赤の王者・舞華、スターダム残留宣言「私がこのリングを守る!」

【WEEKEND女子プロレス♯1】

写真:新井宏

スターダムの舞華にとって、昨年は激動の一年だった。盟友ひめかが5月に引退、シングルリーグ戦5★STAR GPでは決勝戦進出も鈴季すずに敗れ、どん底を味わった。引退も脳裏をよぎったが、メーガン・ベインとの出会いにより息を吹き返し、年末の両国では4度目の挑戦にして最高峰の赤いベルト、ワールド・オブ・スターダムに到達した。「女帝時代」の幕開けを高らかに宣言したのだが、メインを務めた2・4大阪での初防衛直後、ロッシー小川エグゼクティブプロデューサーが契約解除となり、団体創始者がスターダムから消える緊急事態。スターダムはこれからどうなっていくのか? この時期に王者として団体を牽引する舞華の心境とは…?

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舞華は2019年5月にTAKAみちのくのJUST TAP OUTでデビュー。男子混合の団体で闘っていたのだが、勝手にライバル視していた林下詩美を追いかける形で移籍。ジュリア、朱里とともにドンナ・デル・モンドのオリジナルメンバーとなった。キャリアこそ浅いものの、柔道のバックボーンとバツグンの体幹を武器にすぐに台頭。「黄金世代」と呼ばれるスターダムの中心人物となったのである。

しかし、若手のためのタイトル、フューチャー・オブ・スターダム王者になって以降、シングル戦線ではいいところまでいくも結果が出せない日々が続いた。同じような境遇だったひめかが引退し、精神的にも不安定となってしまった感は否めない。

「ひめかは前向きな引退でしたから、私が弱音を吐くのは失礼。そう思って(舞華&ひめかの舞ひめでは)やってきましたね。ただやっぱり、5★STAR決勝ですずに負けて、自分は相方がいたから心折れずにやってこれたんだと実感しました。自分の弱さを思い知りましたね」

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決勝戦で敗れた舞華は、そこまで落ち込むかというくらいに落胆、「プロレスから離れたい」と漏らすほどだった。とはいえ、決勝戦にコマを進めたのは事実。ここまで勝ち上がることじたい、立派な成果ではあるのだが、彼女はそれを許さない。

「結局、一番じゃないとダメなんですよ!我々レスラーって、ベルトを持つこと、一番になること、団体の顔になることも含め、先頭を突っ走りたいんです。1位じゃなきゃ、2位も最下位も一緒。そして、今回も一番になれなかった。私ってそういう運命のもとに生まれたのかなと思いましたね」

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舞華がいいところまでいくたびにファンの期待値は高まっていく。5★STAR決勝戦は、そんな舞華待望論が最高潮に達したところだった。が、結果は地元福岡凱旋で白いベルトを奪えなかったときのように、予想を裏切る結果となってしまう。

「プロレスをやめようという選択肢はもちろんありました。私ってプロレスに向いてないと思ったり、涙が勝手に出てくるんですよ…」
それでも、舞華はなんとかプロレス界に留まった。それはやはり、プロレスが好きだから。

「あのままやめていたら、死ぬときに絶対後悔すると思うんです。それは絶対にイヤだから、いまが踏ん張りどころとなんとか自分に言い聞かせました」

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そんな頃、アメリカからやってきたメーガン・ベインとタッグを組む機会が増えてきた。ユニットこそ異なるが、DDMではちょうどジュリア&桜井まい&テクラ組がアーティスト・オブ・スターダム王座を保持。マッチメーク上このトリオで闘うことが多く、舞華ひとりがユニット内で浮いた状態となったのだ。そこで、同じパワーファイターの舞華とメーガンがタッグを組むようになっていったのである。そして、これがハマった、メーガンの存在が舞華を助けたのだ。

「中野たむの赤いベルトに挑む謎の大型外国人ってことで、気にはなってました。でも、タッグを組むとは全然思ってなくて。それがなぜか組むようになると、言葉も通じないのに不思議と落ち着くんですよね。酒を酌み交わしながらなんとか会話していくうちに、いろいろとプライベートの面でも共通点が見つかったんですよ。家族構成とか、妹の習い事まで一緒だったり。それこそ前世も一緒だったんじゃね?ってくらい(笑)」

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落ち込みようを察知したメーガンが、舞華にこのような声をかけた。「5★STAR GPはスターダムのエリートだけが参戦できるリーグ戦でしょ。最高のなかの最高の選手だけが勝ち上がれる。優勝できず残念なのはわかる。それでもアナタはできる限りのことをしたし、すごく印象的な闘いを見せた。これって誇りに思えること。アナタにはもっと先がある。それを乗り越えれば、この結果だって覆せる。先に進もうよ。私たちで別のことにフォーカスしよう。それがこんどのタッグリーグ戦。私たち2人とも疑いなくパワフルでアグレッシブでしょ。アナタはエンプレス(女帝)で私はゴッデス(女神)。この2人が一緒に闘えば、タッグリーグを占拠できる。優勝しよう」

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これを聞いた舞華は「アナタの言葉に救われました」とリプライ。そして舞華は心機一転、メーガンとのディバインキングダムでタッグリーグ戦を制してみせた。タッグ王座こそ届かなかったものの、パートナーを「ソウルメイト」とし、自信を回復した舞華は舞華待望論が潰えないなかで鈴季との王座決定戦で勝利、悲願の赤いベルトに到達した。

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「どんな気持ちで両国のリングに上がったか? すずをぶっ殺す気でいました、マジで。あんなに人を憎んだのは初めてでしたね。あそこで負けてたらホントにヤバかったけど、勝った瞬間はホッとしたというか。もちろんうれしさもありましたけど、安心したという方が大きかったかな。私ってあまりプレッシャーを感じないタイプなんですけど、試合前には5★STARのときを思い出しちゃったりするんですよ。だけど試合が終わってみんなの歓声が聞こえたときに、いい意味で肩の力が抜けましたね。もちろん、一番をキープしないといけない。ここから大変なのは覚悟してます。ここまでずっと蹴落とされてきたわけだから、むしろここからどうやっていこうかというワクワクしかないですね。スターダムで一番のベルトを取った。だったらさらに上の一番がほしくなる(笑)」

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2・4大阪での初防衛戦では、フューチャー王座戦線からライバルとして闘ってきた上谷沙弥に勝利。立場が二転三転するなか、こんどは舞華が赤いベルトの王者として上谷の先を行ったのだ。すると、試合後の舞華は全選手をリングに呼び込んだ。小川EPも呼び込んだ。当日はスターダム13周年記念のビッグマッチ。「団体の最高峰のベルトを持っている者として、記念大会はみんなで締めるのが筋かなと思ったんです」

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ところが、これがとても意味深な場面となってしまう。もちろんこの瞬間は、選手、関係者ともこの後、あのようなことが待っているとは思わない。観客はその後の出来事を翌日まで知らない。大会終了後、こんどは選手たちがバックステージに召集され、この日をもって小川EPが契約解除となったことを知らされた。それを聞いた赤いベルトの王者は、いったい何を感じたのか?

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「試合後全員呼ばれて、疲れてるのに何って。もしかして事故かなとも思いました。誰かが倒れて救急車で搬送され危険な状況にあるとか、いろいろ最悪の状況を想像しました。発表を聞いて命にかかわることじゃなくて安心はしましたけど、いま(その発表)じゃないだろって思いましたね。ふざけんなよ、このタイミングで大人たちはいったい何をしたいんだと。まあでも、いま私が王者でよかったなって思います! どんな状況であれ、このベルトを持ってる以上、守りたいものは守るし、このリングを守る。その覚悟もついているというか、私がこのベルトを取ったときに全部を背負うと覚悟したので、私でよかったんじゃないかと思いますよ。ふざけんなよって、腹立ちますけどね(笑)」

写真:新井宏

スターダムは岡田太郎社長のもと新たなるスタートを切り、小川氏は新団体を画策中と噂されている。ならば、スターダムから離脱者が出てくる可能性もある。では、赤いベルトの王者・舞華はどうするのか?

「私はスターダムを守りますよ! それが王者としての義務ですから。確かに、スターダムから出ていく選手もいるかもしれない。それは覚悟してます。でも、みんなの帰ってくる場所はここだって思いますけどね。それはロッシー小川も含めて、帰ってくる場所はここにある。私がみんなの居場所は守るから、たった一度の人生、みんな後悔のない選択をしてほしいなと、私は思います。残留宣言? そうですね!」

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舞華はこれまで通り、これからもスターダムのリングに上がる。これまでずっとシングルのタイトルには縁がなかったものの、だからこそこの状況下でのワールド王座政権にはきっと意味があるはずだ。4月以降、リング上の風景が大きく変化することも考えられる。それでも、白川未奈らとともにE neXus Vを結成した舞華がどのようにしてスターダムをよりいっそう盛り上げていくのか。昨年を上回る激動の年になりそうだが、これまでの苦悩と比べればやりがいは桁違い。さらなる“舞華待望論”が、スターダムをより高いステージへ押し上げる。

<インタビュアー:新井宏>

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