東大推薦入試の結果から女子優遇措置を考える

東大推薦入試 女子の人数、比率いずれも過去最高

2024年2月13日、東京大で2024年度の学校推薦型選抜(以下、推薦入試)の合格者が発表された。志願者は256人でうち女子は118人(46.1%)。合格者は91人で女子42人(46.2%)だった。女子の人数、比率いずれも過去最高である。

この結果を「意外」と受け止めた方は少なくないだろう。

2023年、東京大は一般選抜で合格者2997人のうち女子は653人で21.8%で、初めて20%を超えたが、それ以前は20年以上、10%台後半を推移していた。この現実を考えると、女子が半分近いというのは信じがたかったからだ。

なぜ、推薦入試の合格者で男女がほぼ半々になるのか。高校教員からは「女子はまじめでコツコツ勉強するから」「東大が推薦で求める高校在学中の活動では、女子のほうが意欲的でチャレンジングな成果を残しているから」という話を聞くことがある。もっともらしい意見だが、これらは感覚的な受け止め方で、「女子だから」という性差に理由を求めており、説得力に欠ける。

じつは推薦入試において、女子が多いのはそれなりの理由がある。

募集要項には、学校長は合計4人まで推薦でき、その内男女は各3人まで。ただし、男女いずれかのみが在学する学校においては、推薦できる人数は3人までとある。共学校は推薦枠を4人持っているが、男女それぞれ3人までとなっており、4人すべて男子あるいは女子はダメだ。一方、男子校と女子校はそれぞれ推薦枠3人である。共学、女子校いずれも3人志願できるようになった。

なぜ、共学校に男子校と女子校よりも推薦枠を広げたのか。それはこれまで東京大に合格者を多く出す学校の分析に基づく「政策判断」によるものと読み取れる。2023年、東京大合格者上位5校(開成、筑駒、灘、麻布、聖光学院)はすべて男子校だ。上位21校まで広げるとは男子校14、共学校6、女子校1で、男子校が圧倒的に強い。この状態は30年近く続いている。

そこで、東京大は「男女いずれかのみが在学する学校」、現実には東京大合格上位常連校の男子校からの推薦枠を制限し、女子を増やそうとしたことがうかがえる。もし、共学校、男子校、女子校の推薦枠が同じ4人ならばどうか。2023年上位14校の男子校に占有され、女子比率はこんなに高くならなかったことは容易に想像できる。

もちろん、これは女子枠ではない。だが、女子を増やそうという巧妙なやり方と言えよう。東京大は共学校、女子校の女子にウエルカムという姿勢を示したのだ。言葉を変えれば、女子優遇措置である。

女子を増やしたい。これは多くの大学が望むことである。中長期計画に「○○年まで女子学生を○○割にする」ことを掲げる大学がたくさんある。現在、東京大は女子学生比率を2026年までに3割に引き上げることを目標としている。あと2年後である。しかし2023年は留学生を含んでも23%台。さすがにこれはむずかしい。ならば女子枠を作るしかない…。

しかしそもそも、女子枠というのは、学生募集には馴染まない。女子に対する特別扱いではないか、という男子側から不満の声を聞くことがある。「アファーマティブ・アクション」によって優秀な人材が高等教育を受けられないというロジックと同じだ。

だが一歩譲って、わたしは大学で女子枠があってもいい、と考える。日本社会では長い間、さまざまなところで女性が活躍できなかった。大学はその最たるものである。キャンパスが「女子禁制」だったというわけではない。「女子は大学へ行く必要ない」「女子は文科系が合っている」という社会的刷り込みが蔓延していたからだ。その名残は東京大、そして理工系の女子比率の低さに示されている。

1980年代以降、男女共同参画社会という考え方が広がったとはいえ、男女の役割分担的な考えは染みついている。これを変えるには思い切った政策が必要だ。ショック療法と言ってもいい。女子を優遇して数を増やすという既成事実を作る。女子枠導入で学生のレベルが下がると大学は思っていない。女子学生を教えてきた経験から、その優秀さを認めているからだ。

いくつかの大学は決断した。優れたポテンシャルを秘めた優秀な女子を優遇したいと、理系学部で女子枠を検討するところが続々と現れた。少子化が進むなか、大学の危機感の表れでもある。

2010年代半ば以降、北見工業大、東京工業大、芝浦工業大、東京理科大、富山大、名古屋大、兵庫県立大、島根大、熊本大などが、学校推薦型選抜、総合型選抜で女子枠を設けた。理系分野で女子を増やすこと。それが日本社会の発展につながると信じたい。

教育ジャーナリスト

小林 哲夫さん

1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 橘木俊詔氏との共著)。

© 大学ジャーナルオンライン