に映える深い青色の葉は、蠟梅の澄んだ香りをイメージさせます。黒々とした構造物のように構成された枝がしっかり描かれて画面を引き締めます。
特別賞(オリコ賞)・前田茜《山に桜》
京都のお寺の襖絵にあってもいいような、桃山時代(ももやまじだい)の金壁障壁画(きんぺきしょうへきが)を思わせる古典的な雰囲気の前田茜《山に桜》(左)。
ふるさとの山々に咲くヤマザクラをモチーフにしたそうです。山々の上に見えるヤマザクラは金箔の色を変えて桜色を表現。見る角度によりキラキラ輝いて見えます。作者の心に写る風景でしょうか。
特別賞(セイコー賞)・早川実希《頁》
早川実希《頁》(右)。
同じ空間の中に、異なる時間軸でしょうか。重なるようにコラージュされた人物が見えます。
縦横高さの三次元世界で、同一空間に1人しか存在出来ない人間は、流転し変化する時間を内包しながら一方向に流れる時間を進むしかないようです。
少し時間と空間のページをずらしてみると、異なる世界、異なる自分が見えてくるのかもしれない…そう感じさせる作品でした。
Seed、日本画の未来につながる「種」が芽吹く会場
会場には、作品のもとになったデッサンの展示もありました。完成に至るまで何枚もデッサンを重ね、その中で磨かれた感性とともに作品を作り上げてゆく制作過程を見ることが出来ました。
多彩な表現の奨励賞
奨励賞も多彩な表現の作品が並びます。
小谷里奈《向こうの姿》は、形あるものの向こう側の姿を自由に心の眼で見ることに気付かせてくれる作品。川村香月《宵桜》は何枚も描いた桜のデッサンをもとにした作品。大村美玲《参星》は、京都の祇園祭(ぎおんまつり)の後祭をモチーフに。
木と電柱がまるで寄り添う恋人同士のような仲村うてな《朱》。作者の生まれ育った風景を描いた八谷真弓《みのりの頃》。猫がカワイイ小針あすか《珊瑚の風》は、制作のエピソードと共に猫好きには親しみを感じる作品でした。
可能性に満ちた入選作品
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」の入選作品。未来の日本画の可能性を広げてくれそうな力作ぞろいでした。
日本画のレジェンドとの競演
会期中、山種美術館所蔵品から近代日本画のレジェンドの名品優品が展示されていました。
重要文化財《裸婦図》の村上華岳(むらかみかがく)をはじめ、速水御舟(はやみぎょしゅう)、川合玉堂(かわいぎょくどう)、川端龍子(かわばたりゅうし)、奥村土牛(おくむらとぎゅう)ら、Seedの作家と年代が重なる頃の作品が並びます。
川端龍子(かわばたりゅうし)《華曲(かきょく)》
右隻には、花の王、牡丹。左隻には、百獣の王、獅子が描かれた川端龍子の《華曲》。大ぶりの牡丹に、ゴロンとお腹を見せて蝶とたわむれる獅子。大画面を得意とした龍子らしい大胆な筆致で描かれています。
院展(いんてん)脱退直後の個展で発表された作品。自由に伸び伸びと制作をして行こうとする画家自身の姿のようにも見えます。ピンク色の肉球がキュートな恐(こわ)カワイイ獅子です。
川合玉堂(かわいぎょくどう)《鵜飼(うかい)》
川合玉堂《鵜飼》。岐阜県で少年時代を過ごした玉堂にとって長良川(ながらがわ)の鵜飼は思い出深い風景だったそうです。
青緑山水図のような金華山(きんかざん)の麓にある大きな岩面の傍に集まる鵜飼。自然と共にある人間の調和した営み感じさせる作品です。
日本画の未来を担う才能との新しい出会いが楽しい
山種美術館[公募展]「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ― 未来をになう日本画新世代 ―」。日本画の可能性に満ちた新しい表現や才能との出会いがあるとても楽しい観覧でした。
展覧会は3月3日(日)までの16日間ですが、是非お出かけください。
ミュージアムグッズ
ミュージアムグッズは、マスキングテープ《狗子》西山翠嶂(550円)、アニマルハグ トラ(528円)、メモ 写生帖 速水御舟(450円)を購入。
アニマルハグ トラは、マスキングテープをカットする便利グッズです。
Cafe 椿 山種美術館所蔵の作品にちなんだオリジナル和菓子
Cafe 椿では、青山・菊家のオリジナル和菓子、山種美術館所蔵の作品《山雨一過》(川合玉堂)にちなんだ「葉のしずく」(710円)をいただきました。胡麻入りこしあんが風味豊か。お抹茶セット(1,350円)でいただくことができます。
※文中のうち、所蔵先表記のない作品はすべて山種美術館所蔵です。※価格は税込価格です。
Cafe 椿(山種美術館1F)
営業時間:山種美術館の営業時間に準ずる
〇山種美術館
URL:https://www.yamatane-museum.jp/
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
※今後の状況により、開館時間は変更になることがあります。
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
恵比寿駅西口1番乗り場より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分
渋谷駅東口ターミナル54番乗り場より日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分
〇[公募展]Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ― 未来をになう日本画新世代 ―
会 期:2024年2月17日(土)~3月3日(日)【16日間】(休館日含む)
休館日:月曜日
入館料:一般 700円(500円)、学生および未就学児無料(中学生以下は付添者の同伴が必要です)
※障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)は500円(300円)。
※( )内は20名以上の団体料金、および前売り料金。
※「渋谷区民の方は入館無料!」(住所が確認できるものをご提示ください)
※きもの割引:会期中、きものでご来館のお客様は、一般200円引きとなります。※ 複数の割引、特典の併用はできません。
・展示予定作品:計50点 *出品作および展示期間は変更される場合があります。
・最新の情報は山種美術館Webサイトをご覧ください。