「F1に似ているから」と予選にデ・フリースを抜擢した可夢偉。タイヤは「オーマイガー、という状態」/WECカタール

 3月2日、現地時間の11時(日本時間17時)にスタートが切られるWEC世界耐久選手権第1戦カタール1812kmレース。決勝を前に、TOYOTA GAZOO Racingの小林可夢偉チーム代表兼7号車ドライバー、そして8号車の平川亮が、ルサイル・インターナショナル・サーキットから日本メディアのリモート取材に応えた。

 週のはじめに行われた2日間の公式テスト“プロローグ”からパフォーマンスに苦しんできたトヨタ。1日に行われた予選では7号車GR010ハイブリッドのニック・デ・フリースがポルシェ963勢と激しいポールポジション争いを繰り広げた結果2番手につけるも、ブレンドン・ハートレーがアタックした8号車ではタイヤにグレイニング(ささくれ摩耗)が生じ、11番手と一次予選で敗退を喫していた。

■早い段階で「予選アタックを遠慮した」可夢偉

 可夢偉は「予選前から苦戦していまして、とくにこのサーキットとクルマとの相性(が悪く)、さらにタイヤが合っていなくて」と現状を説明する。

 予選で8号車に生じてしまったグレイニングについては「なぜ起きたのかは、ちょっとずつ理解しつつある状態」だといい、これに細心の注意を払いながら10時間レースに挑むことになる。「非常に厳しいレースになると思うので、チーム一丸となって、ミスなく、しっかりとできることをやっていくしかない」と可夢偉は前を向いた。

 平川も予選で生じたグレイニングは「予想外」だったといい、「まだ未知なことがあるので、レースでも慎重に走らなければならない」という。また、トラックリミット違反もレース中に4回までしか許されておらず、5回目からはペナルティになるとして、「そのあたりも含め、クルマとタイヤを労りながらのレースになる」と平川は長丁場となる決勝への展望を語っている。

 昨年まで、7号車は基本的に可夢偉が予選アタッカーを務めてきた。今回デ・フリースをアタック担当に抜擢した経緯については、「僕、実はGP2の頃に走っているのですが、走ってみたら全然記憶になくて、このサーキットとこのタイヤの厳しさを考えると、ちょっと僕の運転には合っていないということで、最初に走って、それで早めに(予選アタッカーを)遠慮しました」と可夢偉。

「諦めも大事かな、と」と冗談めかす可夢偉だが、「でも、おそらくなのですが、F1の走り方に似ていると思うんですよ、いまのピレリの。この路面やグレイニングに対して、(マシンとタイヤを)どう扱うか、という部分では多少似ている感じがあって。それなら、ニックが得意じゃないかなって」と昨年途中までF1に参戦していたデ・フリースとの相性を鑑みての判断だったとも明かした。苦しい状況での予選2番手獲得の裏には、そんなジャッジも功を奏していた。

予選アタックに向かう7号車GR010ハイブリッドのニック・デ・フリース

■不思議なサーキット

 今回、ハイパーカークラスではミシュランのハードとミディアム、2種類のコンパウンドを使うことができる。可夢偉によればミディアムだとよりグレイニングが激しいため、ハードを使うしかない状況にあるが、ハードにもグレイニングが生じてしまうため「オーマイガー、という状態」だという。

 中嶋一貴TGR-E副会長によるコース紹介動画でも触れられていたが、ルサイル・インターナショナル・サーキットの路面について可夢偉は「超フラットで、何もない感じです」と印象を口にした。

「とくにミューが高いとか、アスファルトがタイヤに厳しそうとか、逆にグリップが少なそうだという感じはいずれもなくて、不思議なサーキットだなと」

 その路面に対してグレイニングが起きてしまう現状については、「僕らのクルマのダウンフォースレベルで、現在のクルマの重さだと、タイヤ的にかなりきついのではないか」と分析している。

 とりわけ、コース後半、ターン12、13、14と曲率が微妙に異なる右中速コーナーが連続する区間では、「タイヤが悲鳴をあげちゃうんです。あれだけ高荷重でずっとハンドル切っていると、あるところで(タイヤの)温度が上がった瞬間に、突然グリップがなくなった状態になる」という。

 こうなると「ハンドルを切っても何も反応がない状態」になり、コースアウトしてフロアを傷つけたり、トラックリミット違反を犯してしまう元凶になりかねないので、決勝では難しいコントロールが求められそうだ。

トヨタGAZOO RacingのWECチーム代表を務めながら、7号車GR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉

■「スーパーGTに似ている」新時代のトラフィック処理

 苦戦している状況ではあるものの、新たなマニュファクチャラーも迎えた2024年シーズンに挑むことについては、「超・楽しいですね、簡単に言うと」と可夢偉。

「これだけのドライバーと、これだけのマニュファクチャラーが、かなりの僅差で戦っているのでめちゃくちゃ面白いと思います。やっている僕らは、正直、シビれるなという感じですが(笑)」

 平川も「すごくチャレンジしがいがある」と表現した。

「僕らは今回残念ながら中盤(11番手)からのスタートですが、その経験はWECでは僕はないので、すごく違いがあると思いますし、レースの作戦、ピットのタイミングなども重要になってきます。ハイパーカーが連なって走ったらどうなるのかという部分も経験がありません。みんなが初めてのことなので、すごく楽しみにしています」

 なお、平川によれば、LMGTEアマがLMGT3となり、ハイパーカークラスとの“車格差”が広がったことで、トラフィック処理は「スーパーGTに似ている感じ」だといい、LMP2クラスが廃されたことで、その部分は楽になると予想している。

「タイムも10秒くらい違い、コーナーでの速度差もスーパーGTと似ています。LMP2は高速コーナーが速くて後ろにつけませんでしたが、LMGT3は後ろにつけたりして、すごく抜きやすいので、そこの処理はしやすいと思います」

 タイヤの使い方や戦略面だけでなく、新たなクラスとの混走でレースがどう変わるかも、第1戦カタール1812kmレースの見どころとなりそうだ。

8号車GR010ハイブリッドをドライブする平川亮

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