さよなら、レトロ食堂…丸広川越店の「ファミリーレストラン」 思い出の味、今も あす、55年の歴史に幕

食品サンプル模型を見てメニューを選ぶ親子=1日、埼玉県川越市新富町の丸広百貨店川越店6階「ファミリーレストラン」

 昭和の頃は、全国各地のデパート上層階にあったレストラン。和洋中の幅広いメニューを用意し、家族そろって楽しめた店の多くが姿を消して久しい。埼玉県川越市新富町の丸広百貨店川越店6階の「ファミリーレストラン」は、時代の移り変わりを経てなお営業を続けるレトロ食堂だった。だが、同店で進められている耐震工事のため、4日で55年余りの歴史に幕を閉じる。

 ファミリーレストランは川越店の建物が増築オープンした1968年10月、現在の場所で営業をスタートした。当初は直営だったが、2004年からは取引先企業のテナントとして運営している。

 店内の飲食店で最も広い380平方メートルほどのスペースに、約150席を配置。今ではあまり見られないメニューの食品サンプル模型が入り口に並び、店舗ビル正面の西側にある窓の外には、箱庭がしつらえてある。閉店が迫った2月下旬ごろから、来客数が大きく伸び始めたという。

 1日は平日だったが、昼食時を過ぎても空席待ちの人々が途切れなかった。鶴ケ島市の矢野理恵さん(42)は、坂戸市に住む母親の細井敏子さん(72)と来店。思い出深いレストランの味を楽しんだ。矢野さんは小学校低学年の頃、歯科治療の帰りに2歳下の弟と一緒に必ず連れて来てもらったそうで、「カツカレーを初めて食べた店。衝撃を受けたのを覚えている。今日も食べたけれど、どこよりもおいしい」と声が弾む。

 細井さんは独身時代、おばにごちそうしてもらった店でもある。「当時のあんかけラーメンが今もあって懐かしい。歯医者の帰りに子どもたちと寄ったのは、ご褒美で釣ろうとしたから」と振り返った。

 矢野さんは営業終了を惜しむ。「特別なところ。昔と変わらないので、帰ってきた気分になる。最後に来られて良かった」とほほ笑んだ。

 本店である川越店は20年から、全館の耐震化を行っており、ファミリーレストランがある西側部分は最後の改修エリアとなる。丸広百貨店は今年、株式会社の創立から75周年の節目を迎え、11月には工事が完了。館内の配置なども見直してのオープンに向け、レストラン跡は別の用途が検討されているという。

 最終日の4日は、午後6時30分ラストオーダー、同7時に閉店する。百貨店の飲食・サテライト担当次長、宮沢雅人さん(48)は「親子や3世代でご利用いただき、長い間続けられた」と感謝。「時代に応じて変わらなければならないが、これからも世代を超えて思い出をつくれる場を提供したい」と語った。

窓の外に箱庭と川越市内の眺望が広がるレストラン

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