【光る君へ】果たして「計画通り」か?兼家の病が産んだ地獄

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。2月25日放送の第8回『招かれざる者』では、まひろがついに母の仇と遭遇。それが実は、この時代を揺るがす大事件の大きな一歩だったという、非常に重大かつ地獄がすぎる局面が描かれた(以下、ネタバレあり)。

『光る君へ』第8回より、意識の戻った兼家(段田安則)の様子に驚く道兼(玉置玲央)(C)NHK

■ 第8回『招かれざる者』あらすじ

藤原道長(柄本佑)の父・兼家(段田安則)が内裏で倒れ、寝たきりになった。安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が祈祷を行ったところ、花山天皇(本郷奏多)の后で、兼家の呪詛で亡くなった忯子(井上咲楽)が取り憑いていたことがわかり、天皇は忯子が成仏していないことに心を痛める。一方道長の兄・道兼(玉置玲央)は、父から虐待を受けていることを、まひろの父・藤原為時(岸谷五朗)に打ち明ける。

『光る君へ』第8回より、為時(岸谷五朗)の家を訪問した道兼(玉置玲央)(C)NHK

ある日道兼は、自分がまひろの母・ちやは(国仲涼子)を殺害したことも知らず、為時の家を訪問。琵琶を披露したまひろは、道兼に母のことを問われ「7年前に病で身まかった」と答える。それはこれ以上道兼に、自分の気持ちを振り回されないための、まひろの悲壮な決断だった。そして為時が仕える花山天皇は、為時の話を聞いて、道兼に興味を持つようになる。

■ 今回最大の地獄の始まりとは

「呪い」というものが「武力」と同等か、あるいはそれ以上に敵を倒す手段として有効だと信じられていた平安時代。そもそも平安京自体が、暗殺事件の連座で憤死した早良親王の祟りを恐れて、長岡京から遷都してできた都だったと考えれば、呪いとか悪霊の存在が、今とは比べ物にならないほどの絶対的信用度だったことが実感できるだろう。第8回ではそんな平安時代のオカルト事情が、存分に生かされた内容となった。

『光る君へ』第8回より、内裏で倒れた兼家(段田安則)(C)NHK

まず兼家が倒れたとき、現代人の私たちがSNSなどで「脳卒中?」「心筋梗塞か?」と真っ先に予想したのに対して、当時の人たちが疑ったのは「毒」と「呪い」。そして祈祷をおこなった結果、兼家がうっかりと呪い殺す形になってしまった忯子が依代(よりしろ)に付いたことで、怨霊説が確定。そして指をパチンと鳴らすだけで霊を祓うことができる安倍晴明、やっと伝説の陰陽師らしい仕事をした(仕込み疑惑はぬぐえないけど)。

その晴明の力のおかげか、兼家は道兼が側にいるときに、ようやく意識を取り戻した。しかしここで物語は兼家のターンから、突如道兼が為時に急接近するという展開に。この道兼、まひろにとっては母を殺した敵だが、為時にとっても妻を殺した相手。しかし道兼が父親に虐待を受け、愛を知らずに育ったという突然の告白で、為時は見事にほだされてしまうのだが、これが今回最大の地獄の始まりだった。

『光る君へ』第8回より、寝たきりとなった兼家(段田安則)を救うため祈祷する家族ら(C)NHK

■ ほとんど無間地獄のように思えてきた

身内の仇が自分の家に呑気に遊びに来るというのも地獄だけど、その地獄をさらに倍にしたのは、道兼自身がかつて自分の殺した女性が、今目の前にいる娘の母親だというのを知らなかったことだ。「お前が殺した」と叫びたい気持ちをこらえるまひろの心情を想像しても辛いし、まひろを気づかった質問が、逆に相手を苦しめてることに気づかない道兼の悪行ゲージが、知らず知らず蓄積されていくことにも、胃がキリキリするような思いだった。大石静、よくこんな地獄を思いついたものである。

そして最大の問題は、兼家と道兼の確執を為時が知ったことで、兼家を憎んでいた花山天皇が、「敵の敵は味方」とばかりに、道兼への警戒心を解いてしまったことだ。かなりのネタバレなのでソフトに話すと、このあと事態は兼家の思った通りの方向に進んでいくことになる。これは偶然の導きなのか、それとも兼家が道兼を操った策略なのか? ラストの兼家のほくそ笑むような表情には、心なしか「計画通り」と書いてあるような気もしたが・・・。

となると、どこからどこまでが兼家の「計画」なのだろう? 道兼が兼家の指示で為時→花山天皇ルートを開いた疑惑はかなり強いけど、それは自分が陥ったこの状況を逆利用したのか? いや、もしかしたら「忯子に祟られて倒れた」ということ自体が狂言なのかもしれないし、もしそうなら晴明も一枚噛んでそう。となると道兼の「父からの虐待」告白も、本物らしいアザまで作って捏造した話?

『光る君へ』第8回より、道兼(玉置玲央)の腕のアザを確認する花山天皇(本郷奏多)(C)NHK

いやもしかしたら道兼は、実は自分が殺したのがまひろの母=為時の妻ということを知ったうえで、あんな風に近づいて、わざとあんな質問をしたのか? とまで考えだしたら、ほとんど無間地獄のような状況に思えてきた。もう本作における地獄製造マシーンと化してきた兼家&道兼親子。その真相がすべて明らかになったとき、私たちはすっきりしたというよりも、かなりのバッドエンドに立ち会ったような気分になりそうな予感がする。

『光る君へ』はNHK総合では日曜・夜8時から、NHKBSでは夜6時から、BSP4Kは昼12時15分からの放送。3月3日放送の第9回『遠くの国』では、 まひろが直秀(毎熊克哉)の盗賊仲間と思われて捕らえられてしまうところと、道兼が花山天皇の信頼を勝ち得ていく姿が描かれる。

文/吉永美和子

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