なんと入賞はすべて人物写真! 学生たちの写真にプロ写真家がアドバイス

By CAPA編集部

『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年3月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!

完成した組写真は客観的に見直してみよう

今回の入賞はすべて人物を描写した作品という興味深い結果となりました。上位に入る作品には、作者の意図が伝わりやすいという共通点があります。画面の作り方やテーマ自体はシンプルなのですが、その中によく考えられた意味が込められているのです。

また多くの組写真に、一枚だけ異質な写真が混じっていたり、テーマと写真の内容が合っていないなどの特徴が見られました。とても惜しい! と何度も思ったのですが、それらは、ほんの少し要素やセレクトを変えるだけで、より良い作品になる可能性があります。完成した組作品をもう一度客観的に見直すこと、そしてそれがどう伝わるのかをよく考えるという習慣をつけてください。同じ写真でも、テーマやキャプションで伝わり方は変わってきます。作品を一番いい形で伝えることを意識してほしいと思います。

〈講評〉鵜川真由子

1席「カール」

佐野 碧 (千葉県流山市 / 17歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss X9i 18-55mm 絞りF4.5 1/40秒 −1.3補正 ISO1600 WB : オート

なぜ糸をたくさん巻いているのか、こんなにも笑っているのか、理由はまったくわかりませんが、なぜか無性に引かれる強烈な作品です。タンスやコンセントから漂う生活感が日常のひとこまであることを物語っています。見ているこちらが笑顔になるほどのパワーを放つ、等身大の彼女の表情がとても素敵です。

2席「反対」

宇井絢音 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss X10 18-55mm 絞りF6.3 1/125 秒 −0.7 補正 ISO800

誰の記憶にもある、普遍的なものを写真に落とし込む力を感じました。多くを語るタイトルではありませんが、人の心に染み入る的確な言葉を選んでいるため、見る人が作者の核となる部分に届きやすい。そのためスッと作品の世界に入っていけるのでしょう。

3席「決意」

木村春奈 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss X4 18-55mm 絞りF3.5 1/125秒 ISO400

静かな中に強さを感じる作品です。髪を結う仕草は気持ちを引き締める意味もありますよね。指先から緊張感が伝わってくるようです。非常によく考えられた構図で、一枚の写真にしっかりと物語が詰まっています。露出やピントの甘さが少し惜しいポイントでした。

入選「あなたのことが…」

山本知佳 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)

ソニー α65 絞りF3.5 1/80秒 ISO800

これは演出なのか事実なのか、どちらだろう? わからなくなるほど、彼をうっとりと見つめる彼女の表情が多くを語っています。フレームいっぱいに、ストレートに撮っているのがいいですね。彼の顔が見えないことで、想像力をかき立てられます。

入選「青春」

谷口悠真 (鳥取県倉吉市 / 13歳 / 鳥取県立鳥取聾学校)

キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 プログラムオート

少し憂いのある表情が印象的な少年のポートレート。光を上手に捉えていて、いい角度で人物の表情を浮き上がらせていますね。白い菊の花言葉は「誠実な心」などと言われていますが、モデルとなった彼の人柄を表しているのでしょうか。

入選「まなざし」

田中美羽 (千葉県松戸市 / 16歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS 80D EF-S55-250mm 絞りF4 1/125秒 ISO3200 WB : オート

被写体となった彼の鬼気迫る表情に圧倒されてしまいそうな、とても強い作品です。ぐっと心が引きつけられました。ほかの田中さんの応募作にも独自の表現がありました。自分らしい感性を磨き続けてほしいと思います。

入選「さとがえり」(4枚組)

横尾 凜 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)

ニコン D3500 18-55mm 絞りF5.6 1/500秒 −0.3補正 ISO800

まるで家族かのような距離感まで入り込んでいるのですが、撮られている人がカメラを意識することなく自然体で写っています。関係の築き方が上手なのでしょう。作者の優しい視線を感じました。組写真としてのバランスもとてもいいですね。

入選「熱視線」

浦野愛理 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss M2 18-50mm 絞りF11 1/125秒

絵に描いたような見事なシチュエーションですね! たくさん並んだ女子たちの表情、シャッターを切るタイミング、構図や脚のブレ具合から光の向きまで完璧な一枚だと思います。走者のハヤト君はきっと素敵な人なんだな……と想像がふくらみます。

入選「夢を見ている」

中山あいり (新潟県長岡市 / 16歳 / 中越高等学校)

キヤノン EOS 6D 24-105mm 絞りF4 1/160秒 ISO100 WB : オート (撮影地 : 新潟県長岡市)

曇天の隙間から差し込む強い光がアクセントとなっていますね。一見、桜の下ではしゃぐ女子高生の爽やかな写真なのですが、特徴的なライティングによって、夢の世界のような不思議な空間に仕上がっているのが面白いです。

入選「もういーかい?」(4枚組)

高浜 蓮 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss M2 EF-M15-45mm 絞りF4 1/320秒 ISO400

複数あった応募作品はどれも一貫して独自の表現方法があり、とても目を引きました。この作品は白と黒を効果的に使って画面を構成しています。一人の少年と向き合ったポートレートとも言えるでしょう。ご自身の作風を大切にしてほしいと思います。

ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鵜川真由子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。

ピックアップ「25」(3枚組)

藤沢 心 (大阪府松原市 / 15歳 / 大阪府立生野高等学校)

キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF5.6 1/30秒 ISO1600 WB : オート

コメントには「クリスマスの朝、妹を撮りました」とあり、動きのある不思議な写真が目を引いたのですが、妹さんがあまり写っていないことに少し困惑しました。家族を撮ることは、自分の想いを写すことでもあります。彼女にまつわることを丁寧に撮ってみてはいかがでしょうか。抽象的な写真は、たくさんある中ではアクセントとなりますが、少ない枚数で見せる場合にはセレクトに注意が必要です。

ピックアップ「不穏」(4枚組)

鈴木花明 (愛知県岡崎市 / 17歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS R10 EF50mm F1.8 STM 絞りF1.8 1/1000秒 ISO6400 WB : オート

雨の日の街にはフォトジェニックな光景がたくさんありますよね。それをつかまえることを楽しんでいて好感を持ちました。ただ、可愛い犬が入っていることでタイトルの「不穏」という要素が薄れてしまいました。この場合は雨が作り出す面白い場面を切り取った写真だけで構成した方が、組写真としての完成度は高くなったと思います。

ピックアップ「バイアス」(4枚組)

辻みなつ (大阪府松原市 / 17歳 / 大阪府立生野高等学校)

ニコン D5000 18-55mm 絞りF4.5 1/25秒 ISO1600 WB : オート

「未成年があまり行かない場所」というコメントから、場所を想像してみました。怪しげな色の光の中で断片を切り取った作品ですが、やや情報が少ないと感じます。ふだん行かない場所なら興味を引かれるものがたくさんあったはずなので、そういったものを撮ることで作者のドキドキやワクワクが伝わるってくると、さらに良い作品になったと思います。

ピックアップ「僕の居場所」(4枚組)

田上莉子 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)

ニコン D5500 18-55mm 絞りF5 1/200秒、1/400秒、1/160秒、1/1000秒 +0.3補正、+1補正 ISO1000

階段を舞台に、ポツンと少年が佇んでいます。青い空と、差し込む夕日が作る光景に美しさを感じました。一枚一枚の画面構成がしっかりと作り込まれていて美しい。ただ、孤独という心理的な要素はあまり感じませんでした。せっかくいい作品なので、一度自分の思いとは切り離して言語化するということにトライしてみてください。

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