もうひとつのHONDAパワー「大型船外機BF350」最後発だからこそ、最高のものができた。

「ホンダがV8エンジンを発売した」・・・・・・ホンダファン、エンジン好きには、見逃せないニュースである。ただし、これはクルマではない、船外機の話だ。それでもホンダ初のV8エンジンや新開発&専用開発に気分が高揚してしまう。それにしてもこのフラッグシップエンジンはどのようにして生まれたのだろうか。商品責任者に聞いてみた。(文:千葉知充/写真:井上雅行、Motor Magazine 2024年4月号より)

「究極のマルチシリンダー」を搭載した大型船外機、BF350

ホンダがV8エンジンを発売。

ただしこれは船外機の話だ。それでも気持ちが高揚する。ホンダ車でさえ搭載しないV8エンジンを 船に積んでしまうのだから、興味を示すなというのが無理である。

ホンダパワープロダクツ事業の中で船外機を扱う、マリン事業が今回の主役。そもそも四輪にもない マルチシリンダーの究極、V8エンジンをどうして船外機で開発したのか、興味は尽きないが、まずは新型大型船外機「BF350」の詳細を紹介したい。

このモデルは名前に「350」とあるように、最高出力350psを発生するホンダ船外機のフラッグシップモデルである。前述のとおり、ホンダにV8エンジンを搭載するクルマはない。つまり、このエンジンは、船外機のために専用設計された「特別なV8」なのだ。

特徴は、新設計のクランクシャフトを採用することで高い静粛性と低振動性を実現している点。他 にも環境面でもクラストップレベルの燃費性能を誇る、環境にやさしい経済的な船外機なのである。
機能も充実した。航走中に一定の回転数や速度を維持するクルーズコントロール機能や、スピード、 回転数に応じて最適な船体姿勢に制御するトリムサポート機能(ホンダ船外機初搭載)などの操船支援機能が採用されている。

さらにエンジン停止中にボタン操作で事前設定の角度まで自動上下するオートマチックチルト機能、高出力チルトモーター採用で寒冷地などの環境でもチルトスピードを落とさない操作が可能。
またオイルフィルターを交換する際、オイルがこぼれない工夫や整備・修理領域をフロント側に集約させるなどのメンテナンス性も向上させている。

BF350がスムーズに開発できたのは、ホンダの四輪の技術のおかげ

商品責任者の伊藤慶太氏(本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 マリン事業部 商品責任者 エグゼクティブチーフエンジニア)

商品責任者にも話を聞いた。

── まずはどうしてV8エンジンを開発したのか、教えてください。

伊藤氏 「船外機の世界は大型化が進んでいます。アメリカの中でも、フロリダのような市場では300馬力を超えるクラスの船外機が当たり前で、一般販売の伸びが高いのもこの300馬力を超えるクラスです。

ホンダは、2011年に出した250馬力の船外機BF250はありますが、それより大きい船外機はありませんでした。しかし、他社に対抗するためには、300馬力以上の船外機が必要だったのです。
300馬力以上の船外機ではホンダは最後発なのですが、最後発ならではの洗練された商品を目指してBF350を開発しました。この構想は以前から持っていて研究開発を進めていましたが、実は最初から350馬力にすると考えていました。最後発なのでホンダらしいエンジンで最高のものを作ろうと決めていましたが、結果的には正解でした。」

── ホンダはクルマにもV8エンジンはありません。ホンダが持っていない技術ではないのですか。

伊藤氏 「いえ、ホンダの技術力や経験値を使っています。特に難しいクランクシャフトやシリンダーブロックなどを中心に四輪の知見を活用し、最初の段階から生産に入るまで、四輪出身のエンジニアと一緒に作り上げました。

たとえば船外機は横幅に制限があります。複数掛けしたときに横が当たってしまうので、一定のピッチが必要となり、幅を広げると不利になるのです。V8エンジンでは90度のVバンクが一般的ですが、船外機では横幅が広すぎる。そこで、BF350のV6エンジンで採用の60度V角を踏襲したV8エン ジンに決定しました。

60度Vの成立には、クランクシャフト起振動の低減と軸受強度の両立が課題なのですが、オフセット したクランクピン構造の採用で高次元で両立し、全体最適につながりました。つまり、BF350がスムーズに開発できたのは、ホンダの四輪の技術のおかげなのです」

実際に使っているユーザーからフィードバック

──クルマの世界ではV8サウンドを楽しむことがあります。船外機はそうではないのですね。

伊藤氏 「上質な音は大切です。クルージング時に会話ができるのは最大の価値だと思います。4000rpmぐらいでクルージングしているときにいかに静かなのかが重要なのです。もちろん高回転で効いてくるVTECの音を楽しむこともできます。心地良い音、上質な音は聞き心地の悪い音を可能な限り低減させた結果です。」

──燃費、修理やメンテナンス性も向上しているようですね。

伊藤氏 「燃費面では、レギュラーガソンで350馬力を出せるのが大きいですね。また修理・整備しやすい形状にしています。オイルフィルターを斜めとして下に受け皿を設定。溜まったオイルがクランクケースに戻る構造とし、オイルフィルター交換時のオイルが海に落ちるのを防いでいます。

定期交換部品も交換(ヒューズや燃料フィルター類)をフロント側からアクセス可能としました。こうしたことは実際に使っているユーザーからフィードバックされ活かされた部分です」

──ありがとうございました。

■BF350 諸元表

●機関名称:BF350A
●色:アクアマリンシルバーメタリック/グ ランプリホワイト
●型式:BBYJ
●環境保全型機関合格証番号: R5海洋第0009号
●エンジン種類:水冷4ストローク60度 V 型8気筒立軸形 SOHC・VTEC・4バルブ(気筒あたり)
●総排 気量:4952cc
●ボア×ストローク:89.0×99.5mm
●連続最大 出力:257.4kW(350ps)/6000rpm
●推奨回転範囲:5000- 6000rpm
●潤滑方式:ウエットサンプ
●冷却方式:水冷(サーモスタッ ト付)
●点火方式:トランジスタ式バッテリー点火
●始動方式:セルフスターター
●充電性能:12V-70A
●排気方式:水中排気
●燃料 供給方式:PGMFI
●燃料:レギュラーガソリン
●全長:1120mm×全幅:650mm×全高:2145mm(XDN/XCDN)2272mm(UDN/ UCDN)
●トランサム高:638mm(XDN/XCDN)、765mm(UDN/ UCDN)
●乾燥重量(プロペラ装着時):355kg(XDN/XCDN)、 360kg(UDN/UCDN)
●プロペラ回転方向:右(XDN/UDN)、左(XCDN/UCDN)
●価格:BF350A XDN(3,905,000 円)、BF350A UDN(3,971,000円)、BF350A XCDN (3,927,000円)、BF350A UCDN(3,993,000円)

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