アングル:海路で遭難する移民、ハイテク技術が命を救う

Beatrice Tridimas

[27日 トムソン・ロイター財団] - 移民の救助に携わる非営利団体から、地中海で遭難した船の漂流地点を特定するアプリを設計できないかと相談されたドイツ人ウェブ開発者ニク・ゼムケ氏(32)は、世界最大級のハッカー集団「カオス・コンピューター・クラブ(CCC)」がドイツ北部の都市ハンブルクで開いた年次総会に出向き、志を同じくするボランティアを見つけ出した。

CCCの総会はハッカーと、彼らのプログラミング技術を社会問題の解決に役立てたい社会活動家が大挙して集まる場となっている。ゼムケ氏は「世界の出来事に心からうんざりし、事態を変えるための素晴らしい方法に夢中で取り組む人たちが大勢いる」と話した。ゼムケ氏のチームが5年の歳月をかけて作り上げた遭難移民船探索アプリ「ワン・フリート」は、非政府組織(NGO)が地中海で運航する捜索救助船にまもなく導入される見通しだ。

国連の難民機関によると、2015年以降、欧州を目指して地中海を渡ろうとして死亡したり、行方不明となった数は約2万8000人。昨年に陸路と海路で欧州を目指した移民・難民は前年比70%増加し、死者もしくは行方不明者が17年以来最多となった。23年6月にはギリシャ南部沖の地中海で定員を大幅に超える移民らを乗せた漁船が沈没し、数百人が死亡した。

移民救助NGOは開発が進むドローンや船舶自動探知ツールとともにワン・フリートを導入することで、危機に瀕した船の発見と対応が容易になると期待を寄せる。

ワン・フリートを搭載した捜索救難船は、遭難船からの緊急携帯電話や衛星電話の発信座標を記録し、どの対応チームが最も近距離にいるかを特定するのに役立つ。

<当局の対応補完に尽力>

国際法では、欧州連合(EU)加盟国やEU加盟国の船舶は、海上で遭難した人々を救助することが義務付けられており、近年、地中海ではEUの船舶やNGOによって数十万人が救助されている。

しかし15年の欧州難民危機の際に100万人余りの難民や移民が欧州に流入して以来、EUと加盟国は海上パトロールを縮小し、代わりに空からのパトロールおよびリビアとの連携を強化することで密入国者の抑止に努めている。

NGOはこうしたEUの移民・難民対策の軌道修正によって生まれた穴を埋めようとしている。

ただ、難民捜索活動に携わるドイツのNGO「シーウォッチ」の関係者の話では、NGOの能力不足は明らかで、シーウォッチは豊富や予算を持つ欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)が使用するドローンやサーマルカメラを購入する資金的な余裕がない。今はレーダーを使ったり、双眼鏡で海をパトロールしたり、フロンテックスのドローンを追跡するなどして遭難した移民船の場所を突き止めており、ワン・フリートの導入を予定している。

ドイツの宇宙工学者ステフェン・メルセブルク氏は、60年前の画像検出アルゴリズムの性能を高め、一般公開されている衛星画像から小型ボートを識別できるようにした。今のところ1枚の画像を10分以内に分析できるようにモデルを訓練しているが、衛星からの画像のダウンロードにはまだ数時間かかる。「大変な作業だ。でも私が習熟している分野だし、貢献できることだから続けている」と言う。

<法的措置への対抗手段>

NGOはまた、救助活動を正確に記録する手段として独自の技術ツールを開発し、救助活動を巡って法的な問題に直面した際に証拠となり得る材料を集めることにも熱心に取り組んでいる。ワン・フリートはこうしたデータの蓄積にも活用される。

EU基本権機関のデータによると、23年に地中海で活動した市民団体の捜索救助船18隻のうち10隻が法的措置に直面している。

この中には安全規則や航行規則違反を理由とするものもあれば、人道的理由による場合を除いてEU非加盟国の無許可の入国を助長する行為を罰すると定めたEU法に起因するものもあると専門家は指摘する。

当局が船舶を拘留したり、非営利団体の活動を制限したりする場合、幅広い技術ツールを手にしていれば救助活動の継続に役立つと、地中海で活動する捜索救助ネットワーク「シビル・マリタイム・レスキュー・コーディネーション・センター」でボランティア活動をしているドイツの海洋学者ルカ・クンツ氏(31)は指摘する。

漂流パターンに基づいて遭難船舶の漂着場所を予測するアプリの開発を支援しているクンツ氏。「多様なツールがあれば活動を継続できる」と言う。他の技術志向のボランティアと同じように、人命救助という目標に駆り立てられて開発を進めており、「プログラミングに何時間、何夜費やそうと、1人でも救助に貢献できるならそれだけの価値がある」と思いを語った。

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