アイドル百花繚乱!【80年代アニメソング総選挙】トップシンガーがアニソンを歌う時代  アイドルが歌うアニソンは名曲揃い!

傑作と名高い「さすがの猿飛」、主題歌は伊藤さやか「恋の呪文はスキトキメキトキス」

かつてアニメーションの主題歌といえば、作品の内容に沿ったストレートなものが主流だった。アニメ・特撮作品に特化した歌手や、主人公の声優が主題歌を歌うケースが大半であった。

1970年代後半に訪れたアニメブームではアニソン歌手にもスポットが当たり、堀江美都子、大杉久美子、水木一郎、ささきいさおが四天王と呼ばれて、ライブやイベントでも大活躍を遂げる。彼らもある意味でアイドル化していたが、歌謡曲を歌ういわゆるアイドルとはまた違う。本流のアイドルがアニソンを歌うケースも皆無ではなかったが、それはかなりのレアケースであったといえる。

それが、1980年代になると状況が変化してくる。当時キティミュージックの所属だったヘレン笹野が『うる星やつら』のエンディングテーマ「心細いな」を歌い、傑作と名高い『さすがの猿飛』のオープニングテーマ「恋の呪文はスキトキメキトキス」を伊藤さやかが歌った。いずれもフジテレビのアニメで1982年のリリース。そしてどちらも作曲は小林泉美が手がけている。『うる星やつら』の一連の楽曲を手がけ、名作「ラムのラブソング」ももちろん小林が手がけたものだった。

マニアックなところでは、クラウン一押しの新人だった二科恵子が「新みつばちマーヤの冒険」を歌ったのも1982年。チータこと水前寺清子が歌った旧作のテーマソングのリメイクだった。この辺りが80年代アイドルアニソンの先駆け。

太田貴子が歌う「魔法の天使クリィミーマミ」主題歌「デリケートに好きして」

1982年に日本テレビ『スター誕生!』決戦大会でスカウトされ、翌83年に徳間音工(現:徳間ジャパン)からデビューした太田貴子は、自身が主演声優を務めた『魔法の天使クリィミーマミ』の主題歌「デリケートに好きして」でデビューした。レーベルも徳間書店の雑誌「アニメージュ」に因んだ特別な「アニメージュレコード」が用意され、以降もアニソンのヒットが続いた。1984年にNHK『レッツゴーヤング』のレギュラーメンバー「サンデーズ」の一員としても活躍した彼女は、アイドルと声優界の架け橋ともいえそうな、後に『タッチ』で人気を博す日高のり子とともに極めて重要な存在である。

画期的だったのは、トップアイドルだった小泉今日子が1984年に『ドラえもん』のテーマソングを歌ったことだったろう。映画『ドラえもん のび太の魔界大冒険』の主題歌となった「風のマジカル」。「渚のはいから人魚」のカップリング曲として両A面扱いでシングルリリースされた。現在まで続く、映画版ドラえもんの主題歌を大物シンガーに委ねる慣習の嚆矢となる1曲であった。

そして、この年には、映画『風の谷のナウシカ』の同タイトルのイメージソングで安田成美が歌手デビューを果たす。同曲を作詞・作曲した松本隆と細野晴臣のコンビは、翌年も長編アニメ『銀河鉄道の夜』の同名イメージソングを手がけ、新人の中原香織が歌った。1万人以上が参加したオーディションで選ばれた中原だったが、レコードはこの1枚のみに留まっている。

実力派アイドルだった岩崎良美の代表作「タッチ」

そして1985年には、いよいよ岩崎良美「タッチ」が登場。康珍化と芹澤廣明コンビの作品で大ヒットして実力派アイドルだった彼女の代表作になるという、アイドルの歴史では異例のケースに。この辺りからアイドルがアニソンを歌う機会が一気に増えた。

『魔法のスターマジカルエミ』のオープニングテーマ「不思議色ハピネス」でデビューした小幡洋子は、3枚目のシングルとなった、ジブリアニメ『天空の城ラピュタ』のイメージソング「もしも空をとべたら」が、映画とともに今も熱く支持されている。ジブリ作品では1988年の『となりのトトロ』の同名イメージソングを歌った井上あずみも、1983年に井上杏美名義でアイドルとしてデビューしていた。

アニメも大ヒット!「ハイスクール!奇面組」とおニャン子クラブのコラボレーション

1980年代後半にアイドルによるアニソンが目立つようになったのは、1985年10月にスタートしたフジテレビ『ハイスクール!奇面組』の存在も大きかった。人気が爆発しかけていたおニャン子クラブから、高井麻巳子と岩井由紀子(ゆうゆ)の2人が抜擢され、“うしろゆびさされ組” というユニットを結成してタイアップが展開されてゆく。秋元康と後藤次利のコンビによる彼女たちの曲はおニャン子クラブ人気とも相まって次々とヒットを飛ばしアニメもロングラン。

解散後は同じくおニャン子クラブ所属の工藤静香、生稲晃子、斉藤満喜子によるユニット “うしろ髪ひかれ隊” が後を継いだ。おニャン子クラブ本体が1986年に出した6枚目のシングル「恋はくえすちょん / あんみつ大作戦」も、アニメ『あんみつ姫』のテーマソングであった。

同年には『タッチ』のヒロイン・浅倉南のイメージガールを選ぶ “ミス南ちゃんコンテスト” で優勝して芸能界入りした浅倉亜季は芸名もアニメに由来するもので、原作者のあだち充が名付け親。『タッチ』の挿入歌「南の風・夏少女」でデビューし、やはりあだち充原作のアニメ『陽あたり良好!』の同名のオープニングテーマも歌った。

『めぞん一刻』のオープニングテーマに起用された斉藤由貴「悲しみよこんにちは」

ここに至ってアニメ作品とアイドル歌手とのタイアップは完全に珍しいことでなくなった。斉藤由貴の5枚目のシングル「悲しみよこんにちは」がアニメ『めぞん一刻』のオープニングテーマに起用され、彼女自身の最大セールスを記録する大ヒットとなったのも象徴的だった。そしてその図式は音楽界がタイアップ全盛となる1990年代にも引き継がれてゆく。

それまでは圧倒的に子供向けだったアニメーション作品の対象年齢が徐々に拡がりを見せたこと、それを受けて、ともに夢を抱かせてくれるアイドルとアニメとの絶妙なマッチングによる成功例が連なったことが、1980年代以降にアイドルが歌うアニソンが一気にその数を増していった要因であっただろう。

カタリベ: 鈴木啓之

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