外見で判断できない聴覚障害 生きやすい社会に必要な環境とは

阪神高速道路の兵庫地区における料金収受会社の阪神高速トール神戸株式会社(以下、トール神戸)は1月31日、神戸市中央区にあるマークラー神戸ビルにて、スタッフ向けに無人料金所における聴覚障害者の対応についてのセミナー(手話出前講座)を開催した。

講師には、兵庫県立聴覚障害者情報センターで管理者を務める岩本吉正氏(以下、岩本氏)。岩本氏は、聴覚障害者にはどのような人がいて、どのようにコミュニケーションをとることが大切なのか。自らも聴覚障害がある経験も踏まえ解説した。

※なお、当日は通訳の方が同席。岩本氏の手話とスライドに合わせて通訳の方が説明を行った。

兵庫県立聴覚障害者情報センター 管理者 岩本氏

■良好なコミュニケーション形成に

2024年2月21日現在、阪神高速道路では50カ所の無人料金所があり、このうち兵庫県内22カ所の無人料金所での遠隔による顧客の案内をトール神戸が担う。

無人料金所では料金自動収受機(以下、MIC)で現金収受などを行っており、顧客からMICの利用方法などについて問い合わせがあれば、遠隔モニター画面を通して案内している。MICによる案内は、スタッフによる音声を主体としており、聴覚障害者とは筆談やあらかじめ用意したボードを用いて行うが、コミュニケーションが取りづらい状況であった。

今回、このような状況を改善するためセミナーを開催。スタッフに手話技術の習得、また、聴覚障害者への理解を深め、通行料金の収受に際しての聴覚障害者との良好なコミュニケーション形成を目的に行われた。

■聴覚障害は人によりさまざま

聴覚障害者と聞いて、どのような人を思い浮かべるだろうか?

聴覚障害者は外見から障害の状況が判断できない。理解してもらえず、誤解されたりすることもある。

岩本氏は、聴覚障害の度合いは人によってさまざまだと説明した。失聴時期、聞こえ程度、受けた教育や環境。また、聴覚障害者によって時期(高齢時など)や受け止め方が違うとのことだ。

さらに、聴覚障害者は以下4つの種類があり、ぜひ存在を知ってほしいと話す。

1.ろうあ者:

生まれたときから耳が聞こえない。主に手話でコミュニケーションとる。

2.重複聴覚障害者:

聴覚障害に加え、視覚障害、知的障害などの障害を重ね持った障害のこと。

3.難聴者:

音は聞き取れるが音声の判別が難しいなど。健聴者といると精神的苦痛を伴う人も多い。

4.中途失聴者:

言語は聴力を失う前に習得しており問題ないことが多い。聴力がないので精神的に不安定な人が多い。

■3つのコミュニケーション

聴覚障害は程度や聞こえのタイプの違いなどもあり、必要となるコミュニケーション方法にも個人差がある。岩本氏は、聴覚障害者とのコミュニケーションの手段として、基本的には3つあると説明した。

1.口話(発音・発語と読話)

・発音、発語指導(訓練)

・読話・・・相手の話の口形・表情・文脈など

・似たことばが多く、困ることが多い(例:電卓、洗濯)

2.筆談、要約筆記

・文字を書いて伝える(紙とペンなど)

・空間に書いて伝える(空書)

・手のひらに書いて伝える(大事なことを短く簡潔に書くことが大事)

3.手話、手話通訳

・目で視ることば

・手話通訳者・・・聞き取り、読み取り通訳(コミュニケーション支援=仕事)

岩本氏は、現状の筆談方法の補足について「最近では、スマートフォンが普及しました。メモ機能を使い、文字を見れば筆談することができます。聴覚障害者とのコミュニケーションをとる場合は、どのようにしたらコミュニケーションがとれるのかを考えていただければ」と、聴覚障害者への対応について協力を求めた。

また、「手話の他にも、身振り手振りでも伝わります。もちろん、手話の方が幅広い表現ができますので、ぜひ覚えてもらえるとうれしいです」と、手話の必要性について説明した。

■操作手順のわかる機械に

次に岩本氏は、無人料金所にあるMICで、実際に困惑した体験について語った。

無人の高速道路料金所

(イメージ画像)

岩本氏は、実際にMICを使用したときに、「機械だけを見ても操作手順がわからないんです。障害者手帳をどこに出すのか、上のカメラなのか、どのように見せればいいのか、それもわからなかったんです」と話す。

そのため、聴覚障害者に対応した機械を作るときは、「実際に聴覚障害者の方に確認してもらい、問題なく操作ができるのかなどを考えて作る必要がある」と岩本氏は強く訴えた。

最後に岩本氏は「どこに行くときでも、少しでいいので手話ができる人がいてほしいなと思います」とし、続けて「私たちが何に不便、何に困っているのかをみなさんに知っていただきたい。そしてそれを広める運動もしていく」と、聴覚障害者が生きやすい社会にしていくための活動を、今後も継続していくと締めくくった。

(取材・文/井口 昭彦)

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