大谷翔平選手のグローブ寄贈に「一石投じたい」 地方球団・香川オリーブガイナーズが県内全小学校に「3個のボール」を送った理由

2023年11月9日、米大リーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手が、日本の全小学校に3つずつ、ジュニア用グローブを寄贈することを自身のインスタグラムで表明した。

大谷翔平(@shoheiohtani)選手のインスタグラムアカウントより(インスタグラムを編集部でスクリーンショット)

小学校数は約2万校、グローブの数は約6万個。「野球しようぜ!」というメッセージと共に贈られた、大谷選手のスケールのデカさを体現するかのようなビッグなプレゼント。

これに、地方の独立球団が"便乗"した。

四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズが23年12月28日、香川県内の全小学校に、3球ずつ野球ボールを寄贈すると発表したのだ。

グローブと一緒にボールを寄贈(画像はプレスリリースより)

24年1月9日には高松市立花園小学校で寄贈式を実施。同日のプレスリリースに、球団の代表取締役社長・福山敦士さんはこんなコメントを出している。

「ニュースで大谷翔平選手がグローブをプレゼントされることを知りました。ボールがあった方が良いかもと思い、今回野球ボールをプレゼントさせていただきました」

それは「大谷選手のグローブ寄贈に一石を投じたい」という思いからくるものだった。24年1月16日、福山社長がインタビューに応じた。(聞き手・構成:Jタウンネット記者 大山雄也)

大谷選手のニュースを見て決断

――香川オリーブガイナーズがボールを小学校にプレゼントしたのは、大谷選手のグラブ寄贈がきっかけですか。

福山敦士社長:ボールの寄贈プロジェクトは23年12月頭に決めて、12月末に実行しました。
ですが、私が香川オリーブガイナーズの経営に参画し始めた23年6月頃から、「地元の小中学生に向けて、何か貢献したい」と考えていました。

――大谷選手のグラブ寄贈が発表される前から「何かしたい」という気持ちがあったのですね。

福山社長:独立球団のビジネスを行う中で、目の前のお客様の悩みを解決することが大事だと考えています。地元の方々の悩みは「野球人口の減少」でした。
そこで、地元のプロ野球団として「野球王国としての香川の魅力を再認識してもらい、地元に誇りを持ってもらえないか」、野球を通じた地域貢献が出来ないかと考えていました。
野球教室は以前から行ってきたのですが、それだと野球を既にやっている子たちにしか還元ができない。野球をやっていない子たちのマーケットのほうが大きいですから、学習塾やビジネススクールを作るというアイデアも浮かんでいた中、大谷選手のニュースが飛び込んできたんです。

寄贈したものと同じボールを持つ福山社長(2024年1月16日、Jタウンネット撮影=以下同)

――グローブ寄贈のニュースが、「ボールの寄贈」というアイデアのヒントになった、と。

福山社長:大谷選手がグローブを寄贈するというニュースを見て、「もしかしたらボールが足りないんじゃないか」と気づきました。たまたまニュースが出た日に香川県庁の方との打ち合わせがあって、「大谷選手のグローブと一緒にボールをプレゼントすることはできないか」と持ち掛けたら、ぜひということになりました。
ヒントはいただきましたが、タイミングは上手い具合にあっただけです。それに便乗というよりは、大谷選手のグローブ寄贈に一石を投じたい気持ちがあるんです。

福山社長が名投手もらった「プレゼント」

――「一石を投じたい」とは、どういうことでしょうか。

福山社長:もし僕がもらう立場だったら、大リーグで本塁打王も取ってしまうような大スター・大谷選手からプレゼントされたグローブは飾ってしまいます。それを実際に道具として使ってもらうために、ボールが必要だと思うんです。
というのも、私は横浜出身で、小学生の頃に横須賀市にある横浜ベイスターズ(編注:現・横浜DeNAベイスターズ)の2軍の施設に行って、斎藤隆投手のバッティンググローブをもらったことがあります。

――斎藤隆投手と言えば、98年ベイスターズ日本一の立役者の1人であり、大リーグでも活躍した球史に残る名投手ですから、貴重な体験ですね。

福山社長:バッティンググローブをもらった当時は、怪我でリハビリをされており、たまたま2軍練習場におられました。プロ野球選手から道具をもらって物凄く感動したのですが......。
私はそのバッティンググローブを使って練習をしていたんです(笑)

――ええ! もったいような気がしますね。

福山社長:もらった当時も「もったいないから使うな!」とか「プレミアがつくから大事に取っておいたほうが良い」と友達から言われましたよ(笑)
ただ、斎藤投手からもらったバッティンググローブを使って練習をしたおかげで、野球が上達して、幸いなことに高校時代には甲子園に出られました。ですから、今では使って良かったなと思っています。
もらったものを飾らずに使ったおかげで甲子園に行けた。その原体験があったからこそ、今回寄贈したボールをどんどん使ってほしいと考えています。

インタビュー中の福山社長

――プレスリリースでは、「ボールがなくなってしまったり、使えなくなってしまったら、気軽にご連絡ください。またプレゼントいたします」とコメントされていました。ボールのプレゼントは今後も継続して行っていくのですか。

福山社長: 我々の思いからスタートしたボール寄贈プロジェクトですが、今後はちゃんと仕組化して継続したいと考えています。そもそも球団経営自体が芳しくなく、結構な負担になりますし、こんなことしている場合ではないと言われても否定できません......。何より、球団で負担をし続けると引継ぎが出来なくなってしまいます。
なので、ボールにスポンサーをつけて地元企業が応援してくれる枠組みを作りました。早速、ボール寄贈プロジェクトに賛同していただいている方も出てきている。協賛してくれる企業さんが現れて、ボール代を負担していただければ、我々として本当にやりたいことができる。

野球をやっていない子供たちに届けたい

――子供たちから反響は届いていますか。

福山社長:野球をやっていない子供たちに届いている感覚は掴んでいます。
今回寄贈したボールはすでに野球をやっている子たちからは興味をもたれないかもしれません。でも、それでOK。教室にサッカーボールやバスケットボールがあるから休み時間にそれで遊ぶのであって、身近に野球ボールがあるから遊んでもらいたい。今回は各校に3球しか寄贈できませんでしたが、本当は各教室に1球以上あれば良いなと思っています。野球をより身近に野球を感じてもらいたいですね。
野球を始めた人ってやり始めたきっかけの多くが、親・兄弟の影響か、スーパースターへの憧れだったりします。小学校の授業に野球はないため、ボールが教室にあることがきっかけで野球を始める、という新しい接点の創出ができたら嬉しいです。

香川オリーブガイナーズが寄贈したボール。とても柔らかい。

――香川県の小学校に寄贈されたのは「JTAケンコーティーボール 9インチ」。軟式野球用のボールと比べても非常に柔らかいものですね。このボールを選んだ理由を教えてください。

福山社長:扱いやすさ、とっつきやすさを考慮してこのボールにしました。何より、「痛い」という体験をさせないためです。ボールで遊んでいて、「痛い」と感じる経験をしてしまうと、もう野球をやりたくなくなってしまうと思うんです。

――今回はボールを寄贈されていましたが、今後も子供たちのために、別の取り組みを行っていくのでしょうか?

福山社長:将来的にボールパークを作ることを大きな目標とし、検討しております。格式が高い球場ではなく、誰もがフラッと入れる球場ですね。バットやボールを追加で寄贈する可能性があるかもしれませんが、大前提として野球ができる場所がないと始まりません。

インタビュー中の福山社長

大谷選手のグラブ寄贈に便乗しただけと思っていた記者は、自分を恥じた。福山社長が野球を通じて、地域と子供たちを盛り上げようとする情熱は、ホンモノだ。

そんな福山社長は子供たちへの思いを語った。

福山社長:香川オリーブガイナーズは教育機関の側面もあると認識しています。
子供の教育は学校だけはなくて、家庭でもやるべきだと私は思っています。家庭の教育は親子のコミュニケーション・信頼関係があってこそ。その信頼関係を構築するのに野球というツールが役立ってほしい。
私の家庭も子供が3人いますが、何かきっかけがないとコミュニケーションは生まれません。しかし、ボールがあるとキャッチボールやバッティング練習を通じてコミュニケーションが生まれて、信頼関係も築けます。
今回のボール寄贈も根っこは教育のため。我々ができる最低限の教育への協力が野球を通じて何かをするというところにあると思います。
ボールは使ったら100%なくなります。なくなったり、汚れたりしたら、香川オリーブガイナーズまで遠慮なく一報をください。その代わり、子供たちには球場まで足を運んでいただけたらと思います。

3月4日11時55分追記:編集部の確認不足が発覚したため、初出時よりタイトルと本文の内容を一部修正しています。

© 株式会社ジェイ・キャスト