ママ・パパの自己犠牲は悪循環のもと。「子どものため!」と頑張る育児は実は間違い【小児脳科学者】

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小児脳科学者 成田奈緒子先生が代表を務める、子育て支援事業「子育て科学アクシス」には、保育園・幼稚園でトラブルが多かったり、不登校など、悩みを抱える多くの親子が相談に訪れます。そこで気になるのは「子どものため!」と頑張りすぎるママ・パパが多いことです。
成田先生は「子どものため!と思って頑張るのは正しい子育てではありません。ママ・パパには少し手を抜いたり、子育てオンリーにならないことを覚えてほしい」と言います。

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子どもを園に預けることは、かわいそうなことではない

共働きなどで、保育園やこども園などに、子どもを預けるママ・パパが増えています。子どもと過ごす時間が減った分、「いいママ(パパ)になろう!」と頑張って、子育てが空回りしてしまうこともあるようです。

――以前は「幼いうちから、子どもを保育園に預けるのはかわいそう」と思うママ・パパがいましたが、近年、意識は変わってきているでしょうか。

成田先生(以下敬称略) 口には出さなくても「幼いうちから子どもを保育園などに預けるのはかわいそう」と内心は思っているママ・パパは、まだ多いと思います。減ってはいるとは思いますが、いまだに上の世代からそのように言われて気にしている人もいると思います。
そうした思いが募ると、家にいるときは一生懸命「いいママになろう!」「いいパパになろう!」と思って、頑張り過ぎてしまう人がいます。
しかし、子育ての頑張り過ぎは、自分自身を追い込んでしまうのですすめません。

「いいママになろう!」と思って、仕事から帰ってきて疲れているのに、一生懸命、子どもが好きな料理を作ったりする必要はありません。総菜を買ったりして、手抜きしてOKです。
「いいパパになろう!」と思って、帰宅後、遅くまで子どもと遊ぶ必要もありません。子どもを遅くまで起こしておくことは、子どもの成長にとってマイナスです。親子で早く寝て、早起き・早寝の習慣をつけましょう。乳幼児期は、脳の土台を築く大事な時期なので、早起き・早寝の習慣をつけることが何より大切です。

夜型の子どもにつき合っているうちに体調を崩すママも

成田先生は、ママたちからの相談を受けているなかで、ここ数年、ママの体調が気になると言います。原因の一つは寝不足です。

――成田先生が、最近のママ・パパを見ていて、気になることを教えてください。

成田 子どもにつくし過ぎるママ・パパが多いことです。私のところには、昼夜逆転して夜型の生活が定着してしまった中高生なども相談に来ます。もちろん最終的には子どもの昼夜逆転を直して早起き・早寝、十分な睡眠をとれるようにすることが大切ですが、ここ数年、むしろママたちの体調のほうが気になっています。

ママに話を聞くと、日中は仕事や家事で忙しいのに、夜も子どもにつき合って起きていると言うのです。私が「なぜ、子どもにつき合って、夜遅くまで起きているのですか?」と聞くと、「子どもを1人で起こしておくのはかわいそうだから」と答えます。私は「夜型の子どもは、ママが働いている日中は寝ています。子どもにはつき合わなくていいから、ママは早く寝るようにしてください」と伝えています。

相談に来るママたちの中で婦人科系の病気が増えている印象です。子宮がんになったという人もいました。
女性は睡眠が乱れると、ホルモンバランスを崩しやすくなるので、まずは早起き・早寝を習慣にしてください。子どもが、夜、寝ないからといってつき合う必要はありません。
ママが早起き・早寝をして元気だと、子どもの心も安定していきます。

――ホルモンバランスの乱れは、若い女性でも言えることでしょうか。

成田 大学生の中にも生理痛がひどい子や月経前緊張症候群の子が増えています。とくに女子は、初潮を迎える前からの寝不足には注意してください。しっかり寝ないと思春期以降のホルモンバランスが崩れやすくなります。
必要な睡眠時間の目安は、9歳は10時間、11歳は9時間30分、13歳は9時間15分、15歳は8時間45分、17歳は8時間15分です。
たとえ勉強でも、睡眠時間を削るのはすすめません。勉強するならば、早寝・早起きして早朝から勉強しましょう。睡眠時間を確保して、子どもの健康を守ってください。

子どもを広い視野で見て、ママ・パパにはない、いいところを見つけて

子育てで必要なのは、子どもを広い視野で見ること。広い視野で見るには、子育てオンリーにならないことがポイントです。

――子育ては頑張り過ぎないほうがいいのでしょうか。

成田 真面目なママ・パパほど子育てに一生懸命です。「子どものため!」と頑張って、自分のことはつい後回しになっています。しかし子育て中でも、ときには自分のことを優先して、自分の時間を楽しんでください。読書をしてもいいですし、映画を見に行ってもいいです。習い事を始めてもいいでしょう。

私は読書が好きで、よく本を読みます。最近読んで面白かったのは、コンビニを舞台に繰り広げられる小説『コンビニ兄弟』(町田そのこ著)です。佐藤愛子さんの作品も昔から大好きで、エッセイを読むと、私と娘の関係に似ていて共感します。興味があるママ・パパは、ぜひ読んでください。本を読むと、子育てへの考え方が変わったり、視野が広がります。

――子育て中は、視野を広げることが必要ですか?

成田 私のところに相談に来るママ・パパに「子どものいいところはどこですか?」と聞くと、答えられない人が多いです。しかしママ・パパが持っていないような、いいところが必ずあります。そのいいところが見える親になってください。
たとえば「うちの子は、何度言っても片づけないでだらしない」と思っても、ママ・パパにはないおおらかさがあるかもしれません。「うちの子は、幼稚園の先生の話を聞いていない!」と思っても、ママ・パパにはない度胸があるかもしれません。

ママ・パパには、視野を広げて子どもを見てほしいと思います。「子どものため!」と思って頑張り過ぎると、子どもを見る視野はどんどん狭まってしまいます。

お話・監修/成田奈緒子先生

取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

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成田先生自身も、忙しい日は、お総菜を買ったりして、手抜きをしながら子育てをしてきたと言います。そうした環境が当たり前だったから、今では娘さんのほうから「忙しいでしょ? お弁当買って帰るよ」と言ってくれるそうです。成田先生も「ありがとう! 助かるわ」と、娘さんにお礼を伝えることを忘れません。成田先生は「ママ・パパが頑張り過ぎると、子どもはそれが当たり前になってしまいます。子育ての頑張り過ぎは、いい結果につながらない」と言います。

●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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