原作者の権利を守るためにどうするべき?法律で守られているものの…知的財産の専門家と激論

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、“原作者の権利”について、専門家を交えて議論しました。

◆「他人の著作物を扱うことは、全業界が意識をアップデートする必要」

漫画家の芦原妃名子さんが1月29日に亡くなりました。代表作「セクシー田中さん」は去年、日本テレビでドラマ化され多くの反響を呼んでいましたが、芦原さんは生前、脚本などを巡り日本テレビ側とトラブルがあったことをSNSで打ち明けています。この事態を受け、多くの漫画家や脚本家が自身の経験などを公表。原作の改変問題が波紋を広げています。

今回の一件を通し、知的財産アナリストの永沼よう子さんは開口一番「他人の著作物を扱うことは、全業界が意識をアップデートする必要に迫られている」と現行の著作権のあり方に警鐘を鳴らします。

モデルでタレントの藤井サチさんは、「今回の(ドラマ)制作陣に原作に対するリスペクトがあったのか」と疑問視。

国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんは、「不公平な権力配分が常態化していることが、これで浮き上がってきたと思う」と業界の問題点を示唆しつつ、漫画家という多忙な職業に対し「個人に圧がかかり過ぎている。その仕組み自体が危ないと声をあげる必要がある」と業界の刷新を望みます。

◆原作者の権利は法律で守られているものの…

芦原さんのブログによると、今回の実写ドラマ化にあたっては"漫画に忠実に”、"忠実ではない場合加筆修正”といった条件を設けていたそう。しかし、実際は登場人物のキャラクターが別人のようになっていたり、原作者が物語の"核”として大切にしていた部分がカットされていたり、原作と大幅に異なる部分のある脚本になっていたということです。結果として、1~8話は芦原さんが加筆修正をして放送。漫画にはないドラマオリジナルの展開となる9話・10話は芦原さん自ら脚本を手掛けました。

永沼さん曰く、こうした当初の約束が守られないことはよくあるとした上で、「最初の契約段階でどうなっていたのか今回は明らかになっていないが、もし契約が結ばれていたのであれば、なぜ忠実に再現されなかったのかが問題」と指摘。さらには、契約書の内容を一般の人が全て理解するのは困難とあって「制作が始まった後にフォーマット通りの契約書がまかれて、(原作者が)あまり中身を確認しないことも見受けられる」と問題点を挙げ、「今回がそうかどうかは分かりませんが、(契約書に記載された内容が)どこまで守られるかを認識するのは難しかったのではないか」と推察します。

哲学者で津田塾大学教授の萱野稔人さんは、「現状、契約書に書かれていることと力関係のなかで実際に行われていることには乖離が結構ある」とし、加えて、ドラマの制作現場では原作者、出版社、テレビ局、脚本家が一同に会すことなく伝言ゲームのようにして進み、それによる多くの弊害が出ているとも。

永沼さんによると、"著作者人格権”により法律的には二次創作作品は原作者の意に反する改変はできないとされています。例えば、テレビの尺の問題でシーンを一部カットするなど止むを得ない改変は認められているものの、キャラクターやストーリーの変更といった作品の根幹に関わる部分の改変は原則的に認められていません。

しかし、現実は改変に関わる問題が多発。キャスターの堀潤は、この問題のポイントに"原作へのリスペクト”を挙げます。

これに萱野さんは「リスペクトでは越えられない壁がある。ドラマ化もリスペクト前提で進むが、テレビにはテレビの理論があり、どうすれば人気が出るのか経験則もある。それにより原作から離れてしまう」と言及。

そして、「出版社は、(自社の利益を優先するため必ずしも)原作者の味方ではないという認識する必要がある。そして、原作者の意向を守るためには、原作者が自分で弁護士、法律の専門家をつけられるような制度を、業界を上げて整える必要がある」と対策を主張。

モーリーさんは「(制作現場の)実情は、圧倒的な権力の勾配があるので、クリエイター、個人といった丸裸になりがちな人たちが世渡り術で自分を防御する必要がある」と自己防衛の強化を訴えます。

漫画原作のドラマは近年増加傾向にあります。当番組スタッフが調べたところ、2003年は8本だったものが2023年は35本にまで増えています。そんななか、「ドラマに携わっている子からは、限られた予算、人手、時間など、かなりきつい状況のなかで撮影しているという話はよく聞く」と藤井さんが関係者から耳にしたドラマ業界の現状を伝えると、永沼さんは「ハラスメントが生まれやすい環境ができているような気がする」と補足。

さらには、「誰のため、何のためのメディアミックスなのか。本来であれば作品をより認知してもらうための戦略だったはずなのに、今はメディアミックスありきで作品を生み出したりもしている。そうすると原作者よりも二次創作のパワーが圧倒的に大きくなってしまうこともある」と永沼さんは危機感を募らせます。

◆原作者の権利を守るためにすべきこと

今回の議論を踏まえ、原作者の権利を守るためにはどうするべきなのか。コメンテーター陣が提言を発表します。まず、藤井さんは「どんなことが行われ、どうしてコミュニケーション不足になってしまったのか知りたい」と"情報の開示と説明”を切望。そして、「アメリカでも脚本家組合のストライキが行われていたが、パワーバランスが不適切なのであれば、そこに向けて議論が必要」とも。

モーリーさんの意見は、"性悪説で臨む”。「原作者が大切にされていない、強いのはスポンサー、広告代理店と割り切って臨み、どこまで譲歩すればいくらもらえるのかなど、しっかりとした大人の約束があれば、(ドラマ)制作側も『これ以上制作費はかけられないので原作の通りにいこう』となる可能性はある。落としどころができやすいように、あえて性悪説で臨むこともひとつの手段」と主張します。

萱野さんは、法律や契約書上は原作者を保護する形になっていることが多いものの、「実際の力関係のなかでそれがなかなか実現されていない」と嘆き、改めて原作者が制作側と交渉できる体制作りを業界全体で構築していくことを望みます。

永沼さんは、各自が法律・契約を学ぶことを提案。「そうしたものを学ばずに世の中に出てしまうので、できれば教育で、学校で学ぶような世の中になってほしい」と希望を述べ、「全ての判断の前、下支えにリスペクトを持ってほしい」と訴えていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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