『ブギウギ』草彅剛の変わる表情に唸る 羽鳥の遊び心がたっぷり詰まった「買物ブギ」

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の第22週「あ~しんど♪」が放送された。レコード会社から「東京ブギウギ」を超える歌を歌ってほしいと発破をかけられたスズ子(趣里)は羽鳥(草彅剛)の元に新曲を頼みに行く。ところが「ジャングル・ブギ―」に「ヘイヘイブギ―」とブギを書き続けてきた羽鳥はネタ切れだと困ったような表情に。だが、夕飯の買い物に行こうとするスズ子の姿を見た途端、思いもよらぬアイデアがひらめくのだった。

そんな難しくも軽快で“おもろい”歌こそが「買物ブギ」なのだ。羽鳥の遊び心がたっぷり詰まったこの楽曲は、「買物」という誰もが経験する何気ない日常を音楽で明るくポップに彩っており、その歌詞も羽鳥が手がけている。劇中でも買物カゴを提げたスズ子の姿が羽鳥にインスピレーションを与えただけあり、様々な食材の名前とともにスズ子らしいコテコテの関西弁も登場している。さらに印象深いのが「オッサン」というフレーズの部分。金曜日の放送では「オッサン、オッサン、オッサン……」を連発するスズ子の姿が強く印象に残ったという視聴者も多いのではないだろうか。

実は、第104話で画面に映った楽譜には、「買物ブギ」のタイトルの上に「OSSAN!OSSAN」の文字がハッキリと書き記されている。これについては、羽鳥のモデルとなった服部良一の孫にあたるTOMOKO HATTORIさんがX(旧Twitter)にて明かしているが、実際の服部の楽譜にも同じく「OSSAN!OSSAN」の書き込みが残っていたとのこと。そんなことからも「オッサン」はこの楽曲においての非常に重要なフレーズであると推測される。

『ブギウギ』での羽鳥が実際にどのタイミングで「OSSAN」の着想を得たのかは明かされていないが、作中で一部の歌詞についてスズ子に「君から頂いたんだ」と言っていたことから、普段のスズ子の関西弁に大きくインスピレーションを得ていると感じた。そして、「買物ブギ」を思いついてからの羽鳥は週前半に作曲業についてぼやいていた姿とは一転、おちゃめに大阪弁を話しながらキラキラと輝く笑顔を見せる。演じる草彅剛の子供のように素直にくるくると変わる表情が、弾けるような楽曲を生む羽鳥の人物像と重なり、ますますキャラクターに奥行きを与える。羽鳥が活躍するたびに、草彅の芝居の引き出しの多さを突き付けられ私たちは唸らせられることになる。

服部が作曲し笠置シヅ子が歌唱した「買物ブギ」は多くの人に愛された曲だけに、様々なアーティストにカバーされた。桑田佳祐やKinKi Kids、なにわ男子、UAなども歌唱しており、それぞれがそれぞれの表現力でスズ子も唸る難しさの「買物ブギ」と対峙する。言わずと知れた名曲「買物ブギ」は、歌に情熱をかけるスズ子が羽鳥のいないステージで一人新たに旅立つ瞬間にはもってこいの楽曲だ。きっと今後のスズ子の活躍に大きく勢いをつけてくれたことだろう。

羽鳥のいないステージに一抹の寂しさは残るものの、このワンマンショーはまさにスズ子にとっての大きな一歩となっただろう。羽鳥から「君はもう一人前だ」と太鼓判を押され、新たな若いマネージャーと歩み出したスズ子。だが、欲を言えばまたステージ上でタクトを振りながら歌い飛び跳ねる羽鳥との共演も見たいものだ。

(文=Nana Numoto)

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