俯瞰するニッポン(その3)~京都上空・平安京~

平安京は碁盤の目のような縦横の道が交差する街づくりと、昔、教科書で教えられたと記憶しています。

夕方の岡山空港からの全日空658便は、下界が曇りであったため、普段より薄暗いフライトでした。その中、一瞬雲が切れると、まさしく碁盤の目に輝く街が広がっていました。京都市内中心部の灯りでした。

九州や四国から飛行機に乗ると、南紀白浜空港上空を抜けて志摩半島へ達するコース取り。出張が岡山県北部であったため、岡山から飛行機の帰京となりました。飛行機で帰ることは皆無、この飛行ルートによって、その煌びやかさに触れ合うことができました。

誰もが一度は訪れる

京都は、誰もが一度は訪れる日本最大の観光地です。修学旅行に始まり、観光客各世代が春は桜、秋は紅葉を目指して市内各地を巡ります。これまでお客様が少なかった冬や夏でも先進的に新たな取り組みを創造し、お客様の拡大を進めてきました。

しかし、急速な訪日外国人の拡大は、さまざまな問題を生む要因となっています。満員の路線バスや生活環境の違いから生じる事故・事件。これらは、市内各地で毎日のように発生していると言っても過言ではないでしょう。また、路線バスを住民と観光客の二重運賃にするといったニュースも聞こえてきます。

観光には正解が無いと言われます。それは「一人十色」、ひとりの人間が、その時々で訪れるニーズが変わるからです。出張の時と家族旅行の時は、行動パターンが変わります。それ故、正解が無いと言えるのです。

しかし、テレビなどに出演するコメンテーターは、好き勝手なことを言う場合が少なくありません。「言ったもん勝ち」のように持論を展開します。しかし、誰もが正解を訴えることはありません。

地域住民と観光客の相互理解が必要

路線バスのことに話を戻します。

主要観光地行のバス停は、長蛇の列

二重運賃は一つの手法ですが、地元住民と観光客の乗り場を分離することが効果的と考えます。例えば、住民は烏丸口から、観光客は八条口から、と分離乗車するという方法です。住民には何らかの証明書を持参してもらい、住民専用バスに乗車する。一方、観光客は新幹線口である八条口に特化して乗車する。また、観光客専用バスは、観光地限定の急行バスにするのです。

既に松山空港から市街地に向かうバスは、リムジンバスは高い運賃で急行型、路線バスは安い運賃で各駅停車という棲み分けを行なっています。当然、しっかりとした情報発信が必要となってきます。

こういった取り組みは一例となりますが、慢性的な路線バス問題を解消する可能性は生まれます。ただし、この手法が正しいかは、チャレンジしなくては結論は出ません。

平準化する術は・・・

オーバーツーリズムは、大量にやって来る観光客の対応策を講ずる余裕が無いまま、そのピークを迎えてしまうことに起因します。この状況を継続していると負のスパイラルにはまります。私たちにとって、「平準化」という課題は、特許が認可されるより難しいものかもしれません。

しかし、全力を尽くして、解決せねばならない課題なのです。

桜や紅葉などの自然環境を愛でることは、京都でなくとも体験できます。しかし、京都には数多くの「歴史」が存在します。その両方を体感できるために、誰もが京都を訪れます。

また、高低差のある京都の町では、紅葉は長期間愛でることができます。しかし、桜は開花から満開まで一週間から十日です。短期間の勝負であるため、観光客が溢れるのは必至です。

外国人が日本を訪問する最大の目的は、その時々の花々や雪などの自然環境を体感することにあるとアンケート結果が出ています。コロナ禍前は爆買いと言われた旅行形態も、モノ・コト消費に移行していると言われています。そのため、史跡をはじめとする「歴史」や「食」「伝統芸術」などに触れる旅行にシフトできるはずです。このような新たな切り口のコンテンツ造りが急務なのです。時期や場所の「平準化」を進める手法になると感じます。

先人たちは、チャレンジしてきた

漆黒の琵琶湖の姿

今から45年も前は、「夏は暑く冬は寒い」京都観光は避けられてきました。しかし、先人たちは知恵を絞り、今で言うディスティネーションキャンペーンを作り上げました。あえて、この時期に非公開寺院の公開や「一見さんお断り」を体験するコンテンツ造りを行なってきたのです。まさしく、時代の最先端を行くのが京都観光だったのです。

観光に携わるものが寄り集まって、この課題を他人事にせず自分事にすること。少しばかり「時間をずらす」「場所をずらす」、そして、施策的にSNSなどを活用した情報発信を行なえば「平準化」は実現できると考えます。

オーバーツーリズムのことを空の上から考えているうちに、碁盤の目は過ぎ去り、漆黒の琵琶湖が見えてきました。外は再び厚い雲、幻を見ていたかのように、京都の町の灯りは消し去られていました。

寄稿者 観光情報総合研究所 夢雨/代表

(これまでの寄稿は、こちらから)

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