『厨房のありす』門脇麦と永瀬廉の感動的な抱擁 ありすの“心からの祝福”が倖生を救う

誰にでも年に一度訪れる誕生日。その日を祝われることは、自分が生きているのを許されることと等しい。『厨房のありす』(日本テレビ系)第7話では、和紗(前田敦子)の第3子が誕生。それは25年前、ありす(門脇麦)の大切な人がこの世に生を受けた日だった。

「私は倖生さんが好きです」
「俺もありすのことが好きだ」

満を持してお互いの気持ちを確かめ合ったありすと倖生(永瀬廉)。次の日、なんだか気まずくてぎこちなくなってしまう二人がかわいくて、こちらまで幸せな気分になる。だが、その幸せは長くは続かなかった。何者かがSNSで倖生のことを「横領犯の息子」「窃盗で逮捕歴もあるやばいやつ」と書いた投稿が拡散されてしまったのだ。

そのことを知った倖生はすぐに荷造りを始める。必死に引き留めるありすのことも急に突き放し、好きだと言ったことも嘘だと冷たく言い放つ倖生。そんなはずがないことは、今までの彼を見ていたら分かる。けれど、取りつく島もないほど、倖生はすっかり心を閉じてしまったみたいだ。

事実、倖生には逮捕歴があるが、それは職場の同僚から財布泥棒の濡れ衣を着せられただけだった。五條製薬の元研究員だった父・晃生(竹財輝之助)の横領も疑惑でしかなく、たとえ事実だったとしても息子の倖生には関係ない。けれど、倖生は不遇な人生をどこか仕方ないと受け入れ、幸せになることを最初から諦めている節がある。まるで、それは自分が受けるべき罰かのように。

今回、ついに明らかになったのは、倖生がありすの家に来た理由だ。横領疑惑をかけられ、自ら死を選んだ晃生の葬儀で倖生は母親から、晃生に愛人がいたことを聞かされる。母親の言う晃生の愛人とは紛れもなくありすの父・心護(大森南朋)のことで、二人は別れてからも頻繁に手紙でやりとりしていた。さらに心護は晃生の気持ちを利用し、金を無心し続けた上に横領までさせていたというのだ。

ありすの家に来たのは、そんな心護への復讐が目的。倖生からその事実を直接打ち明けられたありすは、ショックを受ける。真実を確かめようにも、心護は出張中でいない。倖生の不幸の上で恵まれた生活を送っていたかもしれない自分を責めるありすを支えてくれたのは和紗だった。幼い頃から自分を守ってきてくれた和紗はありすにとって親友でもあり、家族でもある。それは和紗にとっても同じ。支え合いの精神に溢れた両親に育てられた和紗は身重の体を顧みず、家族同然のありすを支える。

だが、金之助(大東駿介)の不安が的中し、和紗の体調が急変。胎盤が剥がれ、母子ともに危険な状態に。金之助は和紗が死んでしまうのではないかと不安がる息子たちの前で気丈に振る舞う。そんな中、息子たちと同じようにうろたえるありすを見て、彼女にも自分のような存在が必要だと思ったのだろう。心の余裕なんてないはずなのに、倖生に連絡を入れてくれた金之助。彼もまた正真正銘、三ツ沢の人間だ。

金之助から連絡を受けた倖生は百花(大友花恋)と食事中だったが、一目散にありすのもとに駆けつける。倖生がありすのために走るのはもう何度目だろう。ありすは晃生の父親を死に追いやったかもしれない心護の娘。けれど、そんなことは抜きにしてありすが困っている時はそばにいてあげたい。その思いが倖生を走らせる。和紗は元気に女の子を出産したが、大切な人が死の淵に立たされたことで、ありすもまた倖生が失いたくない大切な人であることを実感した。

その日、倖生は25歳の誕生日だった。ありすは帰宅後、倖生のために料理を作って誕生日をお祝いする。自分はゲイである晃生が世間体のために結婚して生まれた子供。だが結局、晃生は心護のことが忘れられないままこの世を去り、母親は無理をして働き続け、体を壊して亡くなった。自分が生まれてきたことで幸せになった人はいない。そんな業を背負って生きてきた倖生は、ありすの心からの「お誕生日おめでとうございます」に大げさではなく救われたのではないだろうか。倖生がありすの家に来たのも、復讐のためというより、本当は晃生に愛されていたという一縷の望みがあり、それを確かめにきたのではないか。だとしたら、「一緒に向き合いたい」というありすの言葉も心強かったはずだ。

翌日、出張から帰ってきた心護に話を聞くありすと倖生。心護が「全部濡れ衣だった」と語る晃生の横領疑惑の真相がついに明らかになりそうだ。

(文=苫とり子)

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