障害がある人もない人も… カフェに込めた親たちの願い トイレ休憩や医療的ケアができるスペース 注入食・ケトン食も提供 家族そろって食事も可能に

ビルに運び込まれる引っ越しの荷物ー。移転してきたのは重い障害のある人たちが日中を過ごす「あべに~る」です。

広島市中区にあるこのビルで、1階に「カフェ」を作るプロジェクトが進んでいます。

プロジェクトを企画した村尾晴美さん
「ここにカウンターがあってテーブルとか椅子とか並べて…」

カフェは、障害のある人たちが安心して休憩や食事ができるようにします。原爆ドームに近い街の中心部にあることで、観光客も利用できます。

プロジェクトを企画した村尾晴美さん
「この子たちをみても『いて当たり前よね』って思ってもらえるのが理想」

障害がある人もない人も同じ空間で過ごせる場所。きょうの深掘りニュースディグ。「カフェ」に込めた親たちの願いとはー。

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広島市の中心部で、6月ごろのオープンを目指して障害のある人たちの「カフェ」を作ろうというプロジェクトが進んでいます。準備を進めるのは、重い障害があり医療的ケアが必要な子どもを持つ親たちです。

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村尾晴美さん。長男の祐樹さん(28)は未熟児として生まれ、重い障害があります。

ここは、18歳以上の人たちが通う「あべに~る」。先日、このビルの2階に移転してきました。

あべに~る十日市 管理者 嶋崎義幸さん
「あべに~る移転後初のお風呂!新しいお風呂気持ちよかった人!1、2、3、4人…」

ゲームをしたり本を読んだり…。介護を受けながら日中を楽しく過ごします。

あべに~るスタッフ
「水分を。牛乳をいまから。牛乳を飲みます」

牛乳は、胃ろうから送り届けます。

村尾晴美さん
「Qこういうスペースがないと難しいですね?でしょ。注入できないでしょ。外だと限られる。きれいな所でないといけないし」

障害ある人もない人も 共に心地良く過ごせるカフェ

「あべに~る」は、ビルの1階にカフェをつくろうとしています。プロジェクトを企画したのは村尾さんです。障害がある子どもの親たちの意見を集約し、カフェ作りに反映させます。“支援の拠点”という意味を込めて「コア」と名付けました。

「コア」プロジェクトを企画 村尾晴美さん
「ここでキッチンを、調理場にして介護食とか…」

重い障害のある人たちは、外出中もトイレの介助や胃ろうなどのケアが必要です。家族にとっても安心して休憩できる場所は欠かせません。「コア」には▽横になって休める無料のスペースを設けます。▽おむつ交換ができるトイレも設置します。

「コア」プロジェクトを企画 村尾晴美さん
「長い間車椅子に座っていると、動けない子たちなので体がガチガチに固まってしまう。横になるとリセットできる、楽になれる。街なかに出ると横になれるスペースがなかなかないので。お母さんたちは横になる場所を探して歩かれるので」

▽障害に応じた食事も提供します。管理栄養士がスタッフに加わり「ペースト食」や「つぶし食」、胃ろうやチューブからの「注入食」もメニューに加え、家族そろって食事を楽しめるようにします。「コア」は外出を諦めていた家族を“後押し”する場所。さらに障害がない人にも気軽に利用してほしいと、村尾さんは考えています。

「コア」プロジェクトを企画 村尾晴美さん
「エレベーターを通ってあべに~るに上がっていく子たちを自然と感じてもらって、こういう子が街なかで生活していると感じてもらうことで、ちょっと垣根が低くなるというか」

街なかの利点生かして 観光や修学旅行でも利用を

「コア」から少し歩くと原爆ドームがあります。

村尾晴美さん
「公衆トイレでは車椅子で入ってここに横にして。おむつが変えられて。でも、じゃあここで寝っ転がっているからここで食事って言われたら…ちょっと違いますよね、やっぱりね…」

村尾さんは「コア」が平和公園と近いことから、観光や修学旅行で訪れた障害のある人たちにも「コア」を利用してほしいといいます。

村尾晴美さん
「休むところがなかったとかいう話を聞くので。特別支援学校さんだと、この辺の旅館の和室の部屋をお借りして、そこで休憩してそこを拠点に動いてたって言っていたので。胃ろうでお腹を出して注入する時に、どうしても気軽にできるような場所がないから。コアで済ませて、また次のところに移動するという拠点になったらいいなと思っています」

「コア」のオープンを待ち望む1人、山田いつかさんです。長女のにこさん(10)は広島市立広島特別支援学校の小学部5年生。にこさんには先天的な遺伝子疾患があります。そのため「ケトン食」と呼ばれる食事療法をしています。

「ケトン食」とは糖質を減らして脂肪を増やす特別な食事です。にこさんが2歳のときからずっと、食事やおやつは山田さん手作りの「ケトン食」です。

9年間「ケトン食」を作る山田いつかさん
「これがいつも置いているクッキーです。つまんで自分が口で運べるというサイズを何回も試行錯誤して…」

食材の量は、厳密な計算式に基づいて1つ1つエクセル表で算出します。

調理に大きな負担がかかるこの「ケトン食」が「コア」で提供されることになったのです。これまで外食や泊まりの旅行ができなかったという山田さん。「コア」なら家族で外食ができることに、心強さを感じています。

山田いつかさん
「ケトン食やペースト食などの子どもたちは、お出かけしてもお母さんが朝からその子のための食事を準備して、というのが必要になってくるけれど、そういった負担のない場所ができるということが、すごくうれしい」

「コア」で広がる世界 誰もが自然に集えるように

にこさんは放課後、「コア」の3階にある「重症児デイサービス・あべに~る」を利用しています。

スタッフ
「ニコさんいただきます。はい、いただきます」

この日は特別支援学校が休校のため、朝から「あべに~る」へ。昼食は、山田さん手作りの「ケトン食」のお弁当です。

働くことを諦めていた山田さんですが、「コア」ができたらスタッフとして「ケトン食」作りに関わりたいと考えています。

山田いつかさん
「今までの私の知識、経験を使って新しいメニューを開発したりとか。私もケトン食のレシピ本を出したいという最終的な夢があるので、夢につながればうれしいと思っています」

この日、村尾さんの自宅に集まったのは、障害のある子どもを持つ母親たちです。外出や子育ての大変さを共有してきた仲間たちー。「コア」は障害がある人もない人も、心地良く過ごせる場所にしたいと話します。

村尾晴美さん
「なんとなく同じ喫茶店の中でお茶してるっていう、そういう関係になりたいよね」
プロジェクトメンバー
「なりたい」
「子供たちも胃ろうから入れていたら『何?それ何?』って来るんよね。『お兄ちゃんね、ご飯食べれんけん、ここから食べるんよ』というのを自然に言えて」
村尾晴美さん
「『聞いちゃダメなんよ!』とかいうのではなくね」
プロジェクトメンバー
「そうなんよ。そこそこ」

村尾さんは「コア」ができることで、祐樹さんの世界が広がることも願っています。

「コア」プロジェクトを企画 村尾晴美さん
「もう本当にちっちゃく生まれて。生まれた2日後に数時間の命ですって言われたところからのスタートなので、そこから全てが“ご褒美”じゃないですけど。あの子たちの社会が広がる。あの狭い空間の中で生活していたのが、もしかしたら下に降りてカフェの店員さんができるかもしれなかったり、カフェに来るお客さんたちに声をかけてもらえるかもしれなかったり。あの狭い空間の中での生活が広がるっていうだけでもワクワクします」

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「コア」は色んな可能性を持ったきっかけの場所、経験・知識が集まる場所になる。同じ空間にいることで分かることも多い。

重い障害のある人たちと家族にとって、外出は負担が大きい。街なかでやっと見つけたトイレに大人用ではなく赤ちゃん用ベッドしか設置されていなかったり。ごろんと横になれる場所がどうしても必要だが街なかには少ないため「短時間で早めに帰る」「外出自体を諦める」という人も多い。「コア」を拠点に行動が広がりそう。

「コア」では子どもの介護で仕事を辞めた親たちも、カフェのスタッフや食品製造で働くことができる場所にするとのこと。子どもが調子を崩して働けないことも多いので、時間など勤務体系を柔軟にして気兼ねなく働ける場所を目指す。

また親たちの知識や技能を生かすスペースにする。親が講師になって勉強会や相談会なども開催し、一般の人たちも参加できるようにしたいという。

「コア」は4月着工、6月ごろのオープンを目指している。

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