「後味悪すぎ」「観る勇気がない」メンタル破壊映画なのに傑作!? ビョーク主演『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を4K映像でテレビ鑑賞チャレンジ

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』©ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINÉMA

北欧アイスランドが生んだ歌姫、ビョーク。そんな紹介が馬鹿らしくなるほど日本でも非常に知名度の高いアーティストだが、壮大なステージ演出や独創的なミュージックビデオなど、彼女が関わる映像作品も発表毎に大きな話題を呼ぶ。

もちろん映画にも出演していて、多くはドキュメンタリー作品だが、最近ではバイキング家族の壮絶な宿命を描いた『ノースマン 導かれし復讐者』(2021年)で怪しい予言者を演じていた。そんなビョークが俳優として抜群の存在感を披露した作品が、ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)だ。

映画ファンに消えないトラウマを刻んだ問題作

良くも悪くもデンマークが誇る天才トリアー監督の代表作であり、第53回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを獲得した本作。しかし、あまりにも救いのないダウナーな展開を受け入れられない観客も続出し、ゼロ年代屈指の“ウツ映画”として多くの映画ファンに一生消えないトラウマを刻むこととなった。

そんな北欧映画の傑作にして超問題作が、このたびCS映画専門チャンネル ムービープラスにて「4Kデジタル修復版」で放送。映画館と違って「あ、キツい!」と思ったらいつでも避難できるので、テレビ鑑賞はトリアー作品初挑戦には最適と言えるかもしれない。もちろん熱烈なファンや、もう一度チャレンジしてみたいという人も、この4K放送を見逃す手はないだろう。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の陰鬱ストーリー

チェコからアメリカにやってきたセルマは女手一つで息子を育てながら、工場で働いている。セルマを母のように見守る年上の親友で同僚のキャシー、何かにつけ息子の面倒を観てくれる隣人ビル夫妻、セルマに静かに思いを寄せるジェフ。様々な愛に支えられているセルマだったが、彼女には悲しい秘密があった。病のために視力を失いつつあり、手術を受けない限り息子も同じ運命を辿るのだ。

愛する息子に手術を受けさせたいと懸命に働くセルマだったが、視力の悪化によってミスが重なり、職場をクビになってしまう。しかも、コツコツと貯めていた手術代が何者かに盗まれ、それが彼女を最悪の結末へと導くことに……。

救済が剥ぎ取られたセピア色の世界で歌い踊る

不幸に不幸を上乗せし、ささやかな人情を地面に叩きつけるような意地の悪さ。セピアがかった手持ちカメラの粗い映像はホームビデオのようだが、その中で積み重ねられる陰鬱な気分からはなかなか抜け出せない。セルマが歌い踊る“妄想ミュージカル”だけが明るく楽しげで、感動というよりも“やるせなさ”で涙が止まらなくなる。

ビョークが彼女にしかなし得ない素晴らしい演技・歌唱を披露していて、カンヌ映画祭の主演女優賞の受賞も納得。また、カトリーヌ・ドヌーブやピーター・ストーメア、デヴィッド・モースら名優たちのおかげで、粗い映像でも安っぽさは感じさせない。ある程度“覚悟”して観れば不意打ちのショックは避けられるはずなので、ぜひ鑑賞に挑んでほしい作品だ。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク[4Kデジタル修復版]』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年3月放送

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