【プロランナー川内優輝】アスリートの妻は2度の流産を経験。3度目の妊娠で“妊娠9週の壁”を乗り越えて待望の長男が誕生!

「東北・みやぎ復興マラソン2023」ゴール後の侑子さんと、自分がゴール後に応援にかけつけた優輝さんと渉夢くん。

埼玉県庁で勤務しながら週末は"公務員ランナー"として全国の大会で走り、一躍有名になった川内優輝さん。現在はプロランナーとして活躍の幅を広げています。
トップアスリートとして活躍した妻の侑子さんとは2019年に結婚。2022年には長男の渉夢(あゆむ)くんが誕生し、にぎやかな毎日を過ごしています。そんな川内夫妻に3度目の妊娠で誕生した渉夢くんの出産エピソードを聞きました。全2回インタビューの2回目です。

【プロランナー川内優輝】1歳の息子をもつパパとしての顔。夢は息子と親子マラソンを走ること!

魔の妊娠9週の壁を乗り越えて生まれてきた長男

昨年の11月、1歳になった渉夢くん。

――2度の流産を経験し、3回目の妊娠で長男の渉夢くんを授かったそうですね。

川内侑子さん(以下敬称略、侑子) 夫も私も子どもがほしいと思っていましたが、初めの妊娠は心拍が確認できてすぐの、8週と6日で流産となってしまいました。そして、3カ月後くらいに2度目の妊娠がわかったのですが、そのときは子宮外妊娠でした。激しい腹痛の末に手術をするという残念な結果でした。そして、3度目の妊娠がわかったのはそれから5カ月ぐらいたってのことでした。妊婦健診で心拍を確認するまで夫と2人、ものすごく緊張していました。

川内優輝さん(以下敬称略、優輝) 最初の妊娠のときに、確認できていた赤ちゃんの心拍が、次の健診で確認できないという場面に立ち会い、ものすごくショックでした。3回目の妊娠がわかってから妊婦健診のたびにドキドキしていました。妊娠9週ごろに赤ちゃんの心拍が聞こえなくなるケースのことを医学的ではないけれど「妊娠9週の壁」というそうで、3回目の妊娠で9週の壁を越え、安定期に入ったときは本当にうれしかったです。この世に誕生できなかった2人の赤ちゃんが息子のことを守ってくれたんじゃないかなと思っています。

――悲しいことがあった上での3度目の妊娠、そして出産だったのですね。出産は安産でしたか?

侑子 出産前は陣痛がどれくらいの痛みかわからなかったので本当に不安でしたが、予定日の2日前の朝に陣痛が始まり、お昼ごろに産院に行きました。しかし、陣痛は遠のいてしまって・・・。微弱陣痛だったので翌朝から陣痛促進剤を点滴することになりました。
促進剤を投与してからの痛みは想像以上で、本当にきつかったです。お産は赤ちゃんが産道を回旋しながら進むと聞いていましたが、どうやら息子は顔の向きが逆だったようです。そこで、陣痛の痛みに耐えながら“はいはい”のような態勢になり、おなかをゆすると赤ちゃんの顔の向きが戻ると言われて、激痛に耐えながらはいはいの態勢を取りました。
そして、その日の夜に2900gで誕生しました。

無事に生まれてきてくれてありがとう

侑子さんは、渉夢くんはよく食べて夜泣きもなく、朝までぐっすり眠ってくれると言います

――立ち会い出産だったのでしょうか?

侑子 いえ、コロナ禍だったので立ち会い出産はできず、1人で出産しました。でも本当にきつかったのでかなり叫びました。その姿を夫に見られなかったのは逆によかったかな、と今では思っています (笑)

――優輝さんは立ち会いたかったですか?

優輝 立ち会いたい気持ちもありましたが、コロナ禍の対応で立ち会いできないことはわかっていました。だから予定日前後でも、遠征を入れていました。案の定、息子は遠征出発の前日の夜に生まれたので最初に息子の姿を見たのは妻が送ってくれた動画でした。
遠征から戻り、初めて息子を抱っこしたときは、その小ささに驚きました。こんなにも小さくてかわいいんだ、無事に生まれてきてくれて本当によかったと感動しました。

――侑子さんはようやく生まれた渉夢くんを胸に抱いたとき、どんな気持ちでしたか?

侑子 とにかくうれしかったです。生まれてきてくれてありがとうという気持ちでいっぱいでした。

――妊娠中や産後に、侑子さん側のトラブルはなかったですか?

侑子 母乳を出す腺が細いようで、産後に母乳が詰まりやすいのが大変でした。
妊娠中は、一度妊娠糖尿病の疑いがあると診断されたことがあって、食生活に気をつけている時期がありました。結局、再度検査したら妊娠糖尿病は大丈夫でしたが、「疑いがある」と言われてからどうしても気になってしまって、食事に気をつけたり、運動をしたりしていました。

自分の両親のような子育てが理想

2023年11月「東北・みやぎ復興マラソン」で侑子さんの激走に優輝さんも沿道から応援!

――アスリート家族として現在、食生活で気をつけていることはありますか。

侑子 私もアスリートだったので、本能的にタンパク質や多くの野菜をとれる食事を意識しています。息子の食事に関しては、遠征先だとどうしてもベビーフードに頼ってしまうことが多いので、自宅ではなるべく手作りしようと思っています。

優輝 離乳食が始まったころ、妻は自分の睡眠時間を削ってまで手作りで離乳食を作っていたのでとても心配していました。今は息子も1歳を過ぎたので、食べられるベビーフードの種類も増えて便利ですし、外食も少しずつできるようになってきました。そんなに無理しなくていいと思っているんです。

――夫婦で協力して分担している育児はありますか?

優輝 なるべくできる範囲でサポートしたいと思っていますが、とにかく妻が育児全般をやってくれるので私の出る幕があまりないんです(笑)

侑子 週末ごとに夫は遠征で留守にするので、ワンオペでも育児ができるようになっておいたほうがかえって自分が楽なんです。だから普段から私が息子の面倒をみることが多いですね。でも、夫が家にいるときには、私が家事をしているときに息子と遊んでくれるので助かっています。

いつかは親子マラソンに一緒に出場したい

遠征先にもいつも一緒の川内ファミリー。

――渉夢くんの名前はどなたが考えましたか?

侑子 夢や希望を持って世界に羽ばたいてほしいという願いを込めて私が候補として考えました。でも最終的にはいくつかある中から2人で相談して「渉夢」に決めました。

――渉夢くんの成長が楽しみかと思います。どんな男の子に成長してほしいですか?

優輝 私は元気で素直な子に育ってくれたらうれしいです。

侑子 今、夫の考えを夫の口から初めて聞きましたが、私もまったく同じことを考えていました。息子には素直な子に育ってほしいなと思っています。

――渉夢くんにもマラソンランナーになってもらいたいという思いはありますか?

優輝 息子が興味があるスポーツがマラソンだったらうれしいですが、なにかしらのスポーツを自分の心と体の健康のためにやってほしいなと思います。スポーツはいろいろなことを教えてくれますから・・・。野球やサッカーをやりたいと言えば、それはそれで応援します。

侑子 私は息子が自分でやりたいことを選んでそれに打ち込んでくれたら、それでいいなと思っています。スポーツに限らず、好きなことを見つけてほしいです。

――最近ではさまざまなスポーツで日本人選手が世界で活躍していて、わが子にもスポーツをさせたいと思っている親も多いかと思います。そんな方たちにメッセージをお願いします。

侑子 スポーツに限らず、芸術、音楽でも子どもが楽しんでやることが大事だと思います。そして、好きになることも長く続ける秘訣だと思います。

優輝 スポーツを始めるきっかけは親がすすめたからでもいいと思いますが、ある程度の年齢になったら子どもの気持ちを尊重しながら応援してあげてほしいです。そして、どんなスポーツでもけがをしない丈夫な体がいちばん大事です。幼児期からバランスのいい食事を心がけ、健康な体を作る「基礎作り」を手助けしてあげてほしいと思います。そして、スポーツから得られる経験はたくさんあります。家族みんなでスポーツを楽しんでほしいです。

お話・写真提供/川内優輝さん、侑子さん、あいおいニッセイ同和損保 取材・文/安田ナナ、たまひよONLINE編集部

2人の女の子のパパ、田村淳さん。「遊びを生み出す楽しさは母ちゃんから教わった」親子の大事な話は“階段の10段目”で。

女性アスリートの妊娠・出産への課題について取り上げられることもありますが、侑子さんが渉夢くんを授かるまでの道のりもとても大変だったようです。優輝さんと渉夢くんの親子マラソンが楽しみです。

川内優輝さん(かわうちゆうき)

PROFILE
1987年生まれ、東京都出身。両親にすすめられ小1のときにマラソンを始める。学習院大学では箱根駅伝に関東学連選抜チームで2度出場し、大学卒業後、「楽しく走る」をモットーに埼玉県庁の市民ランナーとして活動する。14年仁川アジア大会銅メダル、17年ロンドン世界陸上9位、18年ボストンマラソン優勝などの好成績を収め、現在は「あいおいニッセイ同和損保」所属のプロランナーへ転向。趣味は「旅行」と「マラソン」。

川内侑子さん(かわうちゆうこ)

PROFILE
1985年生まれ、岐阜県出身。高校時代、1500mと3000mでインターハイに出場。三重大学に入学後は、日本学生女子ハーフマラソン選手権で優勝。2008年に参加したニューカレドニア・モービル国際マラソンで川内優輝と出会う。大学卒業後はデンソーに所属。2010年世界クロカン日本代表。2013年の熊日30 kmロードレース、2017年函館ハーフマラソン、2019年のバンクーバー・マラソンで優勝をはたす。2019年に結婚、2022年に長男を出産。

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