愛犬とのコミュニケーションを深める観察眼「視線編」

こんにちは。内田友賀です。

小学校での動物介在教育で、ハンドラーと介在犬として活躍するユニット(飼い主さんと愛犬)たちに、養成講座で伝えている大切なことがあります。

それは、飼い主さんの「観察眼」を磨くこと。

では、観察眼を磨くと愛犬との関係にどんな恩恵があるのでしょう?

今日は「愛犬を観察すると、コミュニケーションがもっと深くなる!」をテーマに、今回は「視線」で犬たちが日ごろから伝えてくれるボディランゲージを、お伝えします。

コミュニケーションに役立つ「観察眼」って?

そもそも、人と犬は異なる動物です。ですから、観察したことを単に人間の感覚や常識で判断すると、実は真逆だったということも起きてしまいます。

大切なのは、飼い主さんが犬という動物について知ること。「こういう行動をしたときは、こんな気持ち」という犬たちのボディランゲージを学ぶことから始まります。

それらの知識があって初めて「観察眼」が役に立つのです。

ですので、養成講座では小さな愛犬のボディランゲージを1つでも多くキャッチできるよう、飼い主さん自身がトレーニングを積むことを大切にしています。

全身で伝えている、犬たちからのメッセージ

犬のボディランゲージを知ると、日々の小さな行動にも愛犬からのメッセージが溢れていることに気づきます。

例えば飼い主さんからの提案やコマンドに対して、喜んでやりたいのか、仕方ないけど同意してくれているのか、嫌だと言いながら我慢しているのか、やりたくないと意思表示をしているのか。嫌だとしたら、タイミングが違ったのか、この環境が嫌なのかなど、実は色々とあるのです。

人間だって、そうですよね。

急に「ここに座って」と言われて、毎回必ず喜んで「はい!」と言えるわけではない。「なんで今?」とか「この椅子は冷たいから座りたくない」とか、毎回色々な感情があります。

犬だって、ロボットではありません。

時には犬たちに受け入れてもらわないといけない場合もあります。けれど、それが毎回である必要はないと思っています。だからこそ、命令ではなく「提案」の気持ちで向き合うことが大切。相手からの反応(ボディランゲージ)をしっかりキャッチすることで、お互いが納得できる違う提案方法が出来たりするのです。

愛犬は視線で何を伝える?

本来、犬という動物は視線の動きや感情を察知されないよう、黒目は大きく、白目があまり見えない構造になっています。そして、顔の向きを変えなくても広範囲が見えるようにできています。

そんな犬たちが、視線で自分の意思を伝えてくれることがあります。つまり、犬たちは「意図して見る」ということで、私たちにメッセージを伝えてくれているのです。

嫌な時、対象物を見る? それとも、見ない?

例えば、手足を触れられることや、爪切り・歯みがきを嫌がる愛犬の場合、嫌だという行動を、どのように表しているでしょうか?

触ろうとしている手に視線を向けて、歯を当てたり逃げたりしますか?

それとも、飼い主さんの顔を見たり、自身の顔を隠したりなど、嫌な場所は見ずに止めて欲しいと伝えますか?

実はこの「視線」によって、何が嫌なのかという違いが分かるのです。

(1)嫌な場所を見る場合

愛犬が、触ろうとしている飼い主さんの手を見ている場合、その手が自分の弱点に触れられる事に対して嫌だという意思を伝えています。つまり「そこは触ってほしくない場所だよ」という、部位に対するアピールです。

この場合は、どの環境でやっても同じ意思表示をすることが多いと思います。

まずは、「君の大切な場所を、私にも許してくれてありがとう」という関係値が持てることが大切です。少しずつ、敏感な場所に触れられ、受け入れていく経験を愛犬が積むことで緩和できるかもしれません。

(2)嫌な場所を見ない場合

愛犬が、対象物は見ずに嫌だと伝える場合、それは今はちょっと受け入れたくないという意思を伝えています。愛犬としては「今からやってもいい?」と事前の意思疎通が無かったと感じていたり、リラックスタイムやスキンシップなどの他のことをしたかった場合などで、「え? なんで今?」という感じでしょう。この場合「同意はしていないけれど譲歩するよ」という愛犬からの意思表示であることが多いと思います。

この場合も、「提案を聞いてくれてありがとう」という気持ちと共に、もし余裕があれば、愛犬が前向きに提案に乗ってくれるような、ワンランクアップのコミュニケーションが築けると素敵ですね。

(3)目をつぶる

これはもう「嫌の意思表示と譲歩の間(はざま)」の最上級版と言っても過言ではないかもしれません。犬自身が見ないことで、なかったことにする。もはや自分はここに居ないことにするという「無」の哲学の境地です。

こんな表情が見えたらそれはもう、“諦め”に近い意思表示でしょう。

稀にコミュニケーションの中で出てくることは悪いことではありませんが、この状況を何度も、しかも長時間にわたって与えてしまうと、愛犬は心を閉ざしてしまうかもしれません。愛犬が嫌だと言っていることをしっかり認識し、その後でストレスをリリースしてあげることが何より大切です。

観察眼の磨き方

視線によるボディランゲージを知るには、ネガティブな心理状態の時の方が分かりやすいと思います。日ごろの生活で、愛犬が「嫌だ」という意思表示をしたとき、その視線を観察してみてください。視線の先を追う事で、愛犬が嫌だと感じている対象物や、小さな心の動きを知ることができるかもしれません。

また、「オスワリ」などのコマンドの時に、どこを見ているかもチェックしてみてください。飼い主さんの目を見ずに手ばかりを見ていたら、もしかするとご褒美目当てかもしれません。

とはいっても、観察眼を身に着けるのは一朝一夕にはいきません。泣いている赤ん坊を見て、なぜ泣いているのかが分かる母親くらい、日々の観察やコミュニケーションの積み重ねが必要なのです。

でも、そうやって愛犬と心を通わせる時間が、何より大切なのです。そして、それと同時に「あなたの視線」を愛犬がよく観察してくれていることにも、きっと気づくと思います。

Lots of love.

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