「物価高」と「景気低迷」が同時進行する日本…生真面目に貯金をしていると「買えるモノがどんどん減ってしまう」ワケ

物価高と景気低迷が同時進行する、いわゆる「スタグフレーション」に突入している日本。本記事では、山田順氏の著書『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)より、スタグフレーション下で起こる具体的なリスクや対抗策について、一部抜粋してご紹介します。

現金、預貯金を持つことは大きなリスクになる

日本経済は2021年の秋から、スタグフレーションに突入した。それまで長い間続いてきたデフレが終わり、物価が上昇に転じたのである。

まずは、スタグフレーションについて整理してみよう。不景気のなかで物価が上がるというスタグフレーションでは、次のような悪循環が起こる。

景気が悪いなかで物価が上昇する→企業の業績が悪化して給料が上がらなくなる→消費が減ってさらに景気が悪化する→現金、預貯金の価値が低下する→生活がどんどん苦しくなる

この悪循環のなかで、最悪なのは、現金、預貯金の価値が低下してしまうことだろう。給料が上がらずに物価だけが上がっていくため、同じ金額で買えるモノが減ってしまうからだ。

物価が上昇し続けるというのは、たとえば、今日1個50円で買えた卵が1カ月後には100円に値上がりしていて、50円では買えないということだ。つまり、1カ月で持っているおカネの価値は半減してしまう。

もしインフレがさらに昂じてハイパーインフレになり、卵が1個1,000円になったら、おカネは紙くず化する。

ハイパーインフレでなく、マイルドなインフレであっても、現金の価値は目減りする。仮にインフレ率が年3%で継続したとすると、現在1,000万円の実質価値は20年後に約554万円になってしまう。

したがって、インフレ経済においては、金利が大事なのである。年3%のインフレ時に金利が3%付けば、預貯金の価値は目減りしない。

しかし、日銀はインフレが起こっているのにもかかわらず頑なに量的緩和(QE)を続け、イールドカーブコントロール(YCC)によって金利を抑制し続けてきた。イールドカーブというのは「利回り曲線」のことで、このカーブの傾きを操作して長短金利を目標水準にする。そのために日銀は無制限に国債を購入して、国の〝借金財政〟を助けてきた。日銀と政府は、国民の生活などどうでもいいのだろう。

日本人は生真面目だから、働いてコツコツと貯金をし、将来に備えるという生き方が定着している。しかし、それはデフレが続いて、貨幣価値が将来も変わらないという前提があってこそ可能なことだ。

インフレもそうだが、とくにスタグフレーションにおいては、現金や預貯金を持っていることは自殺行為になってしまう。

世界各国でストライキが増加…日本で起こる可能性も?

スタグフレーションから、資産を持たない庶民が逃れる手立てはほぼない。しかし、なにもしなければ、生活はどんどん困窮化する。物価上昇が続くかぎり、節約しても限度がある。

そこで、2022年の暮れから世界各国で大規模なストライキが起こるようになった。英国では、年末年始に地下鉄、鉄道、バス、飛行機などの交通機関がマヒするストライキが続いた。また、医療関係者も、過去100年間の歴史のなかで最大規模のストライキを行った。看護師労働組合に属する10万人の看護師が19%の賃上げを求めたストライキは、世界中で報道された。

看護師労働組合の要求を受けて、イングランドとウェールズ政府はNHS(国民保健サービス)の下で働く職員に対して、平均4.75%、賃金を引き上げると発表した。しかし、英国のインフレ率は10%を超えているので、この程度では〝焼け石に水〟に過ぎなかった。

郵便局職員、小中高教員、大学職員なども大規模なストライキを行った。そのため、英国では子どもたちが学校に行けなくなる事態が続いた。

フランスでは、年金支給年齢を62歳から64歳に引き上げる法案が発端となって、学校教員の約65%が参加するストライキが起こった。

アメリカでも大規模ストライキが続いた。

ニューヨークでは、約7,000人の看護師が、賃上げだけでなく看護師の増員を求めて3日間のストライキを行った。その結果、ニューヨーク州看護師組合は、向こう3年間で19.1%の賃上げを勝ち取った。

カリフォルニアでは、カリフォルニア大学の大学院生や講師ら4万8,000人が賃上げを求めてクリスマスストライキを行い、25%から80%の賃上げや育児休暇を勝ち取った。

このように、スタグフレーションは世界中にストライキの嵐をもたらした。ところが、日本では抗議デモすら起こらない。しかし、スタグフレーションが亢進していけば、やがて日本でも大規模なストライキが起こる可能性がある。そうなれば、これまでの政治・経済システムは地殻変動を起こすかもしれない。

こんな状況なのに、不思議なのは、岸田首相も日銀も日本ではまだデフレが続いていると思っていることだ。3月22日、東京株式市場の日経平均株価が約34年ぶりに史上最高値を更新したとき、首相は記者団にこう言った。

「日本経済が動き出し、国内外のマーケット関係者が評価してくれていることを心強く思う。デフレ脱却に向けた官民の取り組みをより加速させたい」

デフレ脱却? デフレとは、モノやサービスの価格が全体的に継続し下落する現象である。そんなことは、とうの昔に終わっている。

山田 順

ジャーナリスト・作家

※本記事は『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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