「ドウアンはとても存在感があった」フライブルク指揮官の采配が的中。劇的勝利でEL16強入りに堂安律は「頑張ったかな」【現地発コラム】

試合が始まったら監督ができることは限られると多くの指導者が言う。ジョゼップ・グアルディオラも、ジョゼ・モウリーニョも、ユルゲン・クロップも、ユップ・ハインケスも、ルイス・ファン・ハールも、カルロ・アンチェロッティも、みんな似たようなことを口にしている。

監督として試合までにあらゆることを想定した準備をし、試合となったらあとは選手を信じてピッチに送り出す。今年1月に死去した皇帝フランツ・ベッケンバウアーも、西ドイツ代表監督として臨んだイタリア・ワールドカップ決勝前には、「ピッチに出てサッカーをしよう。そして楽しもう」と言って選手を控室から送り出したという。

ただ選手を信じることと、試合中は何もしないこととは一緒なわけではない。試合までの準備が大事だからといって、試合が始まってから監督ができることが何にもないわけではない。

堂安律がプレーするフライブルクはヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメントへのプレーオフでフランスの強豪レンスを下し、ベスト16へと進出した。この試合におけるクリスティアン・シュトライヒ監督の采配は見事だった。

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3バックで試合に臨んだフライブルクは、守備陣から長めのボールを前線に当てる戦略で挑む。相手の布陣と戦い方を分析した結果、相手選手を自陣におびき寄せてからロビングボールでFWへボールをあてたら、そこで3対3の状況を作ることができるという狙いがあった。

「前半はロングボールからのチャンスの起点は作れていた。前線で数的同数以上の状況になるという狙いがあったし、そうした状況までは持ち込めていた。ただそこから突破までは持ち込めなかった」(シュトライヒ監督)

悪くはない形をつかむも流れを作り出すことはできないまま時間が過ぎる。堂安も試合後、「ロングボールも多く、自分の得意なゲーム展開ではなかった」と振り返っている。

自分たちのミスもあり、前半に2失点を喫すると、シュトライヒはハーフタイムに動いた。突破力のあるドイツU-21代表MFノア・バイスハウプトを左サイドに、そしてCFにオーストリア代表FWミヒャエル・グレゴリチュを投入。さらに本職はボランチのニコラス・へーフラーを3バックのセンターへと動かした。

「ノアを左サイドへ配置する。そしてチコをCBのセンターに置いた。今まで一度もやったことはなかったが、これまでにずっと頭の中にはあったし、そのことを選手とも話していた。準備はしてあった。ノアとグレゴル(グレゴリチュ)を入れたことで、サイドからの危険なクロスを増やすことができて、うまく機能してくれた。1対1の勝負で何度も勝ち、ドウアンは今日もとても存在感があった。他の選手もそうだが、競り合いに強くプレーできたし、それが試合を自分たちに引き寄せる要因になった」(シュトライヒ監督)
バイスハウプトは小気味いいドリブルで何度も起点を作り、そしてグレゴリチュはゴール前で幾度も体を張り続ける。同じ3バックでもビルドアップに長けたへーフラーが最後尾に入ったことで、パスの出口を作り出す頻度が増えた。

終盤には変化をつけられるビンツェンツォ・グリフォを起用し、それがアディショナルタイムでのハンガリー代表FWローランド・サロイの同点ゴールに繋がった。

延長に入るとケガで長期離脱していたクリスティアン・ギュンターを満を持してピッチに送る。ホームサポーターからの応援が何倍にも膨れ上がる。あらゆる要素を駆使して、チームが勝つ可能性を高めるための手を打つのが指揮官の務めといえるだろう。

指揮官は「例えばノアは試合を変えることができる選手だ。だからどのように彼を起用するかをいつも考えている。ビンチェもそうだ。今日はとにかく運動量が求められる試合になることがわかっていたので、スタメンは今日の形でいったんだ」と語った。

延長戦でグレゴリチュが値千金の逆転ゴールを決めるところまでシュトライヒがイメージしていたわけではない。でも、起こりうる現象とそれに対する対処を考えながら、監督は戦い続けていた。

120分間、足を止めることなく戦い続けた堂安は「自分のゲームではなかったのは理解していた中で、割り切った結果、得点に関与できたところもあったと思う。セットプレーの感覚もよかったですし。頑張ったかなと思います」とチームへの貢献を実感し、仲間、そしてファンとともに2シーズン連続のELベスト16進出を喜んだ。

サッカーは流れのあるスポーツだ。試合の流れを作るための戦い方、試合の流れを変えるための起用法、そして試合の流れを止めるための対策。様々な準備があるし、様々な対処法がある。それを指揮官が決断し、選手が実践する。

フライブルクの戦いぶりから、改めて監督という存在の大切さを考えさせられた。

取材・文●中野吉之伴

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