レンズの保管方法編[ヴィンテージカメラの楽しみ方] Vol.04

コレクションが目的なら話は別だが、写真を撮るための道具として愛機と長く付き合うなら、保管方法にも気を使いたい。

カメラ・レンズの大敵は"カビ"

カメラやレンズを保管するうえで、いちばん多いトラブルはカビの発生だ。一般に「カビが生える」と言われるが、これは植物の種に当たる胞子から菌糸と呼ばれる芽が出た状態を指す。少しくらいのカビなら撮影に影響を及ぼさないが、カビは生き物なので放っておくと繁殖し、やがてレンズ全面を覆ってしまう。またレンズだけでなくカメラのミラーやファインダーのプリズムに生えることもある。

カビを発見したら、すぐに専門家にクリーニングを依頼すること。時間が経つとレンズ表面に生えた菌糸がガラスを侵食、クリーニングしてもカビ跡が残ってしまう。ただしレンズ内側に生えたカビを除去するにはレンズの分解が必要。そのためメーカーのサービス窓口では重修理扱いとなることが多く、それなりの出費を強いられる。いずれにしてもカビがいちど生えると完全に除去することは難しく、とにかく予防が肝心だ。

日本の住環境は、カビ天国

カビの胞子は目に見えないほど小さく、人間が生活している空間を普通に漂っている。最近のカメラやレンズはクリーンルームで組立てているので昔に比べると清潔になり、レンズやカメラの内部にカビの胞子が入り込むことは少なくなった。だが撮影時にズーミングやピント合わせなどを行うとレンズ全体が伸縮し、空気と一緒にカビの胞子を吸い込んでしまう。

カビは胞子のままでいる限り問題は起こさないが、一定の条件が整うと菌糸を伸ばし始める。その条件とは60~95%の湿度と摂氏20~38℃の温度。温帯に位置する日本列島は、冬を除いて1年のほとんどがこの条件に当てはまる。さらに最近の日本の住環境は冬でも暖房がゆき渡ると同時に密閉性が高まり、湿度もそれほど下がらない、まさに現代の日本はカビ天国なのだ。

6月初旬、梅雨入りしたばかりの室内の温/湿度計(関東地方)。湿度60%程度なら、人はそれほどジメジメした感じを受けないが、カビにとって絶好の繁殖条件だ※画像をクリックして拡大

カビは予防が大切

湿度と温度。どちらかを絶てば、かなりの確立でカビを予防できる。自分でできる一番簡単な方法は、カメラを良く使うこと。屋外に持ち出して使うことで虫干しができ、機材の乾燥状態が保たれる。後で詳しく説明するが、機械式カメラの場合、カメラを操作することで潤滑油が各部に行き渡り、メカのトラブルを防ぐ効果も期待できる。

それから撮影から戻ったらカメラバッグから機材を取り出す習慣を身に付けよう。速写ケースや茶筒型のレンズケースは湿気を貯めやすいので、入れっぱなしは言語道断だ。また雨の日に撮影した場合は、帰ったらすぐに機材をバッグやケースから出して乾いた布で拭き、風通しの良い場所で乾燥させること。このほかレンズの表面に指紋が付いたり、唾が飛んでいたりすると、カビにとって絶好の栄養源になってしまう。さらに海辺で撮影した場合、機材に付着した塩分がサビの原因になるので、水に濡らした布を硬く絞りカメラボディやレンズ鏡筒を拭くことも忘れずに。

何度も言うがカメラバッグやケースはカビの温床になるので、絶対に機材を入れたまま放置しないこと。あくまでも持ち運び用と割り切るべきだ。

カメラ全体をすっぽり覆う速写ケースや茶筒型のレンズケースは湿気が貯まりやすく、カビの温床になる※画像をクリックして拡大

カビを確実に防ぐなら防湿庫

カメラ店の写真用品売り場に行くと、たくさんのカビ防止グッズが並んでいるが、なかでも最もカビ防止効果が高い商品は防湿庫だ。透明な扉が付いたスチール製ロッカーのような本体に庫内の湿気を外に逃がすドライユニットが付いた仕組みで、庫内の湿度を常に40~50%に保ちカビの発生を防ぐ。

一眼レフが6~8台収容できる普及タイプでも2万円台からと、写真用品としては値が張るがカビを生やさないための保険と考えれば決して高くない買い物と言えるのでは?また防湿庫には、様々なサイズが用意されているが、私の経験では内容量100lクラスの中型以上がお勧め。もちろん置き場所と予算が許せばの話だが、カメラ熱が高じると機材が増えることは必至。結局防湿庫を買い足すはめになり、「始めから大きめのものを求めた方が安上がりだった。」と後悔している知り合いが私の回りには大勢居る。私の環境が特殊であることは今さら否定しないが、抑止力という意味で、あえて小型の防湿庫を選ぶのも賢明な選択と言えるだろう。

防湿庫は機材にとって最適な保管条件を提供。湿度を40~50%に保つことでカビだけでなくサビの発生も防いでくれる。またクラシックカメラなど本革が貼ってあるカメラは、湿度が下がりすぎると剥がれることがあるがこの点も安心だ写真はサンワサプライの防湿庫 200-SGSRY002BR_003BR 税込16,182円※画像をクリックして拡大

防湿庫以外にもあるカビ防止グッズ

防湿庫が必要になるほど機材が増える恐れがなければ、ドライボックスという選択肢がある。これは密閉型の容器とシリカゲルなどの乾燥剤をセットにした簡易型の防湿ケースで、原理は防湿庫と同じ。シリカゲルに湿気を吸わせて容器内の低湿度を保つが、シリカゲルは一定以上の湿気を吸うと乾燥剤としての役割を果たさなくなる。シリカゲルには青色の粒が混ぜてあり、これがピンク色に変わったら除湿効果がなくなった合図。電子レンジなどで加熱し復活させる必要がある。メンテナンスフリーの防湿庫に比べると手間が掛かるが、その分出費が低く押さえられるメリットがある。

このほか気化させた薬剤でカビの増殖を抑えるカビ防止剤もある。なかでもフジカラーカビ防止剤(カビシャット)は、お菓子の袋に入っている乾燥剤のような小袋を機材と一緒に密閉容器に入れるだけという手軽さから、1970年代の登場以来、今でも販売が続く超ロングセラー商品だ。説明書には小袋から10cm以内が有効範囲で、交換の目安は1年と記されているが、容器の大きさや開け閉めの頻度で寿命が変わるので早めに取り替えると安心だ。なお除湿機能はないので、シリカゲルなどの除湿剤と併用するとより高いカビ防止効果が期待できる。

ドライボックス乾燥剤を乾燥させたり交換する必要があるが、手間さえ惜しまなければ低予算でカビが防止できる。また内部の湿度がひと目で分かる湿度計付きの商品がお勧めだ写真はハクバ ドライボックス AG+ 9.5L 希望小売価格 税込5,115円※画像をクリックして拡大
フジカラーカビ防止材機材と一緒に保管するだけでカビ予防ができる。5g入りの小袋が10袋入って500円前後とコストパフォーマンスの高さは抜群だ※画像をクリックして拡大

カメラのメカトラブルを避けるには

カメラやレンズの可動部分には潤滑油が使われている。特に機械式カメラの場合、長い間、カメラを使わないと潤滑油が原因でトラブルが起こることがある。なかでも数十年も前に製造された機材は、適切なメンテナンスを怠ると潤滑油が固まりやすいので注意が必要だ。専門業者にオーバーホールを依頼して潤滑油を入れ替えるのが最も確実な解決方法だが、1ヵ月に一回程度、フィルムの巻き上げ操作をしたり空シャッターを切れば潤滑油がカメラのメカニズムに行き渡り固着を遅らせることができる。

カビ防止の項で、カメラを良く使うことがカビから機材を守る最善策であると説明したが、メカニズムのコンディションを保つという意味でも、たいへん理にかなったカメラとの付き合い方と言えるだろう。

実際にフィルムを入れて撮影しなくても、定期的に空シャッターを切ったり、レンズのヘリコイドや絞りリングを回すだけで、メカニズムのトラブルを防ぐことができる。またしばらく撮影の予定がなければ、液漏れによる被害を防ぐため電池を抜いておこう。特に水銀電池と単3型乾電池は液漏れしやすいので注意したい※画像をクリックして拡大

中村文夫|プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーをして独立。カメラ専門誌やWEB媒体のメカニズム記事執筆を中心に、写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深い。

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