保険担当者の助言どおりの「がん保険」に加入した年収550万円の41歳会社員…大腸がん罹患から3年後、大後悔した「悲しすぎる理由」【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

がん保険を選ぶ際、種類が多くてどれが適切なのか、多くの人は迷うでしょう。その際、保険担当者から「治療給付金」主体のがん保険を勧められることがあるかもしれません。説明を受けると、なるほどもっともだと、感じるかもしれませんが、実際にがんに罹患し、保険を使うことになると……。本記事では、坂田ひかるさん(仮名/41歳)の事例とともに治療給付金主体のがん保険の注意点について、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が解説します。

担当者お勧めのがん保険に加入

千葉県船橋市在住、会社員で41歳の坂田ひかるさん(仮名)。坂田さんは大学卒業以来大手小売業の会社に勤め年収は約550万円。5年前現在暮らしている分譲マンションを購入し、現在も住宅ローンを返済中です。貯蓄は約700万円で、老後不安もあり家計をやりくりしながら毎月5万円程度貯めてきました。

坂田さんは養っている家族がいるわけではなかったため、生命保険については必要性を感じていませんでした。しかし、30代半ばに同世代で乳がんなどを患う著名人の存在からがん保険については気になっていました。そしてマンションを購入する時期、家計を見直したタイミングで自宅の最寄り駅近くにある来店型保険ショップに相談に行くことに。

坂田さんの担当者は同年代の女性と思われるスタッフで、名刺にはファイナンシャルプランナーの記載もあり信頼できそうな印象でした。実際丁寧にがん保険の基本やさまざまな商品の比較説明をしてくれて、坂田さんはその時期のお勧めのがん保険に加入しました。

3年後、大腸がん発症でがん保険のありがたみを実感

マンションを購入し新居での生活を楽しみつつ仕事も順調にこなしていた坂田さんですが、3年前の健康診断の便潜血検査で『要精密検査』の判定が。大腸の内視鏡検査を勧められすぐに検査を受けたのですが、結果はまさかの『大腸がん』の診断。まだ手術が可能な段階ということで、坂田さんは主治医の勧めに従い、手術を受けることを決めました。

約2週間の入院期間で手術は無事に終了。がんはきれいに取り除けましたが、再発リスクがあるため、引き続き抗がん剤治療を受けていくこととなりました。

ちなみに坂田さんが相談に行った来店型保険ショップで担当者からお勧めされ、加入したがん保険は下記のとおりです。

(1)がん治療給付金 20万円(月に1回を限度)
(2)がん診断給付金 50万円(2年に1回を限度に回数無制限)
(3)がん入院給付金 入院1日あたり1万円(日数無制限)
(4)がん通院給付金 通院1回あたり5,000円(通算120回を限度)
(5)がん先進医療給付金 がん先進医療の技術料相当額(通算2,000万円を限度)

坂田さんは退院後すぐにがん保険の請求手続きを行いましたが、加入中のがん保険の保障のうち(1)(2)(3)からトータルで84万円のお金を受け取ることができました。

入院時は気兼ねなく療養するため、1泊1万5,000円の個室に入り、その費用が約20万円。医療費関係は高額療養費の事前申請をしていたため約10万円。合計で30万円少々の自己負担額となり会計時にいったん支払いましたが、後日がん保険からのお金が入金され、最終的に50万円程度お金が余ることに。

がんの入院・手術なので貯蓄をかなり取り崩すと思っていた坂田さん。がん保険のありがたみを強く感じました。そして退院後しばらくしたあと、約1ヵ月に1回の通院で抗がん剤治療を行っていく予定でその際には、(1)と(4)が給付対象との説明を保険会社のコールセンターで受け、先々への安心感も得ることができました。

肺への転移で再度治療へ

坂田さんは、定期的に主治医のもとへ通院しながらもいままでどおり仕事に行って日常生活を送っていました。

しかし、1年ほど前に肺へのがんの転移が見つかり、あらためて抗がん剤治療を行っていくことになりました。治療は引き続き通院で行う予定で、通院の日は会社を有給休暇で休んで病院へ行く予定です。会社も仕事とがん治療の両立に対して理解があるため、坂田さんもその点は助かっています。

がん転移後の治療においても加入しているがん保険の『治療給付金』から1ヵ月あたり20万円の給付があり、経済的な面でも安心して治療に向かうことができています。ただ、最初のころの通院では受け取れていた『通院給付金1回あたり5,000円(通算120回を限度)』の保障。これに関しては、退院後120日までの通院が支払い対象のため、今回は入院を伴わない治療のため、通算120回には至っていませんが給付を受け取ることはできません。

そして、最初の入院手術時に50万円の一時金を受け取った『診断給付金50万円(2年に1回を限度に回数無制限)』に関しても、前回から2年が経過していますが2回目以降はがん治療で入院することが条件のため、やはり受け取ることができません。

ただ抗がん剤治療費の自己負担額は1回あたり約4万円なので、がん保険の治療給付金からのお金でまかなえていておつりがきている状態です。

そんな具合で転移のがんを克服すべく治療を受けていた坂田さんですが、以前の抗がん剤治療の頃よりも副作用が強く出るようになってきて、だんだんと体調不良により会社を休みがちになりました。坂田さんの仕事内容は外回りが多く、それなりに体力が必要となるものだったのですが、会社の上司と相談し、あまり体力を必要としない事務職への配置転換に。それにより肉体的な負担は減ったものの、残業がなくなり月の収入は数万円減少してしまいました。

その減少した分をがん保険の治療給付金がカバーしてくれていて、がん保険加入時に担当者がいっていた『治療費に使い残った分を収入保障に』というアドバイスがあったことを思い出し、いい担当者に出会えたことに感謝の念が湧いてきました。

副作用で体調悪化し、治療がしばらく中断に

強い副作用にもかかわらずがん克服のために懸命に耐えて治療と仕事を続けていた坂田さん。ただ、治療後しばらくのあいだは体調面が整わず仕事を数日単位で休まざるを得ない状況になってしまいました。

職場の人々は坂田さんに対し理解があって助かるのですが、仕事を休むことに罪悪感を感じます。そしてとうとう有給休暇も使い果たしてしまい、休んだ分はただの欠勤となって、給与収入が配置転換からさらに下がることになってしまいました。あるときの抗がん剤治療のあとは副作用がとても強く、回復がかなり遅かったため1週間すべて欠勤という事態になり、健康保険の『傷病手当金』を申請する流れになりました。

収入への不安がかなり大きくなりましたが、この傷病手当金とがん保険の治療給付金で経済的にはいままでどおりの生活が続けられています。ただ傷病手当金は最長1年半までの給付ということなので、回数無制限のがん保険治療給付金が本当の頼みの綱という感じがしてきました。

そのように感じながらがん治療を続けてきた坂田さんですが、副作用による体調不良もさらに悪化してきた感があり、長く治療を続けてきたことによる体力低下も顕著で、治療の継続が難しいと感じるようになってきました。そんな状況を次の診察時に主治医に伝え、血液検査の結果を見たところ抗がん剤治療を継続することが適切ではない数値であったこともあり、そこからしばらく治療を中断して体調や体力の回復を待つこととなりました。

治療中断で治療給付金の受け取りも中断に

体調がすぐれず仕事もしばらく休職することとなった坂田さん。傷病手当金からあと数ヵ月は給付を受けられる予定ですが、金額はいままでの月収の50~60%程度。住宅ローンの返済もまだまだ長く続く予定で、がん団信に加入しなかったことを後悔しました。

しかしそのかわりにがん保険の治療給付金が回数無制限で保障をしてくれると安心感を持っていた坂田さんですが、いざ事態が非常に厳しくなってきたところで衝撃の事実を知ることになります。治療の中断が決まった前回の診察分の保険の請求をしようと、いつもの保険会社コールセンターに問い合わせたところ「今回は所定の治療を受けていないということなのでお支払いの対象外となります」という思いもよらない回答が。

冷静になってみれば当たり前の話ですが、治療給付金は治療を受けたことに対してお金を受け取れるものです。この治療給付金についての説明を受けたときに担当者から「仕事を休むほど体調が悪ければ、治療を受けているはず」と説明を受け、坂田さんも「たしかにそうだ」と感じ、治療給付金を仕事に出られず給料が稼げないときの収入保障として選んだことを思い出しました。

「身体がしんどいときにお金の不安も抱えることほど辛いものはないです。治療は思うように進まないし、頼る人もいないのに破産したらどうしようと、毎日不安で不安で本当に苦しいです」

担当者の思い込みで引き起こされる不適切な保険選択

今回の事例の坂田さんは、がん保険の治療給付金という『がん治療を受けたら月に1回20万円受け取れる保障』を治療費への備えだけでなく、収入が得られないときの収入保障という目的で加入していました。

治療の前半においてはほぼ毎月続いていた通院治療でお金を受け取り、治療費をまかないかつ減少した収入を補填できて非常に助かっていました。ところが、体調が悪化して収入が得られなくなったときに治療も中断となり期待していたお金を受け取れないというとても辛い結果を招いてしまいました。

保険加入に対する考え方はそれぞれあってもよいとは思いますが、原則的には『最も厳しいシナリオに対して経済的な保障をしてもらう』ということが保険加入の目的だと筆者は考えています。つまり、がんの保障においては、がん闘病中において経済的に最も厳しい状況、まさに今回のように仕事ができず収入が得られない状況をあらかじめ想定し、そこに対して保険で保障するかどうかを検討すべきといえます。

そういった意味で今回のような事例は加入時点でのがん治療に対する想定に問題があり、保険加入した坂田さんががん保険選択時に提供された情報が不適切であった可能性があります。保険担当者はがん保険に関する知識は当然持っていますが、がん治療の実態について詳しい知識を持っているかどうかにはバラツキがあるものと考えられます。

根拠のない『治療を受けているはず』は不適切

一般的に体調が悪くなったりなにか病気の発症があれば、治療を受けることが当たり前という感覚はあるかと思います。ところが、がんの場合、体調や体力が整わないため治療を中断・中止するという選択をすることがあります。

2023年11月、ミュージシャンで自らの大腸がんを公表している桑野信義さんがそれまで行っていた抗がん剤治療を中止したことを自らのブログで発信したことが報道され、話題となりました。理由は吐き気や下痢など重い副作用に悩まされていたということですが、こういったことは実際に起こり得ることです。また、がん患者自身は治療を受けたいと思ったとしても血液検査の結果などにより、医師のほうから治療の中断を指示されることもあります。

こういった現在のがん治療に関する情報を入手することはそれほど難しいことではありません。しかし、自らそういった情報に触れ知識を高めようというアンテナを張っていなければ得ることはできません。そういった情報を持たずに安易に『がんが悪化していれば治療を受けているはず』という思い込みで保障選択に関するアドバイスをすることは不適切といえるかもしれません。

『治療給付金』で収入保障は不適切

近年がん保険の主流になりつつある『治療給付金』。その保障内容はがんの3大治療(手術・放射線・抗がん剤)を受けたとき、月額10万円をお支払いといった内容のものが一般的です。

また、がん保険商品によって、

・3大治療が公的医療保険制度の対象に限られるものと自由診療も含むもの

・3大治療だけではなく緩和ケアの治療も支払い対象とする

といった違いがあります。月額の金額も5~30万円など自分で選べるものが多くあります。

がんの生存率が高くなっていることから治療も長期化している傾向があり、当然ですがその分累計の治療費も高額になっていきます。そういったことを考えると、こういった治療給付金の保障でがん治療費に備えるということには一定の合理性があると考えられます。

ただしその際に注意すべきこと。それは『治療給付金はあくまでがん治療費の支払いのために加入する』という加入目的を忘れないことです。先ほどの事例のとおり、体調が悪化しているにもかかわらずがん治療を中断・中止するケースがあります。

治療を受けない限り治療給付金はまったく機能しません。受け取る金額を高めに設定することで『治療費支払いをしてもお金が余るようにして、それを収入減の補填に』というアドバイスをする保険担当者もいるようですが、場合によっては、がん治療の実態をそれほど知らないなかで語っている可能性も否定できません。

『受け取れると思って請求した保険が支払対象外だった』とならないために

がん治療は肉体的な苦痛を伴うこともありますし、メンタル的に大きなダメージを受ける場合もあります。そして『がんはお金がかかる病気』ともいわれます。そのために人はがん保険に加入するのですが『実際がんになってしまったときに期待していたお金が受け取れなかった』ということが起きてしまうと、そのショックは小さくないことが想像されます。

保険で最も起きてはいけないこと、それは『受け取れると思って請求した保険が支払対象外だった』ということです。そのため、がん保険に関していえば、最新のがん治療の実態とがん保険の保障内容をよく照らし合わせて適切な保険商品とプラン選びをすることが非常に大切です。

そのためにあなたにアドバイスを提供する保険担当者がいるのですが、担当者のがん治療の実態に関する知識レベルにはバラツキがあることが考えられます。ですから相談の際には担当者のがんの知識レベルに注意して判断をしていただきたいと思います。

もしその見極めが難しい場合、たとえばひとりだけではなく複数の担当者に相談するなどの工夫をしてみることお勧めします。

谷藤 淳一

株式会社ライフヴィジョン

代表取締役

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