「キャンプの備えがあれば、避難生活にも」ソロキャンプに魅了された料理人が考える『災害時に活かせる』スキルとは

一人で過ごすソロキャンプが、コロナ禍以降も人気を集めている。香川県観音寺市の元地域おこし協力隊員で、料理人とソロキャンパーの肩書きを持つ小原祐二さんは、ソロキャンプの魅力を発信する活動に取り組んでいる。「朝、太陽と共に目が覚めて、コーヒーを飲む。自然の中で過ごす時間が好きです」という小原さん。災害が多い日本では、キャンプのスキルが「災害時を生き抜く力になるのでは」という思いも抱く。

近所の湧き水ポイントを確認

火を起こして、料理する。雨風を防ぐテントやタープを張る。山に潜む危険を熟知して、安全に眠る。ソロキャンプで必要なスキルだ。小原さんは「今晩、もしも災害が起きたら、キャンプでしばらく生き抜く自信はあります。住んでいる地域にある湧き水の位置も、普段から何か所か確認しているんですよ」と話した。

テントを設営する小原さん(提供)

キャンプ歴は13年ほどで、本格的にソロキャンプを始めたのは5年前。ブッシュクラフトインストラクターの資格も取得した。ブッシュクラフトには、人工物を極力使わず、自然環境の中でサバイバルするスキルが必要だ。

「子どもの頃から都会で育ったので、自然の中で過ごせるキャンプが気に入っています。自分のペースで過ごせて好きなものを食べたり飲んだりできるところが、ソロキャンプの魅力です」と話す。

おすすめのキャンプ料理は、一つの鍋で3食が楽しめる食べ方だという。小原さんは「昼に豚しゃぶを食べて、夕方に水餃子を楽しみ、最後に食材からたっぷり旨味の出たスープでラーメンをいただきます。本当に美味しいんですよ」と教えてくれた。

水餃子は手作りしなくても、市販品を使えばオッケー。豚しゃぶは、豚肉とキャベツに加え、きのこやネギを入れても美味しい。最後のラーメンは、お好みの袋ラーメンの麺だけを使う。「最後まで美味しいとは、このことです」と小原さんは笑った。

猟のお供だったシュークルート

小原さんは19歳でフランスに渡り、2つ星の店などで修行した経験がある。日本人シェフから渡仏を勧められ「本場で修行してみたい」という夢を抱いた。最初に修行した店では、休みになるとシェフと猟に出かけた。そのとき、狩人たちと食べたシュークルート(フランスの煮込み料理)は、今でも小原さんが好きなキャンプ料理だ。

美味しそうなシュークルートが出来上がった(提供)

「キャンプでは材料が傷みやすいので、前の夜から酢漬けのキャベツと塩漬けの豚を準備します。現地では、それをソーセージと一緒に煮込むというシンプルな料理ですが、火が通りやすい煮込み料理がキャンプにはおすすめなんですよ」

調理道具は、フランスで出合ったSTAUB鍋(ストウブ鍋)を使う。当時はシェフに教えてもらいながら、狩人たちの昼食を作る役割を果たしていた小原さん。寒い時期のキャンプでは温かい料理が恋しくなるが、アルコールにもよく合うシュークルートが小原さんのお気に入りだという。

「女子キャン」の講師も

日本に帰国後は埼玉県内で独立し、フランス料理の店を開いた。若い頃に抱いていた「自分の店を持つ」という夢を実現。その後は「25年間携わった料理を卒業して、好きなキャンプをメインの仕事にしたい」と思い描いて2021年2月、香川県観音寺市の地域おこし協力隊員として活動を始めた。

ピザ教室で講師を務める小原さん(提供)

香川県は、祖父母が住んでいた土地でもあり、小原さんにとって「夏休みになると遊びに行く自然豊かで大好きな場所」だった。活動の軸をキャンプに寄せたかったが、料理に関わる仕事を依頼されることも多かった。

同市五郷地区では、手作りの本格石窯を使ったピザ教室が定期的に開かれた。地元で採れる野菜をトッピングしたピザ作りを参加者に体験してもらう活動だ。三豊なすや原木しいたけ、オクラ、ピーマンなど野菜をふんだんに使っており、煙から出た煙がピザに香ばしさを加えて味わい深かった。

女性を対象にした「女子キャン」で火の起こし方を教える小原さん(提供)

キャンプを学びたい女性を対象にした「ビギナー女子キャン」の講師は、ボランティアで引き受けた。メタルマッチを使った火起こしや、一人でも立てられるタープの設営、キャンプの危険や注意点などを教えた。40人ほどの卒業生を輩出し、小原さんが管理するプライベートキャンプ場で安全にキャンプを楽しんでもらっている。

2024年1月に協力隊員の任期を終えると、3月に同市内でオーナーシェフとして飲食店「BAR KNUT(バル・クヌート)」をスタートさせる。ランチでは本格ピザ、ディナーは小原さんの経験を生かし、フランス料理やキャンプ料理からヒントを得た料理と自然派ワインなどが楽しめる店になる予定だという。

キャンプを楽しめば防災準備に!?

自然の中で焚き火を見つめながら、料理や飲み物を楽しむ。そんな贅沢なキャンプの時間だが、小原さんの中では災害時のサバイバルと結びつく。大災害のたびに繰り返される避難所の様子を映像で見ると「キャンプ道具の備えがあれば、避難生活にも使える」という思いを抱く。

小原さんの車には普段から寝袋を積んでおり、飲み水に使える携帯浄水器を常備。火起こしには、火打ち石やメタルマッチを使う。すぐに食べられる非常食として、普段から乾麺のパスタを備蓄している。

キャンプではアクアパッツアなども調理する(提供)

日本の災害時の避難所は、プライバシーが十分に保たれていないなど課題が多い。災害時の避難場所としてキャンプ場を開放している場が近くにあった場合、プライバシーが保たれる場所でキャンプのライフハックを生かしつつ過ごせればよいのではないかと小原さんは考えるという。

休日の楽しみでもあるキャンプが、緊急時にサバイバルのスキルになるなら一石二鳥ではないだろうか。

「キャンプに行けるということは、しばらくの間は自力でサバイバルできるということです。便利になりすぎた現代社会において、自然の中で不便を体験したり、危険を知ることは大切だと感じます。自分でもソロキャンプを楽しみながら、キャンプのスキルを多くの人に伝えたいと思っています」

さぬきクロスケ

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