【対話術】口ベタ上司もマネできる!本音を引き出す「魔法の4文字」【1on1コミュニケーションの専門家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「今、組織では対話できるマネジャーが求められている」…そう語るのは、1on1コミュニケーションの専門家・世古詞一氏。同氏は、著書『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)にて、口下手マネジャーでも対話がうまくいく“対話の型”とスキルを余すところなく紹介しています。本書より一部を抜粋し、“しゃべってもらうスキル”の一つ、「相手に質問する」を見ていきましょう。

【しゃべってもらうスキル】相手に質問する

~相手にさらに深くしゃべってもらうための「2つの質問」

これまでの連載では、しゃべってもらうスキルとして、相手の話に反応したり、話を返すということを見てきました。ここからさらに深くしゃべってもらうために質問について見ていきたいと思います。

前回は、相手にさらに深くしゃべってもらうための質問として、各ボックスの奥にある潜在的な部分まで深堀りしていく「具体化質問」を紹介しました。今回は、ボックス内の横に広げていく「拡大化質問」について見ていきます。

【図表】拡大化質問 イラスト:加納徳博
出所:世古詞一著『対話型マネジャー 部下のポテンシャルを引き出す最強育成術』(日本能率協会マネジメントセンター)

「相手は思っていることを全部話してくれているのか?」「相手は本音を話してくれているのか?」――対話をしていると、こういった疑問が湧いてきます。

こんなときに活用できる便利な問いかけがあります。「ほかには?」という言葉です。この言葉について、1on1ミーティングを戦略的に行ってきたインテル元CEOのアンドリュー・S・グローブ氏は「もう1つ質問する」という表現を使って説明しています。

「ある主題について部下が言いたいことを全部話したと思ったなら、上役はもうひとつ念のための質問をしてみる。“双方が”問題の底にまで達したと満足感を覚えるまで質問を繰り返して、部下を励まし思考の流れを続けさせるようにすべき」(『HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント』アンドリュー・S・グローブ著、小林薫訳、日経BP)

拡大化質問:「ほかには? 」で話を広げる

★対話例(前回の続き)

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部長:「さっきマネジメントが面倒くさいっていうイメージがあるというところから深掘りして話し始めたけど、ほかにはマネジメントってどんな感じを受けるかな?」←(拡大化)

課長:「うーん、そうですね。苦手意識でしょうか」

部長:「ほぉー、そういう側面もあるんだね。苦手意識か…」←(沈黙で待つ。一緒に探すように)

課長:「そうですね。逃げちゃうといいますか…」

部長:「逃げちゃうというか…? 何だろうねー」

課長:「なんかぼんやりしてて成果が見えづらいんですよね。結局、チームの目標達成が成果じゃないですか? 私が全面的にやった方が成果は上がるからついやってしまうんです。成果が明確でないものに対して、やる気が湧かないのかもしれないです」

部長:「なるほどー。目標達成っていう成果に焦点が当たっているから、その最短距離を行こうとしちゃうんだね。でも、それ強みだよね」←(整理・反転の返し)

課長:「まぁそれで結果を出してマネジャーになったということもありますが…ただ、みんなが主体的に取り組んで結果を出すというところに、そろそろちゃんと向き合わなきゃいけないと思います。同じこと繰り返しているので」

部長:「うんうん。そろそろ次の段階にきてるんだろうね。そのためにどんなところから始めたいと思ってるかな?」←(実際のアクションプランに落としていく)

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このように、相手の話を返して2つの質問を中心に対話するだけで、事実を俯瞰でき、さらに再認識が生まれました。

最初の認識(モヤモヤ):マネジメントに苦手意識がある

事実(具体):成果を出すために、自分が動いて最短距離を取っている

再認識(事実を俯瞰):自分がマネジメントに向き合うときがきている

この対話例のように、新たなアクションが生まれたところで対話を終えてもいいと思います。ですが、ここでさらに質問して掘り下げることで思わぬ収穫につながることがあります。

話の「具体化」と「拡大化」を繰り返していくと…?

★対話例(続き)

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部長:「この機会だからちょっとしつこいかもしれないけど聞いてもいいかな?」←(合意を取る)

課長:「はい。大丈夫です」

部長:「マネジメントのイメージが、面倒くさい、苦手意識がある、ということだったけど、ほかにどんな意味がありそうかな?」←(拡大化/「どんな意味」という言葉からはポジティブな要素が出やすい)

課長:「意味ですか…。やっぱり成長はしますよねー」←(マネジメントにポジティブな意味も含まれていたことがわかる)

部長「たしかに成長しそうだよねー。それってちなみにどんな成長かな?」←(2.深堀り)

課長「自分だけのことじゃなくて、人のことを考えられるようになるので視野が広がりますね」

部長:「うん、絶対に視野は広がるよね。うん、うん。ほかにどんな成長がありそうかな?」←(拡大化)

課長:「うーん…」

部長:「成長することで視野が広がるし、あとは…(一緒に考えるようにゆっくりと)」←(次の気づきが出てきやすくなるよう、それまでの流れを声に出しながらサポート)

課長:「なんというか、次の次元に行けるような気がします」

部長:「おぉ、いいね。“次の次元“かー。今思いつく次の次元って、たとえばどんな世界?」←(2. 深堀り)

課長:「自分だけの限界というものを感じているので、やっぱり周りを巻き込んで何かを成し遂げられる世界ですかね。それの自分なりの方法とかパターンを持ちたいですね。そうすると自信が持てると思います」

部長:「なるほどー。自分の限界を超えるってことだね。そういうパターンをぜひ確立したいね。そうだとすると、自分の理想のマネジメントに取り組むことって、たとえばどんなことがあるかな?」←(2. 深堀り/行動変容への具体化例)

課長:「やはり、仕事を任せるということをもう少し意識してやっていきたいです」

部長:「いいね。じゃあ、その『任せる』を実際にできるように、もう少し具体的な場面で考えていこうか? たとえば、どんなことができそうかな?」←(2. 深堀り)

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このように、話の具体化と拡大化を繰り返すことで、新たな行動変容を起こすことができます。ここまできたら、出てきたアクションプランについて、上司も意見を加えるなどして、良い対話を行うことができるでしょう。

たくさんしゃべってもらうと、本音」や「気づき」が出てくる

ここまでの対話例を簡単に振り返ってみると、当初、課長は「マネジメントが面倒くさい」と言っていました。それを掘り下げただけでは、「マネジメント=面倒くさい」で終わってしまいます。「ほかには?」と横に広げて、可能性が拡大化したからこそ、3つ目の「成長」という言葉が出てきました。私の経験に照らしてみても、3つ目くらいでようやく本音が出ることが多いです。そして、さらにそこを掘っていくことで、新しいアクションも出てきました。つまり、たくさんしゃべってもらうから、これらが出てきたのです。

人間が持っている認識や感情は1つだけではありません。質問の仕方次第で、相手も気づいていない可能性が見えてきます。しかし、私たちは相手が言っている言葉だけにとらわれてしまい、可能性を広げることがなかなかできません。ですから、こういった「質問の型」から入ることが重要なのです。

世古 詞一(せこ・のりかず)

組織人事コンサルタント

1on1コミュニケーションの専門家

1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。早稲田大学政治経済学部卒。

Great Place to Work Institute Japan による「働きがいのある会社」2015年、2016 年、2017 年中規模部門第1位の(株)VOYAGE GROUP の創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、ストレングスファインダー、アクションラーニングなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。

著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』(かんき出版)がある。

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