『おっさんずラブ』よ永遠に! 続編で深まった“大切な人を大切にすること”の意味

「もっと生きて、はるたんと牧の幸せをそばでずっと見ていたいよー!」

黒澤(吉田鋼太郎)の切実な願いは、この作品を愛する私たち全員の願いだ。付け加えるとしたら、春田(田中圭)と牧(林遣都)はもちろん、登場人物全員の幸せを永遠に見ていたい。

別れの季節である3月の初日、連続ドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)が早くも最終回を迎える。2016年の年末深夜放送の単発ドラマから発展してきた本シリーズ。中でも、「天空不動産」の営業所に勤める独身サラリーマンの“はるたん”こと春田と、その上司である黒澤、後輩の牧によるピュアラブストーリーを描いたドラマ第1シリーズ、通称“初代おっさんずラブ”は日本のみならず、世界中で社会現象を巻き起こし、翌年には映画化もされた。

その続編となる本作の第1話は、劇場版で上海・香港転勤から帰ってきた春田とほぼ入れ替わりでシンガポール転勤が決まった牧が帰国し、二人の同居生活が再び始まるところからスタートした。劇場版の公開から5年。その間、私たちは新型コロナウイルスに振り回される日々を送っていた。行動を制限され、好きな場所には行けず、会いたい人にも会えず、緊急事態宣言が解除されても感染対策に気を配らなくてはいけない。大事な人をコロナで亡くした人も大勢いる。だからこそ、前作からメインキャスト全員が揃い、スタッフも続投という奇跡にまずは感謝したい。今、こうして登場人物たちの変わらぬ元気な姿を見れていることは決して当たり前ではないのだ。

春田と牧もコロナ禍の遠距離恋愛を経て、そのラブラブっぷりにも拍車がかかっている。何より、春田の牧に対する好きが溢れた表情や言動にはこちらまであてられそうだ。かつては男性同士ということでデート中も人目を意識していたのに、今では憚らずに外でもスキンシップを取る春田。その隣で安心しきった笑顔を浮かべる牧を見ていると、心の底から良かったねという気持ちが湧いてくるのと同時に、人をそこまで変えてしまえることにもはや尊敬の念を抱く。だけど、分からなくはない。若くして課長に昇進しても役職に甘んじることなく休日にも勉強して、家事も可能な限り精一杯やってくれる。一方で結婚指輪をなくして泣いちゃうような一面もあって、そんなの大事にしなきゃと思うのは当然だ。

また春田はもともと思いやりのある人間だけど、さらに愛情深くなったような気がする。それは牧に対してだけではない。愛する人を得て、満たされた心の余裕がそうさせるのか、周囲にも惜しみなく愛情を注ぐ。中途採用で会社に入社してきたポヤポヤな部下・和泉(井浦新)をサポートする姿は以前よりも頼もしい。牧のお父さん、つまりは義父にあたる芳郎(春海四方)の介護にも前のめりで、お尻まで拭こうとする。普通はそこまでできない。

そんな春田を見て、牧も変化していく。苦手な結婚式やホームパーティーも春田が望んでいるならばと譲歩する牧。家政夫として家を出入りする黒澤のことも春田にとっては父親のような存在だが、牧にとっては春田の昔の男であり、複雑な思いだろう。だけど、同居開始直後の大変な時期に助けてもらったこと、自分たちの幸せを心から願ってくれていることに感謝もしている。余命1カ月を宣告された黒澤からのビデオメッセージに号泣する牧もまた、大切な人の大切な人を、大切にできる思いやりと愛に溢れた人間だ。

シングルマザーとして息子を育てながら、復職して多忙な日々を送るちず(内田理央)、そんな彼女を“家族”としてサポートする“まいまい”こと舞香(伊藤修子)と鉄平(児嶋一哉)、嫁姑問題を乗り越えて二世帯住宅で仲良く暮らす栗林(金子大地)と蝶子(大塚寧々)。そうした仲間たちの影響を受けながら、春田と牧が家族になっていく過程を私たちは追ってきた。喧嘩することがあっても、好き嫌いや価値観が違ってもいい。相手に歩み寄り、お互いが納得して幸せだと思える道を探っていく。そうしていくうちに自然と人と人は“家族”になっている、というのが彼らから教わったことだ。

そういうある種、面倒臭い努力はお互いを大事に思えばこそできること。黒澤は春田へのくすぶる想いに“推し”という名前をつけたが、武川が“オムツパートナー”を探してありとあらゆる手を尽くすも、結局は牧を忘れられないように、本当に好きな人と結ばれるとは限らない。結ばれたとしても、“菊様”こと菊之助(三浦翔平)が想いを寄せる和泉のように、ある日突然、その大事な人を失うこともある。黒澤の余命宣告はまだ本当かどうかはわからないが、絶対にそういうことがないとは言い切れない。だからこそ、目の前にいる人を大事にしようとこの作品は思わせてくれる。

本作は一旦最終回を迎えるが、また春田や牧たちに会いたい。願わくば、現実世界が同性同士でも結婚できるようになり、春田と牧が書面上でも“家族”になれる日まで。いや、登場人物全員がおじいちゃんおばあちゃんになって、天寿を全うするその時まで。私たちにも長生きして、彼らの人生を見守り続けさせてほしいと願う。
(文=苫とり子)

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