リリー・フランキーと錦戸亮の“交流”に涙 日英合作『コットンテール』の独特な味わい

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、イギリスで飲んだロンドン プライドが忘れられない宮川が『コットンテール』をプッシュします。

リリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨といった実力派俳優が集結した良質な日本映画……かと思いきや、本作はイギリスの俊英パトリック・ディキンソンが監督を務め、イギリスでも撮影が行われた日英合作映画だ。この作品が長編デビューとなったディキンソン監督は早稲田大学で日本映画を学んだ経歴があり、日本とイギリスで過ごした監督自身の物語から本作が生まれたそうだ。

主人公は、リリー・フランキー演じる60代の作家・大島兼三郎。最愛の妻・明子(木村多江)がつらい闘病生活の末に息を引き取り、埋めようのない喪失感に打ちひしがれていた兼三郎は、明子が生前に寺の住職に託した一通の手紙を受け取る。そこには明子が子供の頃に訪れたイギリスのウィンダミア湖に、自分の遺灰をまいてほしいという最後の願いが記されていた。兼三郎は遺言を叶えるために、長らく疎遠だった息子の慧(錦戸亮)とその妻さつき(高梨臨)、4歳の孫エミとともにイギリスへ旅立つ。しかし、互いにわだかまりを抱えた兼三郎と慧は事あるごとに衝突する。単身ロンドンから湖水地方に向かった兼三郎は田園地帯で道に迷い、途方に暮れるはめに。やがて兼三郎は亡き妻に導かれたこの旅の果てに、人生の最も大切なことと向き合っていく。

イギリスで最も風光明媚なリゾート地として知られている、イングランド北西部に広がる湖水地方。自然豊かな風景の数々をとらえたロードムービーでもある本作は、日本だけでは到底撮れないような雄大さがあり、それだけで日本映画には生み出せないリッチさがある。だが、この作品で描かれるのは、“家族”という世界共通のテーマと、“介護”という非常に日本的な題材だ。アルツハイマーになった妻・明子を介護する兼三郎の姿、そして物語のラストで兼三郎が息子の慧に明かす“秘密”は、現代の日本に生きる自分にとって胸にくるものがあった。

リリー・フランキーと木村多江が橋口亮輔監督の傑作『ぐるりのこと』以来16年ぶりに夫婦役で共演していることや、錦戸亮久々の映画出演、さらに『ベルファスト』のキアラン・ハインズが実の娘のイーファ・ハインズと親子役で出演しているなど、映画ファンにとって嬉しいサプライズの数々も。中でも、プライベートでも親交があるというリリー・フランキーと錦戸亮演じる親子による、言葉数少ない“心の交流”には、激しく揺さぶられるものがあった。

奇しくも現在、真田広之が主演・プロデュースを務めたドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』や、賀来賢人が主演・原案・共同エグゼクティブ・プロデューサーを務めた『忍びの家 House of Ninjas』など、海外のクリエイターが監督を務めた、日本を舞台にした作品が世界中で注目を集めている。この『コットンテール』もまた、海外のクリエイターにしか生み出せない“日本らしさ”が漂う、味わい深い作品と言えるだろう。

(文=宮川翔)

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