平均寿命までの残り「約10年」は不自由な生活!?〈豊かな老後〉を実現したいなら「健康寿命」を意識すべきワケ【心理学博士が伝授】

(※写真はイメージです/PIXTA)

50代後半から60代になるにつれて、老後をどう過ごせばよいかわからず不安を抱く人もいるのではないでしょうか。そこで本稿では、MP人間科学研究所で代表を務める心理学博士の榎本博明氏による著書『60歳からめきめき元気になる人「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新聞出版)から一部抜粋して、豊かな老後と「健康寿命」の関係性について解説します。

残り時間が気になってくる

若い頃は、もちろん自分の人生の残り時間を気にするようなことはなかった。今の時間の流れが永遠に続くような感覚で毎日を過ごしていた。実際、平均寿命からみても、持ち時間の大半がまだ残っているわけだから、べつに気にする必要などなかった。

ちょうど働き盛りの頃から中年期にかけて、平均寿命の中間点を通過しているはずだが、目の前のすべきことに追われ、持ち時間があとどのくらいあるのかとか、先のことについて考える余裕がなかった。というよりも、平均寿命の中間地点であってもまだ40年くらいあるのだから、とくに考える必要もなかったのだろう。

ところが、50代にもなると、退職まであと何年などと数えるようになり、職業生活の残り時間、さらには人生の残り時間が気になるようになる。

そして60代になり、定年退職したり、再雇用で以前とは違う契約条件で働いたりするようになると、平均寿命の4分の3以上を過ぎているため、あと残り時間は10数年しかないかもしれないと考えるようになり、これからの人生を後悔のないように生きていかなければといった思いが強まる。

人生の残り時間への意識に関して、多くの人がたどる流れは、だいたいこのような感じなのではないか。

残り時間を意識するようになると、悔いのない人生にすべく、自由に動き回れるうちにやりたいことを思う存分やっておきたいと思うようになる。

在職中は、たとえ仕事のやりがいを感じていたにしても、職業上のさまざまな縛りがあり、自分の思うように動けないことも多々あったはずである。それが、退職によって何の縛りもない生活を送れるようになったわけである。

せっかく職業的役割から解放されたのだから、これからは自分の好きなように生きたいと思うのも当然であろう。

ただし、これからは今が永遠に続くような感覚で生きていくわけにはいかない。残り時間を考えながら優先順位を検討し、まずはどのように過ごすかを決めていかねばならない。いくら長寿化しているといっても、やりたいことをして暮らせるのは、自由に動き回れる間に限られる。そこで気になるのが健康寿命だ。

健康寿命という言葉が気になる

平均寿命に対して、健康寿命というものがある。健康寿命とは、厚労省の資料によれば、「日常生活に制限のない期間の平均」のことである。言い換えれば、自由に動き回れる生活が何歳まで可能であるかということである。

たとえば、日本人の2019年の健康寿命は、内閣府の資料によれば、男性72.7歳、女性75.4歳となっている。

これに対して、同じ2019年の日本人の平均寿命は、厚労省の資料によれば、男性81.4歳、女性87.5歳となっている。

そうすると、平均的な男性の場合は、81歳くらいまで生きる可能性があるものの、自由に動き回れるのは73歳くらいまでであり、その後の8年間は不自由な生活を強いられる。平均的な女性の場合は、88歳くらいまで生きる可能性があるものの、自由に動き回れるのは75歳くらいまでであり、その後の13年間は不自由な生活を強いられるということになる。

このところ健康寿命という言葉が世間に広まってきたためか、これまでは平均寿命を念頭に置いて、まだかなり残り時間があると思い楽観していたけれど、健康寿命が尽きないうちにやりたいことをやっておきたいと思い、少し焦ってきたという人もいる。

以前は毎日ただ何となく暮らしてきたけれど、健康寿命というものを知ってからは、自由に動けるうちに気になることをしておかなければと思い、気が引き締まって、だらだらすることがなくなったという人もいる。

とくに持病があったり、身体の不調を感じることが多かったりすると、健康寿命は非常に気になるはずである。今は健康上の問題はとくにないという人でも、健康寿命ということを考えると、いつまで健康でいられるのか不安になるだろう。

でも、このように不安になるのも、けっして悪いことではない。先ほどの事例のように、何となく惰性で暮らしていた人も、健康寿命を意識することで気持ちが引き締まり、悔いのないように自分が納得できる生活に向けて踏み出すことができるかもしれない。

私たちは惰性に流されがちであり、今の生活を変えるには、かなりの覚悟がいる。すでに楽しく充実した生活になっているという場合はそのままでいいわけだが、なんか退屈だなあ、こんな生活がずっと続いてもつまらないなあと感じている人は、もっと楽しい生活に向けて一歩踏み出す必要がある。

でも、つい面倒くさくなり、惰性で過ごしてしまいがちだ。そんな人にとっては、健康寿命を意識するのは、覚悟して一歩を踏み出すきっかけになるだろう。

榎本 博明

MP人間科学研究所

代表/心理学博士

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