大河ドラマの始まりと終わりは覚えていても真ん中がすっぽり抜けているのはなぜ?記憶力定着の仕組み【脳内科医が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

NHKの連続テレビ小説や大河ドラマなど、「始めと終わりは何となく覚えていても真ん中のストーリーは覚えていない」なんてこと、ありませんか? それは学んだことの最初と最後が記憶に残りやすいという脳の特性のせい。そんな特性を生かして記憶力を底上げする仕組みについて、著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より、 加藤俊徳氏が解説します。

その日のうちに復習で記憶の定着率がアップする

エビングハウスの忘却曲線でも、1回の復習で記憶力が高まっていたように、大事なことはその日のうちに整理しなおすことが、記憶を定着させる重要なポイントです。

【図表】エビングハウスの忘却曲線 出所:『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より抜粋

記憶したことは一時的にワーキングメモリーに保管されますが、保管されている間にどのくらい品質が劣化するかは人それぞれ。

私自身のことで言えば、状態のいいままで保管しておく能力が低いという自覚があります。患者さんの紹介状を書くときでも、診察したその日の夕方に処理してしまえば10分で終わるところが、翌日なら20分かかり、1週間後ともなると30分以上を費やさねばならないなど、時間が経てば経つほど思い出すのに苦労します。

多忙なビジネスパーソンにとって、思い出すために資料をひっくり返す時間ほど無駄なことはありません。

効率よく勉強をしたいならば、脳科学的にも覚えたことはその日のうちに復習するのが鉄則です。

記憶の定着を100とした場合、その日に復習しないでいると50以下まで下がるとします。

翌日になればさらに下がって、20〜30くらいになってしまうかもしれません。

しかし、その日に復習しておけば、記憶のベースを80〜90くらいまで引っ張り上げることができます。

すると、翌日になっても50〜70くらいは覚えておくことができ、長期的に見た場合、復習する回数を減らしていくことが可能となります。

復習する際には、復習専用のノートを作っておくことをおすすめします。

ノートに要点をまとめる作業には理解系脳番地、運動系脳番地、視覚系脳番地を使うため、記憶に残りやすくなるからです。

その復習ノートを使って、翌日には、自分が講師になったつもりで声に出してスピーチをします。

これをすることにより、理解系、記憶系、伝達系、運動系、聴覚系と多くの脳番地を一気に働かせることができ、さらに記憶を強固なものにしていけます。

復習するときはテキストの真ん中からスタートする

脳の特性の1つに学んだことの最初と最後が記憶に残りやすいということがあります。

逆に言えば、真ん中のことは記憶しにくいということ。

復習をする際は、真ん中からと意識的に順番を変えることで、知識をまんべんなく身につけていくことができます。

私のクリニックでは、脳診断の一環として患者さんに3行の簡単な文章を読んで覚えてもらうことがあります。試しに、あなたも挑戦してみてください。

【図表】記憶クイズ 出所:『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より抜粋

どうでしたでしょうか。

ほとんどの方が、1回読むだけでは文章の最初と最後だけを覚えていて、真ん中はすっぽり抜け落ちてしまいがちです。

半年にわたって放送されるNHKの連続テレビ小説や、1年間放送の続く大河ドラマでも、過去の作品の始まりとエンディングはよく覚えていても、途中にどんなエピソードがあったかまで詳細に覚えている人は少ないでしょう。

実際に、真ん中の記憶がすっぽり抜けてしまうことは、実験心理学で証明されています。

行動心理学の用語で「初頭性効果」「新近性効果」と呼ばれるものがあり、最初の記憶と最後の記憶が短期記憶として残りやすいということがわかっています。

初頭性効果というのは、いくつかの項目を提示されたとき、最初に目にした項目ほど記憶に残りやすいというもので、1946年にポーランドの心理学者ソロモン・アッシュによる印象形成の実験によって明らかになりました。

2つのグループに、ある人物について次のように伝えます。

A「明るい、素直、頼もしい、用心深い、短気、嫉妬深い」 B「嫉妬深い、短気、用心深い、頼もしい、素直、明るい」

どちらも同じ形容詞が並んでいるのですが、最初に伝えられた言葉によってAのグループはポジティブな印象を抱き、Bのグループはネガティブな印象を抱きました。

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新近性効果は、1976年にアメリカの心理学者N・H・アンダーソンによる模擬裁判の実験結果から提唱されたものです。

1つのグループは検事側→弁護側の順で証言を、もう1つのグループには最初に弁護側、最後に検事側の証言をまとめて述べます。

これにより、陪審員がどのような判断を下すかを見るというのが実験の内容でしたが、どちらのグループも最後に証言を提示した側が勝訴するという結果になりました。さまざまな議論を尽くしても、人は途中の経緯を忘れやすく、終盤の意見をより記憶してしまうのです。

ビジネスシーンではプレゼンの順序を決めたり、顧客へ商品を訴求したりする際に、初頭性効果と新近性効果はセットとして活用される場面も多いようですが、こと勉強に関してもこの2つはセットで働いています。

勉強においても学んだことの最初と最後が記憶に残りやすいのです。

つまり、復習をするときは、記憶に残りにくい真ん中から始めたり、復習回数を増やすというのが賢いやり方です。

前日に1〜10ページまでを勉強したなら、翌日は4ページあたりから始めれば、記憶の穴を効率よく埋められます。

脳の特性をよく理解した上で、強く定着したところを伸ばすだけではなく、弱い部分を補うように埋めていくというやり方で記憶力を底上げすることができます。

また、1966年に行われた記憶の仕組みを探るための実験に、もうひとつヒントがあります。

被験者を3つのグループに分け、15の単語を覚えてもらいます。グループAには覚えた直後に単語を回答してもらい、グループBは覚えた直後に10秒間、グループCは30秒間、数字を叫ぶという妨害行為を行った後に回答してもらいました。結果は、グループAは最初と最後の正解率が高く、グループBとCは最初の正解率が高くなりました。

最初は記憶するものが少ないので、すべてのグループにおいて記憶力が高い状態です。しかし最後に関しては、妨害行為のないAのグループだけ正解率が高くなりました。

あなたは、勉強直後に気分転換とばかりにスマホでニュースやツイッターなどを見てはいませんか? その行為こそが、後半で勉強したことが忘れやすくなる妨害行為なので気をつけましょう。

加藤 俊徳

加藤プラチナクリニック院長/株式会社脳の学校代表

脳内科医/医学博士

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