プラダ 2024年秋冬ウィメンズコレクション - 研ぎ澄ます歴史の諸断片

プラダ(PRADA)の2024年秋冬ウィメンズコレクションが発表された。

歴史と現在の“ロマンス”

「INSTINCTIVE ROMANCE」と銘打った今季のプラダは、服飾史に現れる要素、いわば歴史の諸断片を切り取り、それらを現代の装いへと埋め込むことを試みたという。ここで歴史の断片と言うとき、それは「古びたもの」とは異なるものだろう。なぜなら、直感的に「ロマンス」を覚える一瞬の出会いとは、今という研ぎ澄まされた感覚を通じて捉えられたものにほかならないのだから。

たとえばバイカージャケットは、経年変化を帯びたような表情が、ありえたはずの過去へと感覚を誘う。艶やかなレザーを用いたコンパクトなシルエットは、フロントにストラップをあしらうなど、ヴィクトリア時代で多用されたコルセットのソリッドなラインを彷彿とさせるものとなっている。

異質な要素のコントラストもまた、歴史と現代の出会いを引き立てる。クラシカルなツイードのテーラードジャケットは、バックをライニングのように光沢のあるファブリックで。繊細に波打つシルクのスカートには、ソリッドなウールをプラス。ドレスやスカートには、ライグングが垣間見えるよう設定したレイヤリングも見られる。あるいはイヴニングドレスには、官能的なデコルテはそのままに、アウトドアを彷彿とさせるナイロン素材で変奏した。

上でコルセットに言及した。コルセットが多用されたヴィクトリア時代のドレスを特徴付けたのは、身体から乖離した大胆なシルエットであった。しかし、歴史の断片を現代へと引き付けるプラダが拠り所とするのは、こうしたデフォルメではなく、身体そのものである。ボクシーなテーラードジャケット、ノースリーブワンピース、すっきりとしたタートルネックニットやカーディガンなど、全体として縦のラインを際立てる、洗練された佇まいが基調となっている。

研ぎ澄まされた身体のシルエットを強調するとき、衣服の装飾性もまた再考されることになる。たとえば、リボン。華やかなドレスを飾ったであろうリボンは、結び目である以上衣服のある部分を絞ったり、あるいは広がる形ゆえに視覚的なポイントとなる。翻ってプラダにおいては、リボンを結ぶという働きを排除して、ドレスに付随する純然たる装飾へと転換したり、リボンを執拗に反復することで、かえってアクセントの働きから逃れさせたりと、その意味作用が問い直されているといえる。

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