引退競走馬が警察に「くら替え」 30周年の京都「平安騎馬隊」、その役割とは

京都御苑をパトロールする平安騎馬隊(1月20日、京都市上京区)

 2月に発足30周年を迎えた京都府警の平安騎馬隊。祭りの警備や児童の見守りなど幅広い任務に当たる。活動を支えるのは、華々しいレースの舞台を退いた元競走馬だ。ファンの期待を乗せて駆けた優駿たちは、警察と市民をつなぐ騎馬隊へとくら替えし、「第二の人生」を快走している。

 森に囲まれた牧場に子どもたちの歓声が響いた。平安騎馬隊の乗馬体験会が1月27日、京都市左京区の宝が池公園内にある隊舎であった。約300人の親子連れらが馬に乗ったり顔をなでたりして、和やかな雰囲気が広がった。

 騎馬隊の活動を支えるのはレースを引退したサラブレッドたち。1994年の設立以降に在籍した35頭のうち、29頭は日本中央競馬会(JRA)の寄付によって集められた。京都の山にちなんだ名前を付けられ、第二のキャリアを歩む。

 隊歴2年の大文字号は、過去に「タールタン」として重賞レースに4度入着した実力馬だ。「フィールドイレブン」から改称した小倉号は、地方競馬で132戦に出走。同隊に移ってからは、穏やかな性格で数々の任務をこなしてきた。

 競馬の世界では花が開かなかった馬もいる。鞍馬号は「アポロユウシャ」として2歳9カ月でデビューしたが、走ると呼吸がしづらくなる喘鳴(ぜんめい)症を患った。競走馬としては致命的な病気で、3戦で引退。馬主に手放されたが、3歳5カ月で入隊すると、騎馬隊の一員として才能を発揮し、次のリーダー候補として期待されている。

 サラブレッドの体つきや性格は本来、乗馬には向かないが、訓練を重ね、長時間の任務に就く忍耐力や人への信頼を積んでいる。JRAの乗馬指導員も務めた平安騎馬隊の調教師長谷川雄二さん(71)は「暴れて人に危害を加えることは絶対に許されない。日本トップクラスの馬術訓練を受けている」と胸を張る。

 日本馬事協会の統計によると、1年間の引退馬の数は、中央競馬と地方競馬を合わせて約1万頭。競走馬は酷使され、足を故障して殺処分されることも多い。長谷川さんは「平安騎馬隊の馬のように、20歳を超えても元気に動けるのは、幸せなことだ」と話す。

 競馬ファンのカメラマン北岡清さん(71)=大津市=は約20年前から同隊を撮影してきた。「引退した競走馬の老後は厳しいと聞くが、騎馬隊として活躍してくれるのは、とてもうれしい」と笑顔を見せる。

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 平安騎馬隊 京都府警が1994年、平安遷都1200年を記念して設立。府警によると、警察の騎馬隊は府警のほか皇宮警察と警視庁の3組織のみ設置されている。府警では警察官10人、馬5頭が所属し、防犯行事のほか、葵祭や時代祭の祭列を先導する役割も担う。

 

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