【光る君へ】紫式部(吉高由里子)の藤原道長(柄本佑)への想いはいかに? 続々登場する「イケメン」にも注目

大河ドラマ「光る君へ」第7回より ©️NHK

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の放送がスタートしました。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第7回「おかしきことこそ」と第8回「招かれざる者」です。

前回はこちら。

「光る君へ」第7回「おかしきことこそ」、そして第8回「招かれざる者」では、いよいよ花山天皇(本郷奏多)を取り巻く藤原義懐(よしちか/高橋光臣)一派と、それをよく思わない右大臣・藤原兼家(段田安則)、左大臣・源雅信(益岡徹)、関白・藤原頼忠(橋爪淳)らとの対立が際立ってきた。それにともない、まひろ(吉高由里子)ら若い者たちの運命も少しずつ巻き込まれて動き始めていく。

この2回の見どころは、なんといっても「イケメン」たちだ。今回の大河ドラマは、やはり雅な物語とあって、「カッコいい男」たちが続々登場する。特に密かに注目されているのが、藤原道長(柄本佑)を含め四条宮でともに学ぶ4人。藤原斉信(ただのぶ/金田哲)、藤原公任(きんとう/町田啓太)、藤原行成(ゆきなり/渡辺大知)。漫画原作のあのヒットドラマ「花より男子」になぞらえて「F4」と呼ぶ向きもあるとかないとか。

彼らが華やかな「陽」のイケメンだとすると、第8回でフィーチャーされるのが「陰」のイケメン、ヒールの藤原道兼(玉置玲央)だ。彼もただの「悪者」ではないことが明らかになっていく。

前回、漢詩の会に出席して、藤原道長と予期せず再会を果たしたまひろは、道長からの文に何も返さずそのまま燃やしてしまう。自分たちを取り巻く皮肉な運命の前に、想いを断とうとしたのだ。

その日の深夜、内裏(だいり)に盗賊が入る。夜間警備をしていた道長は逃げようとするそのうちのひとりに矢を放ち左腕に命中させるが、一味は逃げる。矢の刺さった腕を押さえたその人物こそ、散楽一座の直秀(毎熊克哉)だったが、道長は気づかない。

河原にやってきた盗賊が盗んだ着物などの品々を置いて立ち去ると、わっと辺りから大勢の民が集まってくる。そう、彼らは困窮する人々に盗品を分け与えていたのだ。

同じ夜、花山天皇が寵愛した藤原忯子(よしこ/井上咲楽)がお腹の子とともに命を落としてしまう。深い嘆きに襲われる花山天皇。自らの孫の安泰な即位を望むあまり、忯子の子が流れるように呪詛(じゅそ)せよと先に安倍晴明(はるあきら/ユースケ・サンタマリア)に命じた兼家は恐れをなし、晴明を呼びつける。「腹の子を呪詛せよとは言うたが、女御様のお命まで奪えとは言うておらぬ。やりすぎだ」

ところが、晴明はこう言い放つのだ。「私を侮れば右大臣様ご一族とて危うくなります。政をなすは人。安倍晴明の仕事は政をなす人の命運も操ります」。ひえぇ、相変わらずブラックな動きをする晴明である。しかし、この時代の陰陽師の持つ力というのは、まさにこういうことなのだろう。その一挙手一投足が、政治やそれを取り巻く権力構造を動かしていく。地位と力を持つ貴族でさえ、その言動には従わざるを得ない。

一方まひろは、無邪気に直秀たち散楽一座に芝居の筋書きを書いてやる。のちの紫式部の才能の片鱗が徐々に現れ始めるわけだが、右大臣家の人々を猿に見立て、その猿たちが神のふりをした狐(きつね)にだまされるという話である。

直秀から、貧困にあえぐ民たちは笑いを求めていると聞いて、まひろの才気が一気にあふれ出した形となったわけだが、あまりに世相を浮き彫りにしすぎる鋭さは、右大臣家の武者たちの怒りを買うことに。一座は乱闘に巻き込まれてしまうが、その場でまたしてもまひろは道長と顔を合わせることになり、道長に救い出される。

結局、迎えの従者が来て、話したいことも話せず別れる二人だが、再び顔を合わせる機会が巡ってくる。四条宮でともに学ぶ道長、藤原斉信、藤原公任、藤原行成が、ポロに似た球技・打毬(だきゅう)の試合に出ることになったのだ。その斉信から招待を受けた和歌の集いの姫君たちは、いそいそとこぞって見物に出かけることになる。

大河ドラマ「光る君へ」第7回より ©️NHK

はじめは気の進まないまひろだったが、道長への想いを断とうとする自らの気持ちを試すように、源倫子(ともこ/黒木華)をはじめ姫君たちと見物に出かけることにする。楽しそうに打毬に打ち込む若者たち。

しかし、その中のひとりがなぜか直秀だ。急に体調不良となった行成に代わって、直秀が道長の「腹違いの弟」と偽って参加させられていたのだ。そして、その若者たちに心ときめかせざわめく姫君たち。まひろだけが目を伏せ、道長と目を合わさないようにしていた。

試合が終わる頃、急に雨が降り出した。そのとき、倫子の愛猫が逃げ出す。それを追いかけるまひろ。その先で迷い込んだのは、先ほどの打毬の若者たちが着替えをする控え所だった。

男たちは勝手気ままに見物の姫君たちの品定めを始める。まひろのことも「地味でつまらない」とし、自分たちの出世のために「女は家柄だ」と言い放つ。聞くともなしに耳を傾けていた彼らの話にまひろはショックを受けて、雨の中へ飛び出す。それを直秀が見ていた。

この場面でふと思い浮かぶのが『源氏物語』の「雨夜の品定め」の場面だ。「箒木(ははきぎ)」の巻で、五月雨の一夜、光源氏や頭中将らが、女たちの品評を始めるという、あの有名な箇所である。

この打毬での体験が、のちに紫式部の物語の「ネタ」となるのか、と思わせるような、大石静の仕掛けも心憎い。そう、ものを書く人間というのは、自らの人生に起こったどんな喜びも、どんな悲しみや苦しみさえ、材にして立ち上がっていくのだ。そんな、まひろの今後の運命を思わせる場面だ。

そして第8回。花山天皇一派と右大臣たちの対立はますます激化していくなか、とうとう右大臣・兼家が病に倒れてしまう。

意識不明の状態が続き、東三条殿に安倍晴明が呼ばれ祈祷が行われる。その最中に寄坐(よりまし/祈祷で神霊を乗り移らせる子どもや人形)に突如、霊魂が降りてくる。聞けば忯子の霊だという。寄坐は「子を返せ」と叫ぶと兼家につかみかかる。

ある日、書庫で書物の整理をしているまひろの父・藤原為時(岸谷五朗)のもとを、道兼が訪れる。道兼の腕にあざを認めた為時が尋ねると、前夜正気づいた父に打たれたという。「小さいときから、父にかわいがられた覚えはない。いつも殴られたり、蹴られたりしておった」という衝撃の告白に、為時は言葉を失う。

「自分はどこへ行っても嫌われるのだ」という道兼。花山天皇にも疎まれるが、あるとき彼を追い払おうとする天皇に、為時が「道兼様は右大臣様に疎まれております」と告げる。右大臣を嫌う天皇が道兼を呼び戻しその腕を確認すると、あざだらけだった。右大臣憎さが高じて途端に道兼に同情を寄せる天皇。

そんな為時には心を許せるのか、道兼はその数日後、為時と酒を飲みたいといって、為時の屋敷を訪れる。そこへ、帰ってきたまひろが遭遇する。思いがけないことに動揺するまひろ。しかし、おびえる必要はないと道兼の前に出て、琵琶の演奏でもてなす。

大河ドラマ「光る君へ」第8回より ©️NHK

その演奏に感激した道兼は「誰に習ったのか」と尋ねる。母と答えるまひろに、重ねてこうも聞くのだ。「母御(ははご)はいかがされた?」。7年前に亡くなったと耐えながら答えるまひろに、さらなる質問が続く。「それは気の毒であったな、ご病気か」。まひろは答える。「はい」

母を殺めた道兼は、まひろにとって生涯許せない相手であり、物語としても「ヒール」の役目に違いないのだけれども、そのヒールにも、ヒールになるだけの理由や背景があったのだと大石の脚本は描く。道兼の人間的な内面も垣間見えて、これもやはり紫式部の作家としての人生に色を加えていく出来事なのだと改めて感じた。

よいドラマ、よい物語というのは、どんな脇役にも人生があると手を抜かずに感じさせ、納得させる術を持つ。いやさすが、「光る君へ」。ますます侮れなくなってきた。


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