議員からのパワハラを撲滅せよ 「ハラスメント防止条例」導入した自治体に変化はあった?

画像はイメージです(mits / PIXTA)

近年、地方自治体でハラスメント防止条例の制定が相次いでいる。議員や職員のハラスメントを防ぐための単独条例だ。一般社団法人地方自治体研究機構の調査によると、全国で43条例が制定されている(2023年12月27日時点)。

条例が生まれた背景には、一般市民から職員に対するハラスメントだけでなく、議員から職員に対してもパワハラなどの深刻なハラスメントがやまない問題がある。

茨城県石岡市が2024年、全職員を対象に実施したアンケートでは、議会に対応する職員28人のうち27人が過去2年間で市議から「ハラスメントを受けた」と回答していたことがわかった。また2023年には、長生村議会の議長が、村役場の女性職員に対してけがを負わせたとして議員辞職した。議長は障害の罪で略式起訴され、後に罰金20万円の略式命令を下されている。

ハラスメント防止条例を制定した自治体や過去に議員のハラスメントが明らかになった自治体では、どのような対策をしているのか。(ライター・篁 五郎)

●【世田谷区】全会一致で可決

東京都世田谷区は2021年に「ハラスメント防止条例」が制定され、現在も対策を実施している。

「区内でハラスメント事例があったから、条例を制定したわけではありませんでした。他の自治体でハラスメント行為があると聞き、将来的な被害を防ぐために条例を制定することにしました。元々議員のハラスメントに対する意識が高いこともあり、全会一致で可決しています」(世田谷区議会事務局)

条例が制定された後は、ハラスメントの形態や基礎知識に関する研修を実施した。現在は、世田谷区役所が移転するため研修の時間を取るのが難しい状況だが、その後は研修の回数を増やしていく方針だという。

●【柏市】悪質なケースでは、加害者の氏名を公表することも可能

2023年にハラスメント条例を可決した千葉県柏市議会も、世田谷区同様に他の自治体で起きたハラスメント事例を聞いて議会で明文化しようと審議会を設置したところからスタートした。

市議会では、職員にアンケートを実施。1827人から回答があり、「(ハラスメントを)受けたことがある」(157人)、「(ハラスメントを)見たことがある」(316人)という結果だった。

柏市議会の円谷憲人議長は、「この結果をもとに条例を制定したのではなく、制定を前に市議会の審議会が実施したもの」だといい、「柏市のハラスメント条例はかなり厳しい内容」だと胸を張る。そのためか採決した際、34人中5人の反対が出ている。

「他の議員のハラスメント行為をみた場合は直接指摘するほか、悪質なケースでは、加害者の氏名を公表することも可能です。制定後は、定期的に研修会を行って議員の意識を高めるとともに、相談窓口も設けました。匿名で議会事務局に通報できるようになっていて、被害者だけではなく、目撃した人も連絡できます」

通報した後も「議長に注意してほしい」といった具体的な内容も聞くようにしているそうだ。さらに、相談者の要望にきめ細やかな対応ができるよう第三者委員会の設置に向けて準備しているという。

円谷議長によれば、制定後、ハラスメント防止の意識が議員全体で高まったせいか報告は寄せられていないという。

●【相模原市】元議長の職員へのハラスメント行為発覚後に対策始める

相模原市議会は、2021年に議長経験者の議員が職員へパワハラをしていたことが発覚。マスメディアでも大きく報じられ、事態を重くみた市議会は当該議員に対して議員辞職勧告決議案を全会一致で可決。勧告を受けた議員は後日辞職をした。

その後、同じことを繰り返さないよう相模原市議会は事務局と議員が協力してハラスメント対策を行っている。 相模原市議会政策調査課によれば、対策案は、市議会の各会派の代表者と議会事務局が集まり、再発防止に向けた協議を行うところからスタート。具体的には、議員基本条例の政治倫理にハラスメントに対する内容を盛り込む、研究会の実施、など3つの対策案を策定した。

2021年以降はハラスメント被害を訴える声はなくなっているそうだ。現在はハラスメント以外に男女共同参画に則った相談体制の構築や、他の自治体の動向を研究してハラスメント撲滅できるような新しい対策を考えているという。

今回取材した自治体で共通していることは「ハラスメントは許さない」という強い意識を持っていたのが印象的であった。ハラスメントをなくすためには、お互いを尊重して接するのはもちろん、ハラスメントへの知識も不可欠である。そのためには継続して取り組む必要がある。

【筆者プロフィール】篁 五郎(たかむら ごろう):神奈川県生まれ。接客業、カスタマーサポートなど非正規雇用を転々とした後、フリーライターに転身。現在は取材記事を中心に社会や政治の問題、医療広告、スポーツ、芸能、グルメと雑多なジャンルを執筆している。

© 弁護士ドットコム株式会社