災害時の情報獲得で存在感…ラジオ 自治体、局間の連携進む 「安心感届けたい」気象・生活情報を相互カバー、人員・設備丸ごと移行も想定

昨年の県の防災訓練の中で、姶良市と協定を結んだあいらFMは、臨時災害放送局の立ち上げ訓練を行った=2023年5月、姶良市(同局提供)

 能登半島地震に限らず、災害で停電や電波障害が発生すると、テレビやインターネットなどの情報に接することが難しい状態が続く。そうした環境下で情報発信・獲得の手段として存在感を示すのがラジオだ。鹿児島県内のラジオ局やコミュニティーFMは、局同士や自治体との連携で万一の事態に備えている。

 県内に拠点を置くラジオ局には県域で放送するMBC南日本放送(鹿児島市)のMBCラジオと、市町村などの単位でFMラジオを流すコミュニティー放送がある。県内のコミュニティーFMの数は15局と、全国で5番目に多い(2023年12月現在)。10年の奄美集中豪雨では、あまみエフエムが5日間24時間体制で情報を送り続けるなど力を発揮した。

■臨時局に移行

 県内の全コミュニティーFMは、災害時に通常放送を休止して防災に関する情報を流すなどの協定を、放送エリアの自治体と結ぶ。

 17年に開局した姶良市のあいらFMも、同市と協定を締結した。臨時災害放送局の開設が求められた場合は同局の人員と設備をそのまま移行することを想定。上栫(うわがき)祐典代表取締役(44)は「昨年の県の防災訓練の中で、臨時局の立ち上げ訓練をした。起こりうる事態に備え、準備と覚悟はできている」

 局間の協力も始まっている。MBCラジオは11年のFMうけんなどを皮切りに、災害時の放送協力に関する申し合わせを結ぶ。16年からは「災害情報パートナーシップ」という覚書に名称を変え、現在では県内13の地域放送局と、災害時のスムーズな連携を目指す。MBCの気象予報士が電話で気象解説をしたり、災害発生時の道路交通情報や生活情報を共有したりと、相互にカバーする内容だ。

 また、年に一度梅雨前に、MBCに地域放送やケーブルテレビなどが集まって、県内メディア防災会議を開催。その年の雨の傾向などについて学び、災害時の対策を話し合っている。MBCの切通啓一郎編成局長(52)は「災害時だけでなく、日頃からつながりを持つことが大切」と話す。

■安心感届ける

 一方、各社が課題に挙げるのが、放送に必要な電源の確保だ。MBCは災害時の非常用バッテリーや発電機を常備し、定期的に点検する。しかし、能登半島地震では停電が1カ月続いた地域もあった。MBCの担当者は「ここまで長引くと、放送が厳しくなる可能性が高い」と話す。

 能登半島地震では、送信所に電源と燃料が供給できず、テレビもラジオも届かない地域もあった。上栫氏は「あいらFMの送信所は鹿児島市の高台、牟礼岡にある1カ所のみ。能登のような災害時にたどり着けるか分からない」と危惧する。

 住民に少しでも情報を届けようと、県内では鹿児島市や姶良市など7市1町1村が防災ラジオの有償配布や無償貸与を行う。姶良市は約5000台を配った。

 上栫氏は「被災時には心安らぐ娯楽も必要。災害情報はもちろん、安心感を届けられる存在でありたい」と語った。

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