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連銀の任務は「無担保」の翌日物金利を誘導レンジに収めること
米国の「翌日物金利」は無担保と有担保がある
すべての金融・実物資産価格の基礎は市場金利であり、すべての市場金利の基礎は短期金利です。短期金利のうち、もっとも重要なのは、もっとも期間が短く、したがって「おおもと」である翌日物金利です。
米国には2種類の翌日物金利があります。1つは、無担保の翌日物金利(unsecured overnight funding rate)で、『フェデラルファンド金利』と呼ばれます。資金の運用主体は無担保で資金を貸し付け、逆に、資金の調達主体は無担保で資金を借り入れます。
もう1つは、有担保の翌日物金利で、翌日物レポ金利(secured overnight funding rate;SOFR)と呼ばれます。資金の運用主体は(資金を貸し付ける相手から)米国債などを担保として預かるかわりに資金を貸し付け、逆に、資金の調達主体は米国債などを担保として差し入れて資金を借り入れます。
[図表1]政策金利と同・誘導レンジ/レポ金利と政策金利誘導レンジ [図表2]政策金利と同・誘導レンジ/レポ金利と政策金利誘導レンジ②
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策における日々のオペレーションは、前者の『実効フェデラルファンド金利』を誘導レンジに収めることです。
この実効フェデラルファンド金利は、1日のうちに約定されるフェデラルファンズ取引(無担保・翌日物資金貸借取引)の、取引高加重平均金利を指します。現在の誘導レンジは5.25%~5.5%です。
1日に約定されるフェデラルファンズ取引のうち、約定金利がこのレンジを外れる取引があっても(とりあえずは)構いませんが、取引高で加重平均した金利(=実効フェデラルファンド金利)は誘導レンジに収める必要があります。
これがFRBの金融政策の日々の目標であり、FRBからオペレーションを任されているニューヨーク連銀の日々の任務です。
フェデラルファンド金利は、銀行による準備預金の積み立て需要や、家計や企業による現金への引き出し/現金から預金への預け入れ、取引先への懸念やその払拭などから変動します。
フェデラルファンド金利に上昇圧力が生じるときにはニューヨーク連銀がレポで(銀行から担保を取って)資金を供給し、反対に低下圧力が生じるときには(リバース)レポで資金を吸収します。
FRBが量的引き締め(QT)の見直しを始める「背景」
直近は、「有担保」のレポ金利が誘導レンジを“上抜け”
では、[図表3]で、2つの翌日物金利の直近の動きを見てみましょう。
[図表3]FRBの政策金利(実効フェデラルファンド金利)と翌日物レポ金利
実効フェデラルファンド金利は、その誘導レンジに安定して収まっています。他方で、レポ金利には昨年11月以降しだいに上昇圧力が生じ、(①家計の現金引き出しニーズや、②金融持ち株会社によるバランスシートの「お化粧」で資金需給がひっ迫する)昨年末には、誘導レンジを「上抜け」しています。
有担保の翌日物レポ市場に資金が供給されにくい状況は、FRBとしても看過できない
先述のとおり、FRBの金融政策目標やニューヨーク連銀のオペレーションは、実効フェデラルファンド金利を誘導レンジに収めることですから、レポ金利がこのレンジを外れても「任務未達」ではありません。
しかし、有担保のために(無担保であるフェデラルファンズ取引よりも)安全であるレポ取引の金利のほうが誘導レンジを「上抜け」する状況は、少なくともレポ市場には資金が供給されにくくなっている(あるいは、担保を取ってでも貸し付けたくない取引先がいる)ことの現れで、FRBにとっても看過できない状況です(→ローガン・ダラス連銀総裁などが指摘するところです)。
それゆえ、FRBは量的引き締め(QT)の見直しを始めています。
合わせて、[図表3]のとおり、取引高加重平均ベースの実効フェデラルファンド金利は安定しているものの、各日のフェデラルファンズ取引のうち約定金利が高かった上位1%の約定金利をとると、[図表4]に示すとおり、利上げに沿って、実効フェデラルファンド金利から「上離れ」しています(→合わせて、2020年3月頃のパンデミック発生直後や、昨年3月の銀行危機のときには取引高が増加したことが確認できます)。
[図表4]フェデラルファンド金利とフェデラルファンズの取引高
有担保の翌日物レポ市場に資金が供給されにくくなっているとすれば、無担保のフェデラルファンズ市場にも資金は供給されにくくなっていると考えることが自然です。
市場規模は、「レポ」のほうがはるかに大きい
ここが大事ですが、両者の規模を比べると、[図表5]に示すとおり、レポのほうが圧倒的に大きいことがわかります。
[図表5]フェデラルファンズ取引の残高とレポの残高
フェデラルファンズ取引は、日々の銀行間のランダムな預金移動に伴う預金の過不足、いわゆる「資金尻」を調整する性格のものであり*、大規模にはなりません。
また、無担保でリスクが高いことから、どの金融機関も他の金融機関に多額の貸付を実行することはありません。
他方のレポは有担保ですし、レポこそが資本市場を支えています。
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト