「悔しい経験をプラスに活かせるよう」なでしこジャパン・清水梨紗が挑む二度目の五輪。さらなる成長を支える食生活

アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場するのは、サッカー女子日本代表の一員としてパリ五輪を目指す清水梨紗選手だ。2022年の夏からイングランドのウェストハムでプレーする“なでしこジャパン”不動の右SBが、海外生活やプロ選手としての矜持、食生活と身体づくり、今後の目標などを明かしてくれた。

■サッカーとの出会い、プロへの道

――サッカーをやり始めたきっかけは?

姉がやっていた影響です。最初は当時としては少し珍しい、関西の女子クラブからスタートしました。姉に付いて行って、一緒にプレーして、どんどんハマっていきました。その後、親の転勤で関東に引っ越しました。それまでもいろんな習い事をやっていましたが、東京でも唯一続けたいと思ったのがサッカーでした。

――12歳のころにベレーザ下部組織のメニーナに入団されました。同期には長谷川唯選手、籾木結花選手、土光真代選手らがいました。当時のチームの印象を教えてください。

めちゃくちゃ強かったですね(笑)。みんな上手くて毎日が戦いでした。切磋琢磨し合った仲間です。同い年の選手とはすぐに溶け込めました。同時に、チームの最年長は高校3年の世代もいて、挨拶や礼儀など、人としても育ててもらいました。

――入団後にサイドハーフからSBにコンバートされました。どのように受け止められたのでしょうか?

中学2年当時、寺谷(真弓監督)さんに進められたのがきっかけです。最初は訳も分からずやっていた部分もありますが、試合に出るチャンスも増えたので、ポジティブな気持ちでやっていました。
――その後、U-14、U-15と世代別の代表チームに選ばれ、U-17女子ワールドカップという国際舞台でも活躍されるなど早くから実績を残されました。そして、トップチームのベレーザへ昇格します。

昇格当初はちょっと苦しい時期もありました。なでしこの中心選手たちもたくさんいるチームでしたから。伝統あるチームで、プレッシャーもありましたが、次第に自分もと、必死に喰らいついてプレーしていました。

――サッカー選手としての将来を思い描いたのはいつ頃のことだったのでしょうか?

正確な時期はありません。プロになれるとも思っていませんでした。以前は、先輩選手たちもプロ選手としてやっていた方々はほとんどいませんでした。ですが、大学を卒業する時に、スポンサーの方からプロのお話を頂いて、自分もプロになれるんだと。そこから、サッカーに集中できる環境が整い、逆に言い訳できない状況にもなりました。

――当時のベレーザは2015年からリーグ5連覇だけでなく18年には国内三冠、19年にはAFCクラブ選手権も優勝されタイトル四冠を達成しました。

タイトルを獲得できるようになって、自信も深まってきました。特に、2018年からの永田雅人監督時代には、戦術やサッカーのスタイルなど、とても刺激を受けました。考えてプレーするようになり、サッカーの見え方も大きく変わりました。
■日本代表、海外移籍

――21年には東京五輪に出場。準々決勝でスウェーデンに1-3で敗れる結果となりましたが、初出場となった東京五輪を振り返っていかがでしょうか?

世代別代表を含めれば、いろんな大舞台を経験させてもらいました。でも、自分は良い結果で終われず、毎回悔しい思いをしています。東京五輪の時もそうでしたが、先のニュージーランド(女子ワールドカップ)でも、悔しい経験をプラスに活かせるよう、大会ごとにステップアップしていきたいですね。次のパリ五輪は、まずは出場を決めたいです。

――22年夏にベレーザからウェストハムに移籍されました。海外挑戦を決めた理由をお聞かせください。

年齢的には遅かったと思います。それまでは海外移籍を考えたことはなかったのですが、東京五輪で海外との差を痛感し、どう対抗していくか考えたときに、ひとつのアイデアとしてありました。ベレーザ時代に積み上げたプレーを海外の選手相手にどう応用させていくのか、そんな楽しみもありました。いろいろと情報を得たなかで、イングランドが一番じゃないかなと、今の場所を選びました。
――海外挑戦のメリットはどのようなところでしょうか?

移籍のきっかけとなったひとつに、(マンチェスター)シティに所属しているローレン・ヘンプ選手との対戦経験がありました。速くて、切り返しも鋭くて、シュートも打てて、クロスも上手。身体が当たってもビクともしなかった。そういう選手がイングランドにはたくさんいます。そんな選手たちと対戦する回数が増えて、当初よりは慣れてきた感覚があります。普段から自分の予想を上回る体験ができるのがメリットのひとつだと思います。

――私生活やメンタルでも変化はありますか?

日本とは違って、自分の思い通りにならないことだらけ。その分、あまり小さなことは気にせず過ごせるようになりました。代表のチームメイトたちのアドバイスも生活面ではとても役に立っています。キャッシュレスなので、「モバイルバッテリーは絶対にもってきたほうが良いよ」とか(笑)。あとは良く聞く話かもしれませんが、調味料とかですかね。日本のサランラップも必須でした(笑)

――クラブでの過ごし方も違いがありますか?

施設が整っていたり、スタッフの数は違いがあります。栄養士とか、トレーナーなどのフィジカル面のスタッフだけでなく、メンタルケアをしてくれるスタッフもいます。不自由なくサッカーに集中できていますね。
■食生活、キノコに関して

――食材としてのきのこについての印象は教えてください。きのこは日常的に食べていますか?

私の家族は全員がきのこ好きなので、小さい頃から食卓にきのこ類が多く、馴染みのある食材ですね。中でもしめじの肉巻きが好きでよく母に作ってもらっていました。それもあって、今もきのこは好きで食べることは多いです。イギリスで暮らしていると限られたきのこの種類しかないですが、イギリスでもきのこはよく使うようにしています。お鍋に入れたり、ホイル焼きにしたりして食べるのが好きです。

――きのこを使った料理で好きなものがあれば教えてください。

今は海外に住んでいるので、マッシュルームくらいしか簡単に手に入りません。日系のスーパーに行った時に買ったものを冷凍して、それをお鍋に入れたり、ホイル焼きにして食べるのが好きです。

――きのこは低カロリーで栄養価の高い食材として注目されていますが、そういった栄養的な価値はご存じでしたか?

あまり詳しいことは知らなかったのでこれを機にいろいろと勉強したいと思います
――現在の食生活を教えてください。また海外生活において食事で苦労することはありますか?

初めて自炊をして生活しています。食事制限はあまりしたことがなくて、ちゃんと3食ご飯を食べることを意識しています。もともと、たくさん食べられるほうではないので、トレーニング後の補食をして、足りない栄養やエネルギーを小まめに補給する工夫はしています。練習後のお昼はチームで出してもらっています。朝はオプションなのですが、自分はお米が食べたいので、朝夕は自炊です。

――幼少期や学生時代の食生活について教えてください

実は、小さい頃は緊張するタイプだったので、試合前はいつもよりエネルギーを蓄えないと、食べなきゃとプレッシャーも感じていて、苦しかった思い出があります。

――競技で活躍するために食事や栄養管理で工夫していること、意識していることはありますか?

普段の食事のルーティンとして、試合前はエネルギーになる炭水化物を沢山摂ることを心がけています。逆に試合後はなかなか食が進まないので、食べやすく疲労回復を重要視して食事するのを心がけています。

代表ではシェフに帯同してもらえるようになって、料理の作り方やコツなどから、栄養面でのアドバイスももらっています。食事は良いプレーをする上で欠かせない要素。今は食に興味を持つ選手が増えてきていると感じます。

――きのこには腸内環境を改善する働きも報告されています。腸の状態、腸活について意識したことはありますか?

体が疲れてくると、お腹が張りやすくて、腸内環境が良いときはコンディションがいいと感じるので自分の調子を知る目安になっているのかなと思います。疲れを取りたい時は刺激を与えず、腸内環境を整えるようにしています。特に食物繊維などは不足しがちなので、海外生活では意識して摂っています。
■これからのこと

――残りのリーグ戦はもちろん、2月には北朝鮮との五輪最終予選(※)があります。これからの目標をお聞かせください。(※取材日:24年1月20日)

リーグでは下から2番目で厳しいところにいます。今後はどれだけ勝星を積み上げられるか。自分自身は、ウェストハムでも代表でも、絶対に怪我をせずに、常に試合に絡んで、コンスタントにパフォーマンスを出せるかにこだわっています。常に試合に出続けるのがずっと目標にしていることです。

――2011年のワールドカップ優勝以降、なでしこジャパンには常に大きな期待やプレッシャーがあったかと思いますが、どのよう向き合っているのでしょうか?

2011年の優勝を自分もテレビ越しに見ていて、なでしこジャパンになりたいと思いました。女子サッカーを盛り上げるのはなでしこジャパンの活躍が不可欠だと思っています。

■ジュニアアスリートへのアドバイス

――高校、大学に通いながら選手生活を続けていました。学業とスポーツを両立させるためのアドバイスがあれば教えてください。

学業もサッカーにつながっていると思っています。逆に、サッカーを一生懸命やれば、それが勉強にも生きるはず。両立するのは難しいですけど、努力を重ねることはどちらも同じだと思います。自分の人生を豊かにしていく部分にも繋がってきますよね。

――最後にジュニアアスリートへアスリートとして上達するために必要なマインド、競技への向き合い方などのアドバイスをお願いします。

まずはプレーしているスポーツを楽しむことが大事です。いろんなことを考えて、いろんな話を聞いていると思いますが、頭でっかちになり過ぎず、思いっきり楽しむことも必要です。自分はジュニアの頃、食が細くて親の助けも借りてきました。自分に合った食事を見つけていくのも必要だと思います。
しみず・りさ/1996年6月15日生まれ、兵庫県出身。

日本女子代表通算62試合・1得点。2009年にベレーザの下部組織メニーナに加入すると、FWから徐々に守備的なポジションへ転向。不動の右SBとして、各世代別代表にも選出。トップチーム昇格後も主力に定着し、リーグ5連覇をはじめ、数々のタイトルを獲得。20年からはキャプテンも務めた。昨年夏にイングランドのウェストハムへ移籍。3CBの右や、左右のウイングバックにも対応し、新チームでも不可欠な存在となっている。

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