ベタと奇抜、お笑いライブで明らかになった「ネタの融合力」

数多くの売れっ子芸人らが巣立った、吉本興業によるお笑い養成所「NSC(吉本総合芸能学院)」。そこで約1年、「笑い」について学んだ生徒たちがネタを披露する集大成的イベント『NSC 大ライブ OSAKA 2024』が2月29日、「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」(大阪市)で開催された。同ライブで改めて気付かされたことは、ベタなネタ設定の重要性である。(取材・文/田辺ユウキ)

『NSC 大ライブ OSAKA 2024』より(C)よしもとアカデミー

「NSC大阪校」の46期生、216組が参戦した同ライブ。コントで優勝を飾ったのは、浩嗣、うえむら、ハスキの3人組からなる「アマルフィん」だ。審査員をつとめたメッセンジャー・あいはらは「アマルフィん、めっちゃおもしろかった」と賛辞を送り、ザ・プラン9のお〜い!久馬は「(2位の)リッケンジョリーナと『どっちかな』と悩みながら(審査を)やっていました」と接戦だったことを明かした。

■ 改めて考える…「ベタなネタ設定の重要性」

優勝した「アマルフィん」(C)よしもとアカデミー

同ライブは、イベントに出場した46期生の親類や友人らが会場を埋めるなど、お笑いに馴染みがない人も多数来場し、普段のお笑いライブでは見られないような客層の広さとなっていた。そういったこともあり、序盤から独自の世界観をアピールするネタよりも、話にスッと入り込んでいける「ベタな設定」の方がウケは大きい印象だった。

ただ、最初から最後までベタで押し通すのではなく、展開部分でいかに奇抜な発想を織り交ぜていけるかが重要で、それが勝負の分かれ道になったように感じられた。

優勝したアマルフィんも、山奥で遭難して1週間何も食べていない男性が主人公という分かりやすい設定。ただそこになぜか料理人らしき人物が現れ、食料を提供する展開へ。しかもその食料がトルコアイスクリームで、実演販売でおなじみの「商品を渡すときに客を弄ぶ光景」が繰り広げられ、遭難者はなかなか掴み取ることができない。さらにそこへ飢えたライオンまで登場し、混乱が巻き起ころうとする。

惜しくも2位となったリッケンジョリーナも学校でよくある光景が題材で、3位のガラン堂もプラカード持ちのバイトとカードゲームオタクという日常的なキャラクターが出てきた。しかしどちらも徐々に、観客の想像を良い意味で裏切る展開が繰り広げられていった。

■ 笑い飯・哲夫に「ベタなネタ設定」について取材

審査員の笑い飯・哲夫(C)よしもとアカデミー

NSC大阪校で講師も担当している審査員の笑い飯・哲夫にその点について取材したところ、「授業のときにトルコアイスのネタを見たことがあって」と振りかえりながら、「トルコアイスの一番おもしろいところを引き出す設定が考えられていた。それがベタという言葉に通じるものがあったんです。その設定が、お客さんにも伝わりやすかったんじゃないか」と、アマルフィんの勝因を分析してくれた。

アマルフィんにも話を訊くと、「哲夫さんからは『ベタな部分は必ずウケるから入れた方がいい』とアドバイスをいただいたんですが、(講師の)あいはらさんからは、しっかり作り込むことも学んで。久馬さんからは、さらに『この部分がウケる』『この部分はもうちょっとこうした方がいい』と具体的にご指導いただきました」と、導入はベタにしながら、その後の展開でどれだけ物語へと引き込んでいけるかに力を入れたという。

コントだけではなく、漫才にも力を入れたいと語ったアマルフィん。目標とする芸人は、浩嗣が「ブラックマヨネーズ」、うえむらが「サンドウィッチマン」、ハスキが「アルコ&ピース」の名前を挙げた。また今回の優勝特典として、テレビ番組への出演、「なんばグランド花月」「祇園花月」「よしもと漫才劇場」で開かれるイベントへの出演などが予定されている。そこでアマルフィんがどんなネタを作って見せてくれるのか、これからの活躍が楽しみだ。

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