社説:予算案の衆院通過 能登復興を盾にとる横暴さ

 能登の被災地を「盾」にとるような横暴な国会運営というほかない。

 2024年度の政府予算案が衆院を通過した。憲法の規定により、衆院から参院に送付後、30日で自然成立する。年度内に間に合わせるには2日が期限だったため、国会を土曜日に開く異例の形になった。

 前日には、自民党派閥の裏金事件を巡る政治倫理審査会も終わらないうちに、自民の予算委員長と議運委員長が職権で予算案採決に踏み切ろうとした。

 野党の抵抗で強行採決は避けられたものの、自然成立を理由に数の力で衆院通過を押し切った手法は、「参院不要論」にもつながる立法府の自己否定ではないか。

 能登半島地震からの復旧、復興のため、予算の早期成立が必要というのが政府、与党の言い分である。

 ならば、裏金事件の全容解明や再発防止にもっと早く、取り組むべきだったのではないか。

 衆院予算委の大半を自民不祥事の審議に費やすことになり、予算本体の議論が深まらなかった責任は政府、与党にある。参院の審議に向け、その身勝手な姿勢を改めねばならない。

 昨年末に発覚した裏金事件を巡り、岸田文雄首相は自ら派閥解散の口火を切った程度で、第三者による実態調査などに踏み込まなかった。国会開会後も岸田氏は、議員に2問だけ聞いた党のアンケートと、党幹部による聞き取り結果を追認するだけの答弁が目立った。

 政倫審の開催で与野党が合意しても、安倍派や二階派の幹部に出席を指示しなかった。審査会の公開を巡る迷走を招き、結局は自らの出席により、両派の幹部5人を導く「奇策」を講じた。岸田氏の党内求心力と指導力の低下は著しい。

 予算委では、盛山正仁文部科学相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から選挙支援を受けた疑惑も議題になった。解散命令請求の所管行政トップとして、不適格なのは明らかだ。

 112.5兆円に上る過去2番目の巨額予算案である。税収では賄えず、3割を国債(借金)に依存している。

 予算委では本来、防衛費「倍増」や「異次元」の少子化対策の財源について議論を深めなければならなかった。物価高への対応など、暮らしを再生する方策も不十分ではないか。

 何より、能登の被災地には深刻な課題が山積する。水道や道路の復旧、仮設住宅の建設が遅れ、今も1万人を超える住民が避難所で過ごしている。

 参院では、予算案の中身を徹底的に洗い出すことを求めたい。衆院とともに裏金事件の究明と対応の審議も欠かせない。

 統治力のなさを露呈する自民に、野党も足並みの乱れが見える。党利党略より、巨大与党をただす役割を果たすべきだ。

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