右かと思えば

 鏡に映る像は、左右が逆でも、上下は逆にならない。なぜだろう。科学者にとっても難問らしく、定説はないという。諸説のいくつかを調べても、白状すればてんでのみ込めない▲右かと思えば左、左かと思えば右。見ていて危なっかしいという意味で、“奇策”に走る岸田文雄首相の姿は、鏡の中の像に見えなくもない。政治資金パーティーの裏金事件を受けて、現職の首相として初めて、衆院政治倫理審査会に出席した▲自民党の安倍派幹部が公開審査を渋っていた。なんとか予算案を通したい首相は「俺が出る」と捨て身の覚悟を示したが、野党幹部から「お呼びじゃない」とまでののしられている▲首相はそもそも、審査会を巡るごたごたを懐手(ふところで)で見るばかりだった。「右から左」のこの変わりようを、説明責任を全うするための果断とみる人はあまりいないだろう▲振り返れば、問題を受けて自民の「岸田派」の解散を出し抜けに宣言したのも「右かと思えば…」の奇策だった。これを暴走と受け取った自民の茂木敏充幹事長はそっぽを向き、首相一人が対応をしょい込んだともいわれる▲審査会では裏金にまつわる新証言もなく、右往左往に終幕の気配はない。国民の目に映る岸田内閣の像はいずれ「すってんころりん」、上下まで逆に見えてこないか。(徹)

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