「今は怖さがそれほどない」対峙した堂安律が語った“バイエルン低迷の理由”「今までは...」【現地発】

11連覇中の王者バイエルン。世界トップクラスの選手をそろえ、チャンピオンズリーグでも常に優勝候補に名を連ねる。多少調子が悪かろうと、ここぞという試合では最大限の集中力と爆発力で勝利をもぎ取ってしまう。

そんなバイエルンらしさが今季は感じられない。24節では日本代表MF堂安律がプレーするフライブルクとのアウェー戦に臨んだが、特に前半の30分間はひどい出来だった。相手へのマークは緩く、チームとしてスペースを埋める動きもコミュニケーションもない。勇敢に自陣からボールをつなごうとするフライブルクにあまりにもあっさりと前進を許してしまう。

12分にフライブルクのキャプテン、クリスティアン・ギュンターが強烈な左足シュートで先制点を奪うわけだが、時計の針を戻せば、まずセンターライン付近でのフライブルクのスローイン時の守備がまずよろしくない。ボールをもらいに下りてきた相手FWルーカス・ヘーラーに攻撃の起点を作られてしま、スローインからのボールを右足ダイレクトで右サイドへとサイドチェンジされた。

元ドイツ代表キャプテンのバスティアン・シュバインシュタイガーが「先制点はヘーラーの素晴らしいアクションから生まれた。みんな見たほうがいい。スローインからはこうやって起点を作るんだ」と称賛するほどのプレーではあったとはいえ、バイエルンの守備はいただけない。マークの緩さ、サイドチェンジを許すポジショニングのまずさ。思わずトーマス・トゥヘル監督がベンチを飛び出して嘆いていたのが印象的だった。

選手間のバランスがとにかく悪く、右SBで起用されたドイツ代表ヨシュア・キミッヒは常に孤立。1人で複数を相手に守ることを余儀なくされ続け、何度も同サイドからチャンスを作られてしまう。

35分には、マティス・テル、75分にはドイツ代表ジャマル・ムシアラが卓越した個人技からそれぞれゴールを決めた。もちろん弱くはない。でも、圧倒的な力は感じられない。

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試合後の記者会見で前半のふがいなさについて聞かれたトゥヘルは、訥々と答えていた。

「(よくなかった)説明は私からもない。ポジションにおける規律がなく、情熱的なボディランゲージもない。軽率なミスが多い。引き分けで前半を終えられたことを喜ばなきゃいけない。後半はよかった。前半とは別のパフォーマンスだった。より規律正しくプレーをして。逆転にも成功。ただロングスローからの不運なゴールで同点にされてしまった」

メディアの前で冷静に対応することは大切なことではあるが、だとしても熱が感じられないのは気がかりなところだ。どこか心ここにあらずの印象さえ受けてしまう。

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采配も裏目に出た。今季限りでバイエルン監督を退任することが決まった時、「これからは来季以降のことを考えて指揮を取る必要はない。カップ戦のつもりですべての試合に挑む」と話していたが、確かにその言葉通り1点差を守ろうと85分にはムシアラを下げて、フランス代表DFダヨ・ウパメカノを投入。でも守り切れない。相手の勢いを抑えきれなかった。

これまでにバイエルンと何度も対戦した経験がある堂安は、試合後に「バイエルンはいま調子が良くない」と話していたが、特にどこに感じているのだろう?

「圧倒的に個の能力の怖さが違いますね。自分がバイエルンとやって一番強く感じた時は、ザネいて、コマンいて、ニャブリがいてと、ウインガーに張られていた。今日はムシアラとテルとミュラーと、どちらかというと中に入ってプレーしてくるんで、比較的コンパクトにしやすいんですね、自分たちの陣形が」

25歳のレフティは「ただ、全盛期のときはロッベン、リベリーがいたりとか、コマン、ザネがいたりとか、外に張られていると、もうそこで完全に1対1になっちゃう。チームで守るというよりも、個人技で負けるような内容になっちゃうし、今まではその状況を作られていた。その怖さが今はそれほどない。そこが一番大きいですかね」と続けた。

ペップ・グアルディオラもバイエルンの監督時代はロッベンとリベリーを最大限活用する戦い方をしていたし、1対1で相手に脅威を与えるウイングがいる価値をいつも認めていた。それがバイエルンの怖さの象徴でもあった。負傷者続出とはいえ、ピッチ上に怖さをもたらす選手がいないというのはなんとも寂しい。

取材・文●中野吉之伴

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